表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/42

14 イヌの星の王子さまって、どうなんだよ

 トラクタービームは解除されたものの、是非ぜひアヌビス星に立ち寄って欲しいというケント王子の要望を断れず、おれたちは首都ドンドのヒズロ宙港に着陸した。

 ややこしいことにならぬよう、チャッピーと二人のドラード人の子供は人工冬眠のままジュピター二世号に残し、おれたちは宙港に降り立った。

「ずいぶん寒いわね。それに天気も陰鬱いんうつだわ」

 白いネコ耳型の自動翻訳機を付けたシャロンが、タラップを降りながら、早速さっそく文句を言った。

「そうじゃのう。年寄りには寒さがこたえるわい」

 パピヨン犬のようなフワフワの大きな耳を付けた荒川氏も同意する。申し訳ないが、全然可愛かわいくない。

「逆に、バステト星は温暖な気候で、快晴の日が多いそうですよ。残念だなあ。わたしも寒いのは苦手なんですよ」

 テリアのような耳を付けたプライデーZが震えた。って、どうしてロボットが寒がりなんだよ!

「いいから、とにかく早く下に降りよう」

 ビーグルのタレ耳を付けたおれは、くぐもった声で言った。なぜ声がこもるかと言えば、骨伝導こつでんどうひろったおれの声をアヌビス星語に変換して出力する際、タレた耳が邪魔じゃまになるからである。だったら、どうしてこのデザイン?

 タラップの下には、送迎そうげいのリムジンが待っていた。

 運転席からベストを着た、でっかいモップが出て来た。いや、モップではない。白っぽい毛がドレッドヘアのようになったコモンドール犬に似た、アヌビス星人だ。

「ようこそアヌビス星へ。わたくしはケント王子の執事しつじつとめさせていただいております、ジョンと申します。お見知り置きを。これより迎賓館げいひんかんまでお送りいたします。どうか、ご乗車ください」

 リムジンの中は、豪華ごうかな応接間のようなつくりになっていた。一応、運転席とは遮断しゃだんされているが、念のため自動翻訳機をはずして、日本語で密談することにした。

「とにかく、おれたちの正体しょうたいがバレないよう、上手うまいことはぐらかして、早々にバステト星へ移動しよう」

 おれが提案すると、シャロンが「でも、あたしは国立演芸場こくりつえんげいじょうに出たいな」と不満げだ。

「出て、どうすんだよ! そんなの、ダダスベリになるに決まってるだろ!」

 すると、いつもは仲裁役ちゅうさいやくの荒川氏が、首をかしげた。

「そうかのう。結構、ウケると思うがのう」

「いやいや、ウケねらって、どうすんですか。おれたちの目的を忘れないでくださいよ」

 プライデーZが、「はい、座長!」と手をげた。

「おれが座長か。まあ、いいけど。で、何だよ?」

「わたしに、ステージで歌わせてください! アリのママと〜、ハチのパパがいるのよ〜」

「ミュージカルかよ! どうしてみんな出たがりなんだよ!」

 そうこうするうちに、リムジンは目的地に着いたようだ。おれたちは、再び、イヌやネコの耳を付けた。

 モップが、いや、ジョンが、ほとんど目がどこにあるのかもわからないほど毛がれ下がった顔でドアを開け、「迎賓館に到着いたしました。王子殿下でんかがお待ちかねでございます」と告げた。

 地球で見たことのある迎賓館といえば日本のものしかないが、それよりも、さらにこじんまりとしている。

 おれの気持ちを察したらしく、荒川氏が小声で教えてくれた。

「長い戦争で、経済が疲弊ひへいしとるんじゃ。その意味でも、この一年の休戦は、恒久的こうきゅうてきな和平への第一歩だったんじゃがのう」

 中に入ると、星際会議ができそうな大広間の横を通り抜け、奥まった一室に通された。

 中には、略装りゃくそうのケント王子が、一人で待っていた。シェットランドシープドッグのような顔だが、もちろん、そこまで小さくはなく、地球人でいえば小柄な大人くらいである。

 執務用しつむようのデスクから立ち上がり、ニコニコ笑った。

「わざわざお出でいただき、ありがとうございます。ぼくが、アヌビス星第一王位継承権者おういけいしょうけんしゃのケントです」

 自分では平気だと思っていたが、本物の王子さまを目の前にして、おれはすっかりアガッていた。

「あ、ども、ども。ええと、おれは、あ、いえ、わたくしめは中野伸也と申します。こちらは、シャロン、荒川さん、そして、ロボットのプライデーZでございます。よろしくお願いたてまつりまする」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ささ、どうぞ、お好きな椅子にお座りください」

「あ、はいはい」

 横の応接セットの長めソファーに、おれを真ん中にシャロンと荒川氏が両脇に座り、不満そうだがプライデーZは横に立たせた。

 その向かい合わせの席にケント王子が座った。すると、急に笑顔を消し、さり気なく周囲をうかがっているようだったが、いきなり、こう切り出した。

「どうか、キャットリーヌ姫を助け出していただけませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