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2話 少女と女の子

しばらくすると、大陸が見えたき…大陸?


「これ…崖じゃん。」


俺が着いたのは高さ百メートル程の崖だった。

ここで普通の人なら、


「仕方ない迂回するか。」


となるが、しかし俺の場合は違う。


「…仕方ない。登るか。」


俺には力がある。迂回なんて面倒だし、登ってしまおう。


魔法で跳んで行ってもいいのだが、この距離を跳ぼうと思うとそれなりに力がいる。

小舟が粉々になるのは勿論、その反動で起こる音も大きい。

俺の魔法の手(ルーア)レーダーによると、この崖の奥に砦が有り、そこに恐らく兵士であろう者が数百人居ることが確認できる。

幸い、あちらも今到着したところの様で俺のことには気づいていないが、魔法で跳んでしまうと音で気付かれ、


「なんださっきの音は。」

「え、いやー…落石ですかね?」

「そんな訳あるか。…お前何か隠してるな?ついてこい。そこの砦でゆっくり話を聞いてやる。」


なんてことになり兼ねない。


そこで魔法の手(ルーア)を使う。魔法の手(ルーア)は結構伸びる。原理は分からないがとにかく結構伸びる。


ちなみに魔法の手(ルーア)は見えない。俺も見えない。魔力を感じ取れる人がほんのりと、


「今あの辺りにある?」


程度にしか分からない。


そのため見られる心配もほとんど無いので、崖の上まで伸ばし地面に突き刺し、そして一気に引き上げる。

スッ、トン。


「ふう。」


よし。何とか無事に辿り着いた。

俺の降り立った崖の先は、少し草が生えている。

そしてその奥には森が広がっており、先程魔法の手(ルーア)レーダーで確認した砦が見える。


「後は…。」


と俺は不安な気持ちで砦を見る。


確か父さんが、


「いいかいタロウ。大陸には砦があって、砦を抜けるには身分証という証が必要なんだ。だけど見ての通り、この島は閉鎖的で大陸とはあまり行き来もしないから、身分証が無いんだ。」

