五話:妄想の怪物
殺すべきだった。
僕は何度も、イジメの主犯であるクズ男を妄想の中で殺した。 それは社会的に、物理的に、この世から。 決定的な証拠を突き付けて退学に追い込む。 小さな僕が大きなあいつを何度も何度も殴りつけて、殺すんだ。 ……でも結局はただの頭の中の妄想で。 実際にはたいした抵抗もせずにイジメられてただけ。 イジメが酷くならないように、縮こまって耐えて、耐えて。 あぁ、そうだ。 僕は結局怖くて何もできなかっただけだ。
殺スベキダッタ。
「ゴ、ロ、ス……」
頭が痛い。
胸が痛い。
目から何かが流れて止まらない。
「コロス、コロス、――――コロス!!!!」
溢れる殺意。
煮えたぎる憎悪。
目の前は赤く、世界は紅に染まる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
僕はゴブリン。
「ゴ、ロ、ジテ――――ヤルゥウウウアアアアアアアアッ!!」
妄想の怪物になった。
≪デイリーボーナス、100DPを獲得しました≫
「!?」
頭の中で声が響いた。
無機質な機械のような声。
デイリーボーナス……怨嗟の叫びを響かせて一日が経ったのか。 マップに表示されたカウントダウン――残り、29日。
世界と繋がるまでの残り時間。
「ふぅふぅ、ふぅぅ……」
僕は大きく息を一つ吐いた。
「やってやる」
復讐を。
「ヤってやる!!」
報復を。
その為には力を知らなければ。 僕は魔王。 たとえゴブリンだとしても、力があるはずだ。
【ステータス】
名前:未設定(斎藤 命)
種族:アルビノ・ゴブリン
職業:童貞魔王
レベル:1
DP:10100
SP:0
力:F
耐久:F-
器用:E
敏捷:F+
魔力:C-
スキル:【闇魔法Lv.1】【雄叫びLv.1】【異種族繁殖Lv.1】【苦痛耐性Lv.1】
ユニーク:【ゴブリン縛り】【魔王の加護:ゴブリン】
ステータスを確認すると、DPが100増えていた。
あと【苦痛耐性Lv.1】を獲得している。 狭い部屋で頭が痛くなるのも気にせず叫び続けたから?
たしかに途中から痛みが少し減った気がする。
「スキル」
自然習得するらしい。
魔法も気になるけど、やっぱり一番は【ゴブリン縛り】か。 ちょい悪オヤジのろくでもない笑みが浮かぶ。 ろくなスキルのはずがない。
タップしてみると、内容が表示された。
【ゴブリン縛り】:すべてはゴブリンのために。
【魔王の加護:ゴブリン】:ゴブリンのゴブリンによるゴブリンのための魔王≪King of the Goblin,by the Goblin,for the Goblin≫。
意味が分からないよ?
スキルの説明ではなく、カードゲームにあるようなフレーバーテキストてきなやつかな。
つまり無意味。
「はぁ」
とりあえずスキルは放置。
次はダンジョンだ。
今は一部屋しかないこのダンジョン。 必要なのはコアルームと玉座の間、それに異世界に繋がる扉だったか。 つまり今はダンジョンではない? ただの異次元。 怖っ。 ゴブリンは異次元に取り残された。 と、ならないように早くダンジョンを創ろう。
≪コアと接続するためには名前が必要です。 名前を登録してください≫
ダンジョン作成を選択すると、名前を決めるように求められた。
魔王としての名前。
僕はこれから人を殺す。 殺め命を奪う。
「アヤメ・ミコト」
≪アヤメ・ミコトの魔王城を登録いたしました。 マップより世界に通じる地点を選択してください≫
玉座の間ととかないけどいいのだろうか?
とりあえずマップを開くと、先ほどまではなかった光点がいくつも表示されている。 それはリアルタイムで増え続けている。
「これは、他の魔王のダンジョン?」
光点の側には選択できない。 というより、表示すらできない。 近すぎる場所にはダンジョンを設置できないようだ。
「百万か」
日本にはどれぐらいの魔王がいるのだろう?
無数の光点に僕は疑問を封じた。
どうでもいい。 とにかく人間を、クズ男と担任に報復を。 それだけだ。
いや、違うな。
「あいつら……も、……くは、クカカカッ!」
僕の受けた屈辱と恥辱と苦痛を。
全てかえしてやる。
誰もいない部屋で妄想に浸る僕は、心の底から笑う。
「よし、やろう。 ダンジョンだ」
妄想を現実に、そのための力を。
メニューからダンジョン作成をタップし内容を確認する。
ダンジョン管理、階層作成、階層管理、魔物召喚、眷属召喚、DP管理、DP交換。 ずらりと並ぶ項目。 一つ一つチェックして、魔物召喚の説明を見ると溜息を吐き手が止まる。
魔物召喚:選択可能リスト
・ゴブリン 2DP
「ゴブリン縛り……」
魔物召喚に表示された魔物はゴブリンのみ。 最初はみんなこうなのだろうか? それともやはりゴブリン縛りの影響?
眷属召喚はいわゆるランダムガチャのようだ。 消費するDPが高いが強力な魔物を眷属として召喚できると、うん、ガチャだな。
今後もゴブリンしか魔物召喚できないなら、こっちで頑張るしかない。 一回100DPとなかなかの値段だけど。
DP管理。
現在の収入は1DP/時間。 DPの獲得にはいくつかの条件があるようだ。
・ダンジョン内外での生命エネルギー変換。
・ダンジョン隣接の龍脈エネルギー変換。 ダンジョンの階層数に比例。
・ダンジョン内でのソウル獲得。 ダンジョン外の場合、魔王が近くにいる必要がある。
・ダンジョン内での様々な精神エネルギーを変換。
・邪神クエスト
「ふ~ん、召喚した魔物ではDPは獲得できない。 ただし余剰魔素を変換することはできる、と」
魔素とはダンジョンの運営に欠かせない物のようだ。 魔物からは生命エネルギーの代わりに魔素が出ているらしい。
ダンジョンの修復にも魔素を使う、魔素が足りていれば自己修復機能があるようだ。 魔素が足りない場合はDPで治す必要があり、トラップなどもDPで修理、補充する必要があるみたい。
「ん?」
一通り流し読みを終えて、感想を一つ。
「ぬるゲー?」
ぬるい難易度のゲームだ。
放置するだけで無限にDPを獲得できる仕様なのだけど?