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7話 王都にて〜その2 妖精族の姫〜

ここはルーフィリア王国の城の中。

巨人も通れそうな高さの天井に、照明は光を放つという特殊な鉱石で出来ているらしい。窓の外には噴水や像、植物園に小さな迷路など様々な物がある。

俺たちには一生縁の無いであろうこの場所に、成り行きで俺たちは居た。そして思った。


「(俺、終わったな…。)」


嘘を言ってると思っていたクゥリムは本当に姫で、その上、国王ザシュクロウが気を使うほど地位の高い人のようだ。

力ではクゥリム姫より俺の方が上なんだろうが、権力的にはあちらが圧倒的に上だ。しかし、今までのクゥリム姫への非礼を考えると一生大罪人として扱われるだろう。


「(俺はクゥリム姫に何てことを…。でも、白色を見れたのは良かったな…。)」


俺はそんな沈んだ気持ちで城内を歩いていた。しかし後ろを見ると、


「(こんな時だというのにコイツは…。)」

「おー…!ピカピカ…!ワー…!」


ネアが今までに無いほど目をキラキラさせ、彼方此方をウロウロしていた。


「(呑気なやつだなホント…。)」





そしてその後も少し歩き、大きな扉のある部屋の前で止まった。


「さあ、着きましたよ。どうぞ、お入りください。」


国王ザシュクロウが合図を出すと、その大きなドアが開いた。

中には大きな机が一つと、それを挟むように大きな椅子が二つ、そして奥には柵があり、その向こう側にシェリス姫やカウロさん、その他にどう見ても偉い人たちがわんさか座っていた。


「あ、あのー…クゥリムお嬢様…?今日はどういったご用件で…?」


俺はクゥリム姫に、恐怖心に勝った好奇心で恐る恐る聞いてみた。


「おお、そういえば言っていなかったな。今日は…。」


俺は、自分の心臓が今にも爆発しそうなほど暴れているのを感じた。

もう後ひと押しされれば爆発しそうだ。


「この国を脅迫に来たのだ。」

「…!?」


その時、クゥリム姫の笑顔と共に俺は死んだ。今までありがとうございました。さようなら。


〜完〜




「(ってんな訳あるか!いやでもマジで死ぬかと思った。ていうか後で殺されるんだろうけど…。…しかしまあ何でそんな大切な日なのに、通りすがりの俺なんかを護衛に…?)」


それに脅迫とは一体?何が目的?それに国王ザシュクロウの落ち着きぶりも気になる。

国王の…


「で、で、で、で、では、い、い、い、行きましょうううか。」


はいこの国終わり。あー残念だな、国が消えるのか。

そもそも何だこの国王?本当に亜人の差別撤廃なんて偉業を成し遂げたのか?…色々と謎が多すぎるが、今は何とかここを乗り切るしか俺の未来は無い。国はどうでもいい。頑張れ国王。


