七話:DPについての考察からのリア充爆発しろ!
DPの獲得方法から、コレ放置無双のぬるゲーじゃんと思ったがそう上手くはいかないらしい。
まず第一に。
召喚した魔物は食事が必要だ。 食事はDP交換あるいは自分で作るか奪ってくる。
ダンジョン内の魔物からもDPを得られるけれど、ダンジョン内に満ちる魔素にたいして、魔物が発する魔素など微々たる物で、低レベのうちはほとんど関係ない。
また階層の種類によっては維持費用がかかることも分かった。
例えば火山型や雪山型など地形や天候が特殊な場合、またダンジョン内に色々施設を作れるがそれにも魔素を消費する。 DPで補った方が効率が良い場合がほとんどのようだ。
そしてこれが一番の問題なのだけど。
「放置はされないだろうなぁ」
そもそも放置されない。
だって、もしダンジョンが世界と繋がったら。
地上に魔物が現れる。
それも魔王の意思とは関係なくだ。
ダンジョンから漏れ出る魔素は地上に影響し、魔物を自然発生させる。 それだけじゃない、ダンジョンの近くの龍脈に影響を及ぼすらしい。 それがどういことかといえば、よくわからないけど、いいことではないと思う。
もし人類はダンジョンが最悪の癌であると知ったなら、その元凶が魔王であると知ったならば、残酷な人類は僕たちを放ってはおかないだろう。
「それに、もう魔物発生してるし……」
マップを見ていて気付いた。
まだ世界と繋がっていないのに、魔物が現れ始めている。
僕が場所を選択した時と同じタイミングくらいだ。
「それに、それになぁ……」
もし魔物が発生しなくても、魔王はきっと世界に飛び出す。
メニューにあった『魔王の集い』。
これっていわゆる掲示板みたいなモノ。 情報やアイテムなんかをオークションしたりできるシステムもあって、後で使ってみたいとはおもうけど今はいいや。
まぁその掲示板で、魔王の意見は三つに別れる。
・人類抹殺、世界は魔王のモノ
・人類共存、みんな仲良く世界は皆のモノ
・人類の出方しだい、とりあえず放置で力を溜める
人類抹殺派が半分くらい。
百万も魔王がいたらみんな強気になるよね。
それにあるいみ百万のチート持ち集団だし。
「ふん……」
ちょい悪オヤジに渡された本に記されたスキルはどれも強力そうだった。 僕の【ゴブリン縛り】とか意味わからんスキルと違って……。
そりゃみんな強気になるよなぁ。
「はぁ……さて、うちのゴブリンたちはちゃんと仕事してるかね?」
そう言って僕はコアルームから、ダンジョン地下一階層へと移動する。
今日で僕が魔王になって六日目。
その間やったことといえば、ダンジョン一階層の作成と、魔物召喚と眷属召喚をニ回。 あとは召喚したゴブリンに指示を出して、採取と簡単な菜園を作らせている。 ダンジョン管理は自給自足が重要です。 好きだったRTS系箱庭ゲームと感覚は一緒か。
後は魔王の集いを眺めつつ、マップによる監視。
「おいおい、世界がこんなでもデートですかぁ~~?」
クズ男がいつもの取り巻き女を二人連れてデートに向かった。
担任教師は学校か。
「チッ、チッィ……」
早く地獄を。
あの二人に復讐と、僕たち親子にこんな仕打ちをした世界に報復を。
嗚呼、早く……。
「ギャギャ」
「ん? あぁ、ご苦労さん」
ちっこい緑の子供。
ゴブリンがダンジョンから収穫した果物を持ってきた。
召喚したゴブリンは想像以上に小さく貧弱で醜悪な見た目をしていた。 しかし嫌悪感は抱かない。 僕もゴブリンになったからだろうか?