「え?じゃあ、砦を抜けるにはどうすればいいの?」

「うーん…。まあ、何とかなるさ!」


って言ってたな。使えねえ。


とにかく、身分証なる物がない限り通してはくれないということだ。

しかし、身分証がどういう物か分からない以上、偽造することも出来ない。

魔法の手(ルーア)を使い砦を飛び越えてもいいが、もし誰かに見られたらアウトだ。


「(ここは素直に旅人と言って通してもらうしかないか)。」






「ダメだ。」


でしょうね。


「そこを何とか…。」

「って言われてもなあ…。一般兵士の俺にはどうすることも出来ねえよ。」


やっぱり無理か。

しかしそうなると、俺の旅の範囲が崖から砦までの数十メートルしか無いな。これはまずい。

と困っていると、


「どうした、何事だ。」


と、砦の中から女性の声が聞こえた。

俺は黙っていると、


「あ、隊長!それがですね、この旅人がここを通して欲しいとのことですが身分証を持っていないんです。」

「何?分かった、少し待ってろ。すぐそちらに向かう。」


と言う会話が聞こえた。


「(え?隊長!?これはまたとない機会だ。事情を説明すれば通してくれるかもしれない。それだけの権力はあるはずだ)。」

と俺は思った。


そして、その隊長が俺の前にやって来た。

背が高く、長い金髪に碧の瞳、胸元には隊長の印なのだろうか?龍が二匹向かい合っている勲章が付けられていた。

胸がでかい。


「私はカウロレーナ・エウルス。この銀龍(シルウィド)隊の隊長を任されている者だ。それで、本当に貴方は旅人なのか?」

「はい。この海を渡った先の島から来たんです。」

「…島?」

「はい…。」


巨乳隊長は少し考えると、


「分かった、貴方の入国を許可しよう。後で身分証も渡す。ただし、中で少しその島の話を聞かせてもらうが良いか?」


と言った。


「まあ通してくれるのなら。」


俺はここを通りたいだけなので、その程度のことで通してくれるならと即座に了承した。


「(何とか入国できそうだ。っていうかあの島、国の一部じゃ無かったのか)。」


砦に入った後、食事を取りながら島のことを適当に教えると、


「分かった、ありがとう。手間をかけさせてしまったね。あ、これが君の仮の身分証だ。あくまでも仮の物だから、入国後に正式な手続きをしてくれ。」


と、仮ではあるが身分証を貰った。

身分証は見たところ、紙に巨乳隊長が胸元につけていたものと同じ、龍が二匹向かい合っているものが記されており、その隣に俺の名前が記されていた。


「ここから真っ直ぐ道を進むとリーム市がある。国の端ということもあって人は少ないが、食料や寝床には困らないはずだ。」

「親切に教えてくれてありがとうございます。」

「君の旅が良い旅になることを願っているよ。」


最初見た時は怖そうな女性だと思ったが、すごく優しいお姉さんだった。

人は見かけによらないな。


「では、失礼します。」


一時はどうなることかと思ったが、優しい巨乳隊長のおかげで無事に乗り切れた。


「(巨乳隊長に感謝!)」


と巨乳隊長に静かに一礼し、

そして、今度こそ俺の旅は始まった。




道を真っ直ぐに三十分程歩いたところで壁が見えてきた。

市の周りは高い壁に囲まれているのだろう。


「止まれ!」


門の前で兵士に呼び止められた。


「身分証を見せてもらおう。」

「はい。」

と仮の身分証を差し出した。


「うん?あー、仮の身分証か。おい、カール!」


兵士が誰かの名前を呼んだ。


「は、はい!」


すると、首に魔法の紋章が刻まれた獣人の男性が出てきた。


「これを正式な身分証に変えてこい。…早く行け!このクソ犬が!」

「は、はい!」


そういや、大陸では獣人や蜥蜴人リザードマンなどの亜人は差別されていると父さんが言ってたっけ。

何でも、一昔前の戦争に人が勝利して以降ずっとこうなのだとか。


俺の居た島では、人は治安維持や村の方針など知恵を絞り、獣人は狩りや漁、農業を営み、蜥蜴人リザードマンは建築を担当し、その他の人種も何かしら働いていた。

また年に一度は全人種の代表が集まり会議を開き、それぞれの在り方について話し合っていた。


しかしここリーム市、いやルーフィリア王国では亜人は奴隷も同然に扱われているようだ。


心が痛むが、ここで兵士に攻撃なんてしようものなら俺が捕まり、よくて終身刑だろう。

また彼もただでは済まないだろうし、大人しくしておこう。


「お、遅れて申し訳ございません!」


犬耳の男性が走って戻ってきた。


「ったく!もっと早く出来んのか!」


兵士は男性の頭を一蹴りし、


「遅くなってすまなかった。これが正式な身分証だ。」


と俺に、今度は木の板に国名、発行した市名、俺の名前、そして国の紋章が彫られた物を渡してきた。

とりあえず入れるところも無いので、胸元にしまっておいた。

そして理不尽な話ではあるが、奴隷というのはこういうものなのだろう。早く慣れなければ。


「ではお通りください。」


そういうと閉まっていた扉が開き、俺はリーム市に入った。




「いらっしゃい!お、そこのお嬢さん、今日は良い野菜が揃ってますよ!」

「あー、お母さん待ってー!」

「んでよお、あいつんとこの息子がよお…。」

「えー?それほんとかよ?」


巨乳隊長は人が少ないと言っていたが、随分と賑やかだ。

そうか、昼間だから皆買い物に来ているのか。

人が少ないとは言え、こう一箇所に集まると凄い賑わいだ。


「さてと。先ずは宿屋から探すか。」


と言ったもののどこに何があるのか全く分からない上、慣れない人混みに揉まれ疲れた俺は、休憩の為、建物の間の通路に身を潜めることにした。


「はあ。迷路かよここは…。」


と言いながら通りを眺めていると、ドンっ!