「さてとタロウ。行くぞ。」

「…はい。」


だがここまで来ると、逆に俺は落ち着いていた。と言うよりもは諦めに近い。


「ネア、お前はここで待ってろ。」

「あーい。」


さすがにネアは連れていけないので、ドアの近くにいるように言っておいた。


「………。」

「(ん?今、クゥリム姫の口が動いたような…?)」


そして、少しずつ前に進み、二人が椅子に腰を下ろした。


「(なんかよく分からんが始まるのか…。)にしてもなんか視線を感じ…。………おい、ネア。どうしてここに来たんだ?待ってろ、って言ったよな?」


視線の原因はネアだった。

何故か分からないが、ネアが付いて来ていたのだ。


「んーとね。そこの水色のお姉ちゃんが付いて来いって。」

「何?でもコイツはずっとここに…。………成る程…幻術か…。」


俺が軽く睨み付けると、


「おお、よく気づいたな。私たち妖精族はお前たち人間とは違って、魔法の使い方が達者でな。そのくらいは造作も無い。」


クゥリム姫がクスッと笑い、そう言った。

幻術。父さんが言っていた。一部の種族は敵を惑わす為に幻術を使えると。まさか妖精族とやらがそれを使えるとはな。

だが、ただ視線を集めるためだけにネアをここに呼んだとは考え難い。


「(一体何が目的なんだコイツは?)ネア、ジッとしてろよ。」

「あーい。」


ふと上を見ると、シェリル姫やカウロさんも俺の存在に気付き、頭が混乱しているようだった。


「(ダメだこりゃ。助けてくれる雰囲気じゃあねえな…。)」


そして、


「それではこれより、妖精族と人の種族間会議を始める。」


それは始まった。







会議は約二時間程で終わった。ネアは五分くらいから寝ていたが。

結局、世間話をした程度だった。

今の国民はどうだとか、飯は食ってるかとか、娘の結婚相手はとかそういう話だ。

そして、脅迫というのは圧をかけるという意味だった。

直接何をした訳でも無いが、どうやら妖精族というのは色々な意味で強大な力を持っているらしく、皆一歩引いていたのが分かった。


そして俺とネア、それとクゥリム姫は今、待合室の様な部屋にいる。

クゥリム姫は大きな横長の椅子に腰掛け、俺はその横に立っている。ネアは色々と弄っている。


「ふう、楽しかったのうタロウ。…ん?どうした?考え事か?」


とクゥリム姫が聞いてきた。


「え…いや…その…。」


と戸惑っていると、


「何だ?急によそよそしくなりおって気色の悪い。調子が狂うであろう。細かいことは気にするで無い。」


と言っていて、あまり過去のことや立場などは気にしていない様子だった。


「じゃ、じゃあ聞きたいんだけどさ、おま…クゥリム姫様の目的は何なんだ?」


まだ少し慣れないが、俺は恐る恐るクゥリム姫にそう聞いた。


「……………世間話だ。」

「……………はあ?」


何を言っているんだこの姫は?


「いや、でも脅迫って…。」

「あーあれだ。あのザシュクロウとかいう男、いつもオドオドしよるからまるで脅迫している気分になるのでな。私がそう呼んでいるだけだ。」


何だそりゃ…。でも良かった。国どうでもいいが俺は無事生きていた。

というか元より気にすることではなかったようだが。


「はあ…無駄に気使っちまった…。ああ、そうだ。じゃあ何であそこにネアを連れてきたんだ?」


するとクゥリム姫は悪い笑顔を作りこう言った。


「決まっておるだろう。タロウ、貴様への仕返しだ。言ったであろう、後で覚えておけ、と。いやはや貴様のあの焦った顔、なかなかに面白かったぞ。」


俺はそれを聞いて少し心に余裕が出来たのと同時に、少しイラっときたのでクゥリム姫に仕返しをした。


「……………白。」

「な…!?だ、だから言うなと言っておるだろう!」


クゥリム姫、いや妖精族がどういうやつらなのかは分からないが、まあ悪いやつらでは無さそうだ。


「で、その世間話の目的は何なんだ?」


結局、目的がはっきりしないので一応聞いてみた。


「だから言っておるだろう。ただの世間話だ。人間という愚かな生き物を知るためのな。」


と、深く考えてはいないようだ。

つまり、クゥリム姫にとって人間というのは下等生物であり、いわばペットの様なものなのだろう。

今日はそのペットの様子を覗きに来た、という程度のことか。







その後、待合室で国王ザシュクロウから何やら綺麗な宝石を貰ったクゥリム姫とその護衛の俺たちは城を出た。


「そういや、気になってたんだけどさ、本物の護衛はどうしたんだ?どこかに居るんだろう?」


俺は、本物の姫だったということはきっと本来の護衛もいるはずだ、と気になったので聞いてみた。


「うむ、居るぞ。どこかにな。今頃、私を探していような。あっはっはっは!」


姫と言うのは皆、隠密スキルでも鍛えているのか?分からん…。


「(にしても、結局護衛なんていらねえよな。柄の悪い奴に絡まれても魔法で吹き飛ばせばいいし、時間だって充分にあった。…分からないなあ…。)」


そんなことを考えていると、俺たちは既に城門を出ていた。

すると、クゥリム姫が俺の方を向いた。


「まあそんな訳でだ、私はそろそろ帰るとしよう。後は…ほれ。」

「おっと。」


クゥリム姫が俺に何かを投げてきた。

これは…。


「…指輪?」


そう、指輪だった。中央には不思議な模様をした水色の石が埋め込まれていた。

それを俺とネアの分で、二つ投げてきた。


「まあ、その何だ…?今日一日私に付き合ってくれた礼…いや、報酬だ。」


クゥリム姫は少し照れるような仕草を見せ、そう言った。

そして俺に背を向けると、


「…自分で言うのも可笑しな話だが、私はこういう身分故にそう自由が無くてな。よほどのことが無い限り、人間と話すことは無い…。」


と自身のことを語った。

その彼女の瞳は、どこか遠くにいる何かを待っているように見えた。

そして俺の方に向き直ると、


「…ではなタロウ、ネア。今日はそこそこ楽しかったぞ。」

「…そうかよ。そりゃ良かったな。」


そして俺とクゥリム姫は握手をし、すると突然彼女の後ろの空間にぽっかりと穴が空いた。

握手は少し長かったような気がした。


「…。」


クゥリム姫は俺の手を離し、静かに穴の中に入って行った。

その時俺は今までには無い、誰かに急かされるような気持ちになり、彼女にこう言った。


「また来いよ。」


すると穴の中から、


「…ああ。」


とだけ聞こえ、穴は消えた。

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