はたまた、僕の為に懸命に働く彼らに、人間なんぞよりも簡単に仲間意識を持てたことは必然なのかもしれない。
「うん、美味しい」
シャクリと食べた緑の果実は瑞々しく美味だった。
僕はダンジョンの一階層は森型フィールドを選択した。 必要なDPは2000。 洞窟型や平原であれば一階層は無料だったことを考えれば随分と高いものだ。 しかし、採取による自給自足を考えると、十分に元はとれるはず。 それに、フィールド効果による種族補正もある。
現在選択できる洞窟型、森型のフィールドにおいて、種族ゴブリンは能力上昇補正を受ける。
効果自体はそれほど大きくないようだけど、気休めは大事である。
ちなみに森型といっても、完全な森ではなく人が通る道を作る必要があった。 完全な森だったら攻略に凄い時間かかるんだけどなぁ。 でも草原より死角が多くてトラップも仕掛けやすい。 洞窟よりも食べ物やアイテムに恵まれている。 残念ながら自然動物はいない。 DPを消費して発生させることもできるけど、DPを消費し続けるタイプのオプションなので今は危険だ。
「よし! 訓練を開始するぞ――――レキ! こい!!」
僕は初めての眷属召喚で手にいれた眷属を呼び出す。
「ギヒヒ、呼んだかよ~主殿ぉ~?」
そいつはゆっくりとした足取りでこちらに向かい、僕を舐め腐った声で返事をした。
「呼んだに決まってんだろう!? さっさとこいーー!!」
僕の初めての眷属――レッドキャップのレキ。
赤い帽子を被った、ゴブリンだ。
「ギヒヒ。 こりないねぇ? またボコボコにしていぃかい、主殿ぉ~?」
なんて邪悪に笑うゴブリンだ。 おもわずその血のように真っ赤な瞳にぶるりとくる。
「今度こそ、ボコボコにしてやるーーーー!!」
僕は杖を振るうが当たらない。
「だから、杖はそう使うもんじゃないですぜ~主殿ぉ~」
ゴブリンの特殊型上位種であるレッドキャップ。 とくにその身軽さは他のゴブリンとは比べ物にならない、もちろん膂力も圧倒的なんだけども。 近接火力特化のレッドキャップのレキ。
僕の特訓相手は手に持った棒きれで容赦なく僕を攻め立てる。
「ぐっ、ぎっ! つぁっ!?」
打ちのめされた体は痛いが、眷属召喚でゴブリンが出てきた時の悲しみよりは痛くない。 そう、二回行った眷属召喚。 二回目は普通のゴブリン(2DPで手に入る)が出てきたのだ。 一回100DPもするっていうのにね!! ほんとガチャは怖いものだよ……。
「考え事ですかい~? 余裕すねぇっと!!」
「ぐほっ!?」
僕のうちこみはいなされ膝蹴りを腹に喰らわされた。
「ぐぅ……主に、少しは手加減しろぉ……」
「してますって。 主が貧弱すぎるんすよぉ~~」
事実、僕の耐久F-は魔王の中で最下位だろう。
一番高いステータスが魔力C-というのも泣ける話しだ。
「ゴブリン弱すぎぃーー!!」
魔王であっても、僕は決して強くない。
もちろん普通のゴブリンよりは強いけど。
「ダークソル!」
「おっと」
不意打ちで放つ闇の刃をいともたやすく躱すレキ。
チクショー!
僕は何度もレキに闇の刃を放つがすべて躱された。
「当たらなければ、どうということはないですぜぇ~主殿ぉ~」
「むきー!!」
僕はひたすらに、魔力が尽きるまで放ち続けるのだった……。
◇◆◇
本日の特訓を終えて、マップを見ながらゴブリンが採取してきた果実を食べる。 一見無駄に見える特訓だ。 けど新しくなった体の確認にはちょうどいい。 魔王の集いで公開されていた他の魔王と比べれば弱いが、人だったころよりは確実に能力は上がっている。 今ならきっとクズ男も殴り殺せるはずだ。
「くふふ、待ってろ、もうすぐだ」
後、23日もあるがな。
あぁ早く、このクソリア充ぶち殺したい。 僕は日課のマップによるクズ男の追跡を行っていた。 このクズ男今日はデートらしい。 しかも女二人だったのが三人に増えて家にお持ち帰りしようとしている。 あぁマジではやく殺したい。
僕はマップに穴が開くんじゃないかというほど、怨念を送っていた。
その願いが届いたか分からないが、一匹のゴブリンがクズ男の家の近くの路地裏に自然発生した。 ふらふらと歩く腰蓑に短剣を持ったゴブリンはクズ男の家のほうに向かう。
「あっ」
エンカウント。
クズ男とゴブリンが戦闘に入った。
「ああああっ、まてまて、ソイツは僕が、――――俺の獲物だからぁあああああああああああああああ!!」
と、思わず叫んでしまったが、何のことは無い。
一撃。
ゴブリンはクズ男の蹴り一発で倒されてしまった。
「……」
そういえば、あいつ格闘技をやってたらしい。 しかも中学の頃は有名だったとかなんとか。 ボッチだったからあまり詳しくないけど。
「っ!」
僕はダンジョンの位置を三之森高校の近くに設定してある。
そのおかげか、マップでは近辺であれば音声を拾えるのだが。
クズ男の家から漏れ出る音声が、僕の耳朶を貫いた。
『凄ぃ、しゅごいよぉ、隼人ぉおおおんーー♡』
僕はギリギリと歯を擦り合わせる。
『ゴブリンみたいに、殺されちゃうッーーーー♥♥』
僕は怒りに震えると同時、興奮していた。
クズ男たちのセックスで?
違う、もし僕が今そこに行けるなら、どうするのかを妄想して、だ。
「クカ、クカカッ! 待ってろ、もうすぐだぞ、もうすぐ……クカカカカ!!」
僕はゴブリン。
一日も早く、世界が繋がることを願う者。
また来週……ブクマが増えてたら……('ω')