博士は形から入るタイプ
「君は私によってここ日本に召喚されたのだよぉ~!!!」
ババーンと効果音でも付きそうなほどに両手を大きく広げてマックスがアステラから日本に飛ばされた理由を説明する博士。
そう、全ては彼の実験が原因だったのだ。
「ナンテコトダ・・・イマスグボクヲカゾクノモトニカエシテクダサイ!!!」
「ん~?それは出来ない相談だ。」
「モウジッケンハセイコウシタンダロ!?ナラ、ボクニヨウハナイハズダ!
ヨビダスコトガデキタノナラ、カエスコトモカノウダロウ!!!」
「残念ながら、君を帰すことはできないんだよ。何故なら・・・」
「ナゼナラ・・・?」
「僕は召喚する道具は開発できたけど帰す道具は用意してないからさ!」
「オマッ!!フザケンナヨォオオオオオオ!!!!」
悪気など一切ない様子で語る博士は召喚することしか頭になく、マックスを元の世界に帰すことなど考えてすらいない。
となると、当然のことながらマックスを元の世界へ戻す装置も開発されてはいなかった。
その事実にわなわなと震えるマックスは今にも博士を殴りかねない気持ちをなんとか抑えている。
だが、博士はそんなマックスの気持ちすら微塵も考えてはいなかった。
「だってぇ~、召喚することしか考えてなかったんだもん!ごめーんね?」
「ジジイガカワイコブッテンジャネーヨ、キモチワリーナ!!!」
「ジジイじゃないよ!!僕はまだピッチピチの30代だよ!」
「ピッチピチッテナンダヨォ!!!マギワラシイナ!」
「髪は染めてるだけさ!だってその方が・・・博士っぽいだろう?」
「ドウデモイイヨ!!!!!!!!」
博士のか弱い女子を彷彿とさせるような仕草が抑え込んでいたマックスの怒りを爆発寸前まで追い込む。
握られた拳は手のひらに爪の痕がくっきりと残るくらいに強く強く握られており、噛み締めた歯は今にも折れんばかりにギリギリといっている。
見た目から入ろうとする博士の紛らわしい風貌もマックスを苛立たせるには十分だった。
もう殴ってしまってもいいのではないだろうか。
そんな考えがマックスの頭の中に過ぎるが、拳を胸の前に持って来て彼はふと考える。
もし殴ったことで打ち所が悪すぎてアッパラパーになってしまったらどうするのだ、と。
人間を転送できる装置などマックスには作ることはできない。
つまりは博士がいなければマックスは元の世界に戻ることはできないのだ。
どんなにうざったい人間だろうが帰れる可能性が残されているのであれば、その可能性に縋り付くほかないだろう。
(仕方ないか・・・)
「オネガイシマース!!ボクガモトノセカイニカエレルソウチヲッ・・・ゲホッゴホッ!!!
ツクッテクダサーイ!!!」
マックスは額を埃でひどく汚れた床に擦り付けるかのようにピッタリとくっ付け、時折咳き込みながら目の前の博士に頼み込んだ。
所謂”土下座”というやつである。
「うん、良いよー!」
「ホ、ホントウカ!?!?」
思っていたよりもあっさりと承諾されたことにマックスの目は輝いた。
これで家族のもとに帰れるのだと。
「ところで、君が異世界人ってことは魔法とか使えたりしちゃう?
魔王が普通に居たり、モンスターに住民が怯えてるとか異世界ならそれくらいあるよね!?
特殊能力とか持ってるなら見せてほしいんだけどっ!!!」
「・・・マオウトカモンスターッテ・・・ユメミスギジャナイ?ソンナノドコニモイナイヨ?」
「えっ・・・?」
「アッ!デモ、トクシュノウリョククライナラアルヨ!!」
「ほんとにぃ!?!?」
「チョットマッテテネ・・・コノウエキバチカリルヨ。」
マックスはその辺に転がっていた植木鉢を手に取ると、外に出てその辺の土を鉢に詰め込んだ。
それからポケットに僅かに入っていた花の種を取り出すと、それを土に埋め込み、無造作に置かれたじょうろに水場で水を汲んで植木鉢の中に入っている土に注いだ。
するとどうだろうか。
ポッと種を植えたばかり植木鉢から花の芽が出たではないか。
芽はすくすくと育ち、あっという間に綺麗な花を咲かせる。
本来であれば長い時間を経て綺麗な花を咲かせるところをマックスは5分とかからずやってのけたのだ。
マックスは両手で鉢植えを持つと、近藤に向かってドヤ顔で差し出した。
「ドウダイ?アットイウマニソダッタダロウ!!」
「え、あ・・・うん。」
「・・・エッ・・・・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・これだけ?」
「コレダケダヨ?」
「・・・」
「・・・」
「ええぇぇええええええぇ!!!こんなのただの凡人も同じじゃないか!?
『マジックです』って言えばマジックになっちゃうレベルでどうでもいい能力だよぉ!!
せっかく異世界人を呼べたと思ったのに何これ!?私が求めていたのはこんなのじゃなーい!!
あーもうやる気無くなったぁ~装置作る気になれな~いよっ!」
ガンッ!
「いっ・・・たいよ・・・」
「モウエンリョシナイコトニシタヨ・・・」
さすがのマックスも我慢の限界だったようで、博士の脳天に一発鉄拳を食らわせたのは早かった。
もはやそれでアッパラパーになろうが関係ない。
気遣っていたらマックスの胃は穴だらけになっていたのだから。
「ん・・・けど、ちゃんと元の世界に戻れるかどうかはわからないよ?
作るにしても時間かかるだろうし・・・」
「カエレルナラナンデモイイ。トニカクカンセイサセテクレ。」
「わかった、わかったから・・・はぁ~・・・けど、その間君は暇だよね?
あっ!良いこと思いついたよ!」
「マタミョウナコトジャナイダロウナ?」
「くっくっく・・・君いま何歳?」
「ン?13サイダ。」
「・・・・・・・・・・・・・へぇー、若く見積もっても高校生くらいかと思ってたよ。
あれかな?外人は大人っぽく見えるのと同じやつかな?
まあ、いいや。じゃあここにいる間、中学校にでも通ってきなさいな。」
博士の妙な間が気になったマックスだったが、特に気にするでもなく博士の言葉に頷いた。
中学校というのがどんなものなのかマックスにはわからなかったが、未知の世界に足を踏み入れるというのはどんな時であろうと好奇心を掻き立てられるものである。
だが、それが同時に波乱の中学生生活の幕開けになることはマックス本人はまだ気付いてはいない。