2話 親鳥と雛鳥
「サラ先輩どうしましょう~」
扉が不機嫌な音を立てて閉まると、サラの後ろからかすり声がした。
その言葉と同時に、一斉にすすり泣く声が聞こえてくる。
「召喚陣や詠唱に不備などなかったように思えるが…何か異常はあったか?」
多少冷静さを取り戻したように見えるようにサラはいつもの口調で尋ねるよう努めた。
「「「「な゛に゛も゛あ゛り゛ま゛せ゛ん゛て゛し゛た゛~~」」」」
どうやら頼りになる先輩像に安心してしまい、魔女達は堰を切ったように泣き始めてしまった。
「こらっ!お前たち、私たちはボフマン王国の第一魔女小隊だぞ!
エリートたる私たちがそんなんでどうするっ!」
サラは自分まで巻き込まれないよう必死である。
「でも~
このままじゃあ最悪死刑になっちゃうかもしれないんですよ~
まさかほんとに家畜小屋に放り込まれたりしたら~
どうしたらいいんですか~」
「それをこれから皆で考えるのだ!!そんなすぐ死刑になるわけでもあるまい。
召喚した我らにしか原因究明と解決ができないだろう。
そういう風に話をもっていくしかない。
こんな事件の責任など誰も取りたがらないだろうしな。
今回のことは誰が悪いという事にはしない。
その代わり皆で乗り切っていくしかない。
私たちにはできる、やってみせようじゃないか!」
自ら涙目になりながらも尚気丈にふるまうサラの姿に少しずつ魔女達は落ち着きを取り戻していく。
「「「「お゛ね゛え゛さ゛ま゛ぁ゛~!!!」」」」
そう言って魔女達は一気にサラに駆け寄った。
「その呼び方はやめろといっているだろう、まったく」
そう言いながら、ぴいぴい鳴く小鳥たちに餌を与える親鳥のように、サラは魔女達の頭をやれやれという風に撫でていった。
「私たちも戻らねばなるまい、各自部屋に戻るぞ。集合には追ってまた連絡する。」
そう言ってサラは退出を促し、ふと男のほうへ振り向いた。
「まったく、できることなら私も赤ちゃんにもどりたいものだ」
ため息をつきながら扉まで歩き、再び振り向いて、手招きしながらこう言った。
「何をしている、早くこないと置いてくぞ」
そういうと男はハイハイしながらサラの元へと近寄って行った。
「…引っかからなかったか。もし歩いたら、振りをしているだけだとわかったんだが…。
しかたない、この中で一番背が高いのは…、ヒルデ、この男を部屋までおぶってやってくれ。
部屋についたらベッドに放り投げとけばいいから。」
男の持っていたであろうカバンを手にしたサラが言うと、魔女達の中でも頭一つ背が高いヒルデと呼ばれた短髪の魔女が男をひょいっと背負った。
「そんな不服そうな顔をするな。負傷兵の救護訓練とでも思えばいい。
私も一緒についてってやるから。」
そうサラに言われたヒルデの顔は、満更でもないような表情をしたのだった。
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ドサッ
部屋につくとヒルデは男をそのまま乱暴に放り投げた。
「サラ隊長、では戻りましょうか。」
「いや、まて。この男の衣服をまだ調べていない。脱がすぞ。」
サラから聞きなれない言葉を耳にしてしまいヒルデは後ずさりしてしまった。
「えっ…。わ、わたしはまだ男を知らないのでそういう事は…。」
「ばぶぅ~」
躊躇するヒルデを見て何でもないという風にサラの口が開く。
「なに、私もだ。さっさとするぞ。」
「た、隊長もですかっ。よ、よかったっ!」
尊敬する先輩の純潔を確認できたことで気を取り直したヒルデは貞潔なサラと共に男の衣服を脱がしにかかった。
「コートに、上着…おそらくスーツと呼ばれる服装だろう。
やはり以前召喚した者が来ていたスーツのスタイルとの違いはあるようだな。
どうやら小物がいくらか入っているようだ。後でじっくり調べねば…。
ああ、もう、他人の着ているボタンをいちいちはずすのがわずらわしいな、これくらい自分でやってほしいものだ。
まったく、なんなんだこの男は。それから…これは、まさか時計か!?
すごいぞ、特殊な金属でできているようだ。
こんなに光り輝く精密な時計は見たことがない!」
「やりましたねっ!死刑にならずにすみそうですか…?」
「ああ、恐らくな、これだけでも失態をかなり埋め合わせられるくらいの収穫になるかもしれん!」
「ばんぶぅーばんぶぅー」
嬉しさの余り二人はハイタッチをしたが、エリートらしく切り替えが早いのかまたすぐに作業に戻り、男のベルトをかちゃかちゃはずしはじめた。
「さてと、残りのズボンをはずしてっと。
ヒルデ、下着は私が脱がすから、お前は靴下を頼む」
このようにさりげなく気を遣うことでヒルデの心を鷲掴みにしているのをサラはまだ知らない。
「わかりましたっどぅえ!?!?くっさ!!隊長!
ひどいにおいがしますよっこれ!捨てちゃいましょう!」
鼻をつまんだヒルデはもう片方の手で靴下をつまみ表情で臭気を示した。
「いや、だめだ。所持品の処分は現時点で一切できない。
ゴミのような靴下だろうが。」
苦悶の表情を浮かべながらサラは男の下着に両手をかけた。
「例え下着であろうと、な。」
それを合図にサラは一気に男の下着を足元までずり下した。
「…ほお、立ち上がれはしないが勃ち上がりはするということか。」
まるでゴミでも見るかのような見下したまなざしを男に向けた後、用意していた替えの服を寝転がっている男に投げ渡した。
「ばぁぶぅ~…」
「…夕食の時間になったらまた来ます。それまでおとなしく寝といてください。」
それ以上意思疎通する気はないのだろう。ヒルデは冷ややかに言い放ち、男の服を抱えて二人は部屋を後にしたのだった。
第一魔女小隊一同「「「評価感想ブクマおねがいします!!!」」」