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予想外の中学生デビュー

 マックスが呼び出されてからしばらくが経ち、ついに彼の中学生デビューの日がやってきた。

 諸々の手続きやら制服等の準備に時間がかかったが、マックスは中学校という未知の領域にようやく足を踏み入れることが出来るのだと内から湧き上がってくる好奇心を隠しきれない様子でワクワクしている。


 だが、異世界人である彼には苦労も多いことだろう。

 必ずしも楽しい学校生活が待ち受けているというわけではなかった。



「一応言っておくけど、学校ではくれぐれも自分が異世界人だということは言っちゃダメだよ?」


「ワカッテルヨ、ソンナコト。」


「それから君は留学生という設定です。

 これならカタコトな日本語でもみんな察してくれるだろうし、丁度良いと思わないかい?」


「デモ、ドコノクニカラキタノ?ッテ、イワレタラドースルンダヨ?」


「それについては君の国を名乗ってもいいと僕は思うんだ。

 どうせ中学生が地球上の国全てを把握してるわけないんだからね。

『へぇ~そんな国もあるんだ~』くらいに思われるだけだよ。」


「イクラナンデモイイカゲンスギルダロ!」


「まあまあ。あとね、君に会話が成り立つ魔法の言葉を教えてあげるよ。」


「マ、マホウダト!?」


「いいかい。『はい』の時は『イエス』、『いいえ』の時は『ノー』と答える。

 これで大抵の会話は成り立つよ!!」


「オオォ!!!」


「ただし、使いどころを間違うと大変なことになるから注意しなよ。」


「ナニゲニアブナインジャナイカ、ソノカイワジュツ・・・」


「まあ、とにかく物は試しだ!使ってみれば何事もわかるよっ!」



 いい加減な博士の教えに呆れながらもマックスは片道2km離れた中学校へと足を運んだ。


 普段はゆとりのある服装であることもあって、ピッチリと喉元まで留めたワイシャツが少しばかり苦しく感じられる。

 新品のスニーカーは履き慣れないこともあって片道30分の道のりだけで足が痛み、道中もアスファルトばかりで柔らかな土の上を日々歩いてきたマックスには硬い道のりは慣れるのに時間がかかりそうだった。



(学校に行くだけでも疲れるな・・・)



 慣れない環境にマックスのストレスは溜まる一方だった。


 それでも足を運ぶことをやめる事は出来ない。

 中学校との距離が近づくにつれて自分と同じ制服を着た生徒たちがチラホラと目に入るようになると、彼らと過ごす学校生活はどんなものだろうかと心が躍ったからだ。


 マックスにとっては初めての中学校。

 アステラでは6歳から12歳までの子供はまとめて学校に放り込まれ、最低限の知識を身につけたところで卒業となる。

 そのため、すでに農家として働き始めていたマックスにとっては12歳以上の子供たちが一体どんなことを学ぶのか、どんな学校生活を送っているのか未知の世界だった。


 制服なんていう揃いの衣装もマックスにとっては初めて着るもので、少々着慣れず違和感はあれど、自分が彼らと同じ生徒の一員となったことは喜ばしいことにほかならない。


 マックスは今、彼の知らない世界への扉を開こうとしているのだった。



 *


「はい。今日はこのクラスに転校生がやってきましたよ!みんな仲良くしてあげてね。

 それじゃあ、入ってきてー!!」



 担任と思われる女性教師に教室のドア越しに声をかけられ、マックスは恐る恐る扉を開けて教室の中に入った。


 教室の中はざわざわと騒がしくて、まるで落ち着きが無い。

 ふと教室全体を見渡してみれば、生徒たちの視線はマックスに集中していて、見られているという緊張感が彼を震えさせた。



「ハ、ハジメマシテ。マックスイイマス・・・コ、コレカラナカヨクシテクダサイ。」



 ガクガクと小鹿のように震える足は教卓で隠されているものの、声の震えは隠しようもない。

 こんなにも緊張したのはいつ振りだろうかと昔のことを遡るも、アステラでのんびりと生活してきたマックスにとって緊張とはほぼ無縁だったため、こんな時どうしたらいいのか彼にはよくわからなかった。


 ただ、今すぐ自分の席に座りたい。

 それだけが今の彼が望んでいることだった。


 しかし、いつまで経っても席に案内される様子は見られない。

 生徒たちはざわざわとマックスを見て騒いでいるだけだし、女教師はニコニコと貼り付けたような笑顔を浮かべているだけ。



(えっ!?これ以上何言えばいいの!?!?そんなに見られてももう何も言うことないけど!!

 っていうか、なんでそんなにガン見してんの!?)


「あ、あの先生・・・」


「どうかしましたか?三島くん。」



 女教師に”三島”と呼ばれた男子生徒は少し長めの前髪の間からこちらを覗き見るかのようにチラチラと視線を向けている。

 彼の様子から察するに少しばかり言いにくいことなのだろうということはマックスにも察しがついた。

 困った表情で言うか言うまいか迷っているような。


 だが、しばらくすると意を決したようにゴクリと生唾を飲み込み、彼は教室中に聞こえるくらいの大きな声でクラス全体が思っていた疑問を投げかける。



「あの・・・すごく失礼なことだとは思うんですけど、マックス君って本当に中学生ですか?」


「・・・・・・・・」


(えっ!?なんで何も言わないのティーチャー!!!)



 ”どこから来たのか”という一般的な質問よりも先に本当に中学生であるかどうかが疑われるとはマックスも夢にも思わなかったことだろう。

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