1話 召喚
「おお、われらに繁栄をもたらす異世界人よ!」
青白い光が放たれた後に現れた男の姿を見て、宝石を身に着け、さぞ高価であろう生地で仕立てられた衣服を身にまとう白髪まじりの初老の男は歓喜歓待の叫びをあげた。
「いきなり召喚されてさぞ驚いていることだろう!
だが、どうか我らに、知識や知恵を授けてほしい!
これまでの異世界人は、アラビア数字やノーフォーク農法、製紙、マヨネーズの調理法などなどを教えてくれた。
おかげでこの国は周りの国よりも発展し大国となりつつあるのだ。
ちなみに、残念ながら、そなたを召喚した隣に控えている侍女たちですら、そなたを元居た世界に戻すすべは未だもたない。
だが安心するがよい、私はこの国の貴族であり大臣である。
そなたの衣食住は責任を持って我が家で貴族待遇を約束しようではないか!」
一通り言い終えると、返答を確信したかのような顔で、敢えてたずねてくる。
「さあ、異世界人よ、返答はいかに・・・!?」
……………
……………
「バブゥーー」
…………………
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「「「へっ……??」」」
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「はっはっ、いやはや、異世界人よ、冗談はよしてくれ。どうみてもそなたは赤ん坊ではない。」
………
……………
「ばぁぶばぁぶぅー。」
…………………………
「おい、サラよ、いったいこれはどういうことだ。」
脂汗を垂らす大臣に、サラと呼ばれた後ろで青ざめた顔をした若い女が震えながら声をしぼる。
「え、えっと。」
「失敗したのか。」
「…………。」
「失敗したのかと聞いているっ!!」
ぎろりと睨まれ、余計に身体が固まってしまったが、サラの頭はかろうじて動いていたようだ。
「お、恐れながら、3つの可能性が考えられます。
1つ目は、召喚する際何らかの間違いが発生し、精神が赤ん坊に退行した可能性。
異世界人の知識や知恵が失われたも同然であり、最悪な場合となります。
2つ目は、言語の自動翻訳機能がうまく作動せず、彼の母国語がすべて赤ちゃん言葉になってしまった、もしくは赤ちゃん言葉のような言語が彼の母国語で翻訳機能が作動していない可能性。
これでしたらファーストコンタクトの外国人とやり取りするようなものなので、意思疎通は根気よく続けていけばなんとかなりそうですし希望はあります。
3つ目は、何も問題はないが、わざと赤ちゃんのふりをしている可能性。ですが、メリットがないため、これは正直可能性は低いかと。」
項垂れながら目頭をおさえて聞いていた大臣は口を開いた。
「まったく、異世界人の召喚は100年に一度しか行えないのだぞ!
つまりこのままだと我が国は100年の停滞を余儀なくされることになるっ!!
100年だぞっ!!!100年っっっ!!!!!
わかっておるのかぁっ!!!」
「も、申し訳ございませんっ。早急に対策を…。」
「当たり前だっ!!儂は自室に戻る。
異世界人はひとまず部屋まで連れていきメイド達と世話でもしとくように!!
事態が好転しなければブタ箱にぶち込まれることも覚悟しておけ!!」
ぶつぶつと頭を抱えながら退出する大臣を見送りながら、魔女たちは涙目で今後の自らの行く末を案じていたのだった。
赤ちゃんに戻りたいそんなあなたへ贈る心温まるハートフルストーリーにしていきたいと思っております(大嘘)