日常
予想通り夢だったようだ。
すごい夢だったなぁ、たしか……あれ?
どんな夢だったか思い出そうとすればするほど、どうでもいい夢だった気がして思い出すのを諦めた。
学校は行かなければいけない場所だ。
だから、いつも通りに登校した。
「つまり、来てしまえばどうってことないんだすよ〜」
机に突っ伏してそんな子供みたいな屁理屈をつぶやく。
「んなわけないでしょ、ホントあんたバカね」
顔を上げると我がクラスの学級委員長が立っていた。仁王立だ。
「彼女の名前は曽根 遥、学級委員長だ、美少女だろ」
漫画みたいに人物紹介してみる。
「てか、あんたケガ大丈夫だったの?」
無視かよ。
「あぁ、大丈夫だ、心配かけて悪かったな」
「ん?心配してないけど?」
ひどっ!
あからさまにショックを受けたリアクションをする。
「安心しなさい、嘘よ」
ジョークきつすぎだろ、危うく吐血するとこだったよ。
「良かったー、俺の想像のさらに上をいってひどい人間かと思っちゃったよー」
「ん? つまりあれかな? 私のことは元からひどい人間だと思っていたってことかな?」
あ、しまったー、思わず本音が。
てか怖い、笑顔なのに圧がすごいよー、委員長。
「ま、無事なら何よりよ、文月」
「お、おぅ」
なんか照れた。
そんなこんなで授業やらなんやらを受けて、昼休みがやってきた。
屋上で弁当を食ってみたいなんて思ってたが、立ち入り禁止なんだよなー。
学食もあるが、弁当もあるし教室で済まそう。
すると、前の席に誰か座った。
「飯食おうぜー、凛」
そこにいたのは、クラスメイトの工藤 太一だった。
「あぁ、いいけど今日お前学食じゃないんだ」
「遅刻しなかったからな」
「あらぁ、珍しいこともあるのね。寝坊助の太一君」
なんかオカマ口調で言ってみた。
「うるせ、てかお前ケガ大丈夫だったのかよ、重症だったって聞いたぜ?」
「あぁ、大丈夫じゃなかったら登校してねぇだろ」
「それもそうだな」
今さっきから話している怪我のこととは、去年の四月からこの高前北高校に通い始めた俺、文月 凛であるが今年の四月の下校中に居眠り運転していたトラックに追突されそうになっていた女の子を助けるために、その子を突き飛ばした結果、自分が身代わりになってしまいそのまま病院送りに。
幸い、助けようとした女の子は無事だったらしく、良かった。
自分で言うのもなんだが、誇らしいことをしたと思っている。
そんでもって二ヶ月後、やっと退院できた。
重傷だったらしいのだが、かなり早めに退院できた。
そして現在に至る。
キーンコーンカーンコン……。
授業終わりのチャイムが鳴り、机に突っ伏していた顔を上げ周りを見渡す。
もうみんな帰りの用意をしてる……そういや今日って5時間授業だったっけ。
するといつものように太一が俺の席の前に立っていた。
「おいおーい、寝坊助さんはお前じゃないか」
「あ?うるせ」
「てかゲーセン行こうぜ」
「あぁ、遙も誘ったのか?」
「いちようは誘って見たけど学級委員長の仕事残ってるらしいからな」
「そうか、わかったー」
俺と太一と遙は中学からの付き合いで、よく遊ぶ仲であった。
まぁ、遙はしっかりした性格だから、よく学級委員長とかに選ばれていたので遊ぶ機会は少なめだったが。
20回目。太一が一つのクレーンゲームに張り付いてから1時間経っていた。
「くっそ、やるじゃねぇか。うおおおお!」
「おいおい、いい加減諦めろよ、てか声でかい」
あからさまにアームの力が弱い。
「お前、そんなにこのフィギュア欲しいのかよ」
「俺、諦めたくねえんだよ、こんなところで」
「なーに黄昏てんだよ。というか諦めが肝心だってばあちゃんが死に際に言ってたもん」
「説得力ありすぎだろ、それ」
結局、さらに1時間ねばってみたものの取る事が出来ず帰ることにした。
「ったくよー、あんなん取れるはずねぇだろ」
「そんなに欲しかったのかよ、このフィギュア」
バッグからそれを出す。
「あぁ、一目惚れってやつで……ってなんでお前持ってんだよ!?」
「取ったからに決まってんだろ?お前のやってたあれアーム壊れてたから違うのやって取った」
「おいおい、壊れてんの知ってたらなんで教えてくんなかったんだよ」
「面白かったから?」
「うわっ、この人サイテーやないかい」
「まぁ、やるよ」
「え?ホモかよ」
「違うワイ、ボケナス」
何気ない会話をしていると交差点にやってきた。
「じゃーなー、凛」
そう言って太一は手を振りながら、信号を渡って行った。