「キャア!」

「おっと、すみません。」


目の前でフードを被った少女と男性がぶつかった。

見ていると少女から、何やら紋章の刻まれた宝石が落ちた。


「なんだこれ?」


拾い上げてよく見ると、その紋章は身分証に記された国の紋章と一致していた。


「ひえ…これお高いんじゃないの…?」


あまりにも高価そうな物だったので売る気にもならず、少女を追いか届けることにした。

ついでに宿屋の場所を教えてもらおう。


「えっと、確か隣の通路に…。」


そう言いながら隣の通路に入ると、


「あぁん?誰だおめえ?」


大斧を持った大男と、その両脇にナイフを持った小柄な男が二人、少女に喧嘩を売っていた。


「おいおい嬢ちゃん。ここ通るなら金払えや。…ん?」


と、大男がこちらに気付き、


「あぁ?さてはおめえ、この女の連れか?」


違います、と言うべきか悩んでいると少女が、


「違います。」


と言った。続けて、


「あの者はわたくしとは何の関係も有りません。ほら、貴方も早くお行きなさい。」


と俺に逃げるよう促した。

…俺は何を考えていたんだろう。確かに面倒ではあるが、目の前で少女が助けを求めているんだ。それに宿屋の場所も教えてもらわないと。


「(面倒だけど助けるか)。」


そして俺は、


「え?ああ、俺はそこの女の子の幼馴染でして。」


と言った。


「ば、馬鹿なの貴方!?私に構わず早くお行きなさい!」

少女が俺にそう言うが、まあ放っておこう。


それを聞いた大男が、

「はは、そうかよお!」

続けて小柄な男二人が、

「かっこいい王子様のご登場か?」

「ギャハハハハハハ!」

と言った。


「(うわ、やっべ!宿屋に泊まる前に金持ってねえぞ!)」


なんて考えていると、


「じゃあ、そんな王子様に俺からのプレゼントだ。」


そう言って大男が斧を振り上げると、斧が炎に包まれた。


「はは!食らいなあ!」


俺はその攻撃を片手でパシッと止めた。

魔法の手(ルーア)を手に纏わせただけだが、これは純粋な魔力の塊を手に宿すのと同じ。

理由は分からないが、純粋な魔力は様々な力を防げることが分かっている。


「…。」


大男はしばらく黙ると、


「す、すんまへんでした…。こ、これで勘弁してください…。」


と言って金の入った袋と斧を置いて、走って逃げていった。


「(お、やった。金ゲット。斧は…いらねえな。)」


と思っていると、


「あの…。助けていただきありがとうございました。」


と少女が顔を下に向けたまま礼を言ってきた。


「いやいや。俺もお前に聞きたいことが…。」


と言っている途中に、


「しかしですね、どうして逃げなかったのですか!?全く何を考えているのか!」


とお怒りを受けた。

と、まあ少女は怒ったままだが、


「そうそう。聞きたいことがあって。」

「聞きたいこと?何ですか?」


少女はまだ根に持っているのか、不機嫌そうだ。


「まずは…これこれ。この宝石、お前が落としたんだろ?」

「あっ、それは!」


と少女が俺の手からそそくさと持っていった。


「それ何なんだ?」


と聞くと、


「え!?ああ、まあ…た、大切なものなんです!」

「へえ…。」


かなり怪しいが、ある程度見当はついている。

国の紋章が入っていたのだから、恐らく貴族、それも王族の者だろう。

王族ということはそれなりに力もあるだろうし、さっきもあのまま放って置いたところでやられていたのはあの大男達だったはずだ。

だが、俺は宿屋の場所を教えてもらわなければならない。あのまま少女に勝たれては困るのだ。

しかしまあ、どうしてこんなところに王族の者が?とは思ったが、面倒ごとになると嫌なので聞かないでおいた。


「で、もう一つあるんだが、宿屋ってどこにあるか知ってるか?」

「…え?」


少女は少し驚いた。

あの宝石を見られ王族だと気づかれ、


「たっぷりとお礼をしろ。でないとこの場で皆に言いふらすぞ。」


なんて言われると思ったのだろうか?

