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8話 王都にて 〜その3 家〜

「お、居た居た。おーい!タロウ!」


クゥリム姫との別れに気を取られ魔法の手(ルーア)レーダーを使っていなかった俺の背後から、俺を呼ぶ女性の声が聞こえた。この声は、


「あ、カウロさん。」


カウロさんだ。とその前にシェリス姫も居る。大体何をしに来たかは分かるし今すぐに逃げたい気分だが、とても逃げられるような状況では無い。

俺は二秒で諦めた。


「おい、タロウ!さっきのはどう言うことだ!?姫からも言ってやってくれ!」


カウロさんは俺の肩を持ち、まだ頭の中が混乱している様子でシェリス姫に言葉を求めた。


「え…ああ…私は別に…。」

「姫!」


姫が押されている。

カウロさん、凄いな…。そして怖い…。

まあ隠すことでは無いので、俺は全て話すことにした。






「な…!?…す、すまなかった!またもや君を疑ってしまった!てっきり妖精族のスパイだったのかと…。」


カウロさんが涙ながらに謝ってきた。頭を何度も繰り返し下げている様子を見て可哀想だと思い、


「いやいや、気にするなって。前も言ったけど、国を守るためなんだからそれくらい当然…。」


と俺は言うが、そんなことは全く聞いておらず、


「もう…死んで詫びるしか…。」


と剣を抜き始めた。


「ほ、ほら!タロ…旅人の方も許してくださると言っているのですから、ね?」


と姫が止めに入り、ようやく落ち着いたようだ。


「(カウロさんも大変だけど、姫も大変だな…。)」


とカウロさんの意外な一面を目の当たりにした。

するとここでネアが、


「うー…タロウ…眠い…。」


と俺の服を引っ張りながら言ってきた。


「お前さっき散々寝ただろ…。…でもまあ…。」


と空に目をやると、すでに日が暮れ始めていた。


「…そうだな。そろそろ宿屋でも探しに…。」


と俺が言っている途中で、何かを閃いたようにカウロさんが突然、


「…お、そうだ!寝る場所を探しているだな?だったら良い場所があるぞ!付いてきてくれ!」


と言って走って行ってしまった。


「…喜怒哀楽の激しい人だな…。」


シェリス姫と俺は苦笑いし、ネアは俺が手を繋ぎ軽く魔法の手(ルーア)で持ち上げ、その後を追いかけた。







「ここだ!」


大通りを走るカウロさんを五分程追いかけた先には小さな一軒家があった。

他の家は二階、又は三階建てなのか、この家だけやけに屋根が低い。造りはレンガ、大通り側に窓がある。


「ここは…?」


家の外装を見ながらカウロさんに聞いた。


「…ここはかつて私が住んでいた家だ。」


カウロさんは過去のことを懐かしむように、その家を眺めながら答えた。


「タロウは私のことを許してくれると言ってくれたが、それでは私の気が収まらない…。そこでだ!今までの非礼を詫び、この家を無償で君に差し上げようと思うのだ!」


突然のことで、一瞬思考が止まっていたが冷静に考えればこんなに上手い話は他に無い。

普通、金の無い内は宿屋や借家に泊まり、その代償には当然、金を払わなければならない。

また一軒家を建てるにせよ、少なからず千金貨は必要だ。

現在の俺の所持金は色々と消費しておよそ十金貨。千金貨を貯めるなどまだまだ先の話だ。

だが今、俺はその貯金をするという過程を無視してすっ飛ばすことが出来る。

つまり俺の定住地を探す、という目標の半分が達成され、後はここで定職を探すだけとなる。


「ほ、本当にいいのか?」


俺は期待感を胸にカウロさんに尋ねた。

そして数刻後、


「ああ、勿論だとも!この家も、誰かに住んで貰った方が嬉しいはずだ。」


というカウロさんの答えを聞き、俺は今までに無いほどの高揚感、体が宙に浮くような気持ちさえ感じた。


「いや、ほんと感謝する。人助けってするもんだなあ…。」


ほとんどカウロさんの勘違いによるものだが、これはその疑いを晴らした、限りなく自己満足に近い人助けという行為によってもたらされたものだ。

俺は、これから困っている人がいれば絶対に助けようと思う程気分が良く、今なら天使にでもなれるんじゃないかと思った。


「君の役に立てたのなら光栄だ、タロウ。ではな、また会おう!」

「…あ!旅の方、さような…。」


カウロさんは、俺とシェリス姫が別れを言う前に、姫の手を引っ張って行ってしまった。


「あ、ちょ…。はは、忙しい人だな…。んじゃあネア、入るぞ。」

「んー…。」


ネアは今にも眠りそうな感じで、俺に手を引っ張られフラフラっと家の中に入った。


「うお。暗いな。よし…。」


家の中は真っ暗で何も見えなかったので魔法の手(ルーア)レーダーを使った。


「(えーと…椅子、机…。)お、あったあった。これか。」


俺は照明を見つけそれを点灯させた。

照明はどの家庭でも使われる一般的な照明で、同種の石を近づけると光るという石を用いていた。


「ふう…。」


まあ予想はしていたが、あるのは椅子に机、ベッドが一つ、食器棚などで、ベッドに布団は無く木の型がそのままある。

また食器棚の中には食器が無いが、フト市で既に購入済みなのでそれをそのまま使う。

シャワーやトイレなど水は使える様なので生活には困らなさそうだ。


「これから色々揃えていかねえとなあ…。おい、ネア。悪いがそこのベッドで…て言う前に寝てんのかよ…。」


俺が促す前に、既にネアはメイド服を着たまま鞄を枕にし夢の世界に入っていた。


「服くらい着替えてから寝ろよ…。」

「スゥー…スゥー…。」





俺は椅子に腰掛け、クゥリム姫のことを思い返した。


「(結局アイツは何だったんだ?この国の王よりも妖精族(アイツら)の方が偉そうなのは分かったけど、そもそも俺たちに接触して来た意味が分からん。アイツは気にするなって言ってたよな?…あれが『理由は有るが、お前が気にすることでは無い』という意味を含んでいるとすれば、その理由ってのは一体…?)」


俺たちが狙われる理由として考えられることは複数ある。

俺の力か、異常な魔力量か。そもそも俺ではなくネアを狙っていると言う可能性もある。

何も考えていない様な口ぶりではあったが、それでも一つの種族の姫だ。

だがこれとは別で気になることがある。


「で、この指輪は何なんだ?」


彼女が報酬だと言って俺たちに渡した、不思議な模様の入った水色の石が埋め込まれた指輪だ。

怪しくはあるが、そんな露骨に怪しいと思うものを今から狙う相手に渡すだろうか?


「それに…。」


俺は彼女が別れ際に見せた、どこか悲哀に満ちた顔を思い出した。


「…まあ、あんまし気にすることじゃねえか。あの時に行動を起こさなかったってことは、別に俺たちを狙ってるとかそういうことじゃないんだろ。疲れたしもう寝よ。」


俺は深く考えるのは止め、明日に向け休息を取ることにした。

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