たけしさん
時計は3時前を指していた。自宅を出てから4時間あまりかかった計算である。
途中で横須賀線のホームにがどこか分からず、念には念を入れて列車を2、3本
やり過ごし、逗子秋でていしゃするのかを駅員さんに確認したりと、ロスはそれなりに
あったので致し方ない。
「もっと飲むかい? 飲みな」背高パンチ色黒男は、意外と優しく話してくれた。
「たしか埼玉から来てるのが一人いたなぁ。大宮だったかなあ。兄ちゃんは何処から来たんだ?」
「草加というところで、せんべいが有名です」
「草加なら行ったことがあるな。ちょこっと仕事でな」
「そうなんですか。たいした町ではないですけど」
「おお、そうだ。うちの連中、もうそろそろで、片付け始る頃だから浜に行ってみるか」
「はい、お願いします。」
「三時で片付けかよ!いいじゃんか!」僕はそう思った。
「よし、荷物は置いたままでいいから来な」その夜、知ることになるその男の名は
たけしさんと言うのだった。たけしさんはすくっと立ち上がり玄関へ向かい、ビーチサンダルを
履き、「浜に行ってくるよお」と姿の見えない年配の叔母さんに声をかけたのか、
返事を聞くでもなく、すたすたと歩きだした。僕は遅れまい。遅れたら「のろまなガキだ」と
思われる。それは避けたいと思い、急いで玄関を飛び出した。
たけしさんの歩く後ろ姿は、腰の据わったがに股歩きだが、颯爽としてかっこよかった。
僕の高校の不良グループと、似た歩き方ではあるのだが、貫禄の違いが素人目の僕にでも
すぐに分かる、そんな歩き方だった。