残念だが、俺には王族の者に報酬を強請るなんて怖すぎることは無理だ。

タメ口なのは気付いていない振りをする為で、実は超怖い。


「いや、さっきここに着いたばかりでどこに何があるのか分からないんだよ。で、どこか宿屋知らないかなって。」

「あ、宿屋ならもう一つ向こうの通りにあったと思いますよ。」

「そうか。ありがとう。」


と言い別れようとした時だった。


「何か向こうの方が騒がしいですね…。」


そう言う少女の見る先を見ると、人集りが出来ていた。

輪状になっているところを見ると、その中心に何かがあるようだ。


すると少女が、


「行ってみましょう!」


と言い行ってしまった。


「行ってみましょう、って俺も行くのかよ…。」


と小声で文句を言いつつも、とりあえずついて行くことにした。


少女は


「あの、ちょっと…すみません、通して…ください…。」


と言いながら人をかき分け中心へと向かい、その後ろを


「はいはいー、ちょっとごめんねー。」


と言いながら俺が通って行った。

中心に着くと少女は立ち止まり、


「…。」


何も言わなかった。

さっきまでの少女とは少し違う気がした。

俺も中心に目をやると、そこには白髪で白い翼の生えた女の子が血だらけで倒れていた。


するとその女の子に大きな野菜が投げられた。

ドカッと女の子にぶつかるが、血が流れるだけで女の子は全く動かない。

よく見ると、野菜の他にも石やナイフ、様々な物をぶつけられていた。


「この悪魔め!」

「さっさと死ね!」


そんな怒号が飛び交う。


ふと少女の方を見ると、少女は拳を握り震えていた。


俺は分かった。まあ予想でしか無いが。

少女は先程も推測したが恐らく王族の者だ。

少女は女の子を助けてやりたい。しかし王族という立場上、こういう問題に関わるのは不味い。

仮に助けに入ったとして、フードも被ってはいるが、何かの拍子にフードが脱げて王族の者だと分かれば大変だ。

だから少女は助けに行けないのだ。


「(面倒ごとには関わりたくないんだがな。)」


そう思いながらも俺は少女に、


「なあ、お前。光魔法は使えるか?」


と問いかけた。


「え?えぇ、一応…。」


「…そうか。…悪いな、さっきせっかく宿屋の場所教えてもらったのに、そこには行けそうにねえわ。」


とだけ言って、俺は女の子の元へ歩いて行った。


「…!?ちょっと、どこ行くの!やめなさい!」


少女のそんな声が聞こえるが、まあ放っておこう。


「大丈夫か、お前。」


と女の子に問いかけるが、返事は返ってこない。


「(息は…しているな)。」


すると周囲の人々が、


「な、何だお前!お前も亜人なのか!」

「ああ、きっとそうだよ!」

「やっちまえ!」


と言い始めた。


俺は女の子に

「ひでえよな、俺亜人じゃねえのにあいつら俺のこと亜人だって言うんだぜ?」


と言い女の子を抱き上げ、


「今から、優しいお医者さんに見てもらおうねー。」


と言っていると、野次馬から沢山の物が飛んできた。

勿論、一つ一つ粉々にすることも出来るが、面倒なので魔法の手で障壁を張るだけにした。


ゴツン!ガッ!

石やナイフ、誰が投げたか知らないが斧や槍まで飛んでくる。


「(この子はこれを、こんな薄い服一枚で受けていたのか)。」


そして俺は歩き、少女の前に立った。


「何をしているの…。早く戻して来なさい…。」

「本当にいいのか?」

「…。」


少女の顔は見えなかった。


「俺は先に戻ってるぞ。強化ブースト。」


俺は無属性魔法の強化ブーストを使いジャンプし建物裏に逃げ込み人々を撒いた後、少女と出会った場所に戻った。



しばらくすると、少女もまた戻ってきた。

そして、俺と少女で女の子を挟むようにし、姿を隠した。


「悪いな。俺は光魔法が使えないんだ。この子の傷、治してやってくれないか?」

「…治癒ヒール。」


少女はそうだけ言って女の子の傷の治療を始めた。


数刻の静寂が続き少女は、


「…ごめんなさい。」


と言ったので俺は、


「気にすんな。」


とだけ言った。






その後、治療を終えた少女とは一言も交わさず、ただ手だけを振って別れた。


「(結局、名前も教えてくれなかったな…。まあ俺も教えてないけど)。」


そんな事を考えながら、少し通りに聞き耳を立てると、


「ああ、本当だよ。さっき亜人が亜人を助けやがったんだ。黒髪で目立った特徴は無いが、多分白髪で白い羽の生えた女の子を連れてるはずだ。見つけたら懲らしめてやる!」


なんて聞こえてくる。


「はは、俺超有名人じゃん。…あーあ。やっちまったなあ。」


そう言いつつも俺は、不思議と後悔はしていなかった。







気付けばもう夜も近く、砦で食事を取ってから一度も食べ物を口にしていない。


「(とりあえず、見つかる前に今夜中にここを出るか)。」


そう考えながら、夜が来るのを待った。



そして夜が来た。

昼間とは違い、人一人歩いていないが、宿屋からは賑やかな声が聞こえてくる。


「この子はまだ目を覚まさないか…。まあいいか。よし、行こう。」


そう言うと女の子を魔法の手(ルーア)で背負い、入って来た場所とは逆の方向に向かった。



「うへえ…兵士は大変だなあ…。あんな壁の上で…。」


なんて言いながら、兵士の隙をつき、


「(お勤めご苦労様でーす)。」


と心の中で言いながら、崖を登る時と同じ要領で壁を乗り越えた。



「さてと、飯でも探すか。ていうかまた森かよ…。久しぶりにベッドで寝たかったんだけどなあ…。」


と一人で呟きながら、俺と女の子は夜の森へと消えて行った。

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