葉山は湘南?
普通のバスのサイズよりいささか小さいそのバスは、細い海沿いの道に入った。父と釣り船に乗った
鐙摺の漁港を過ぎると葉山マリーナ、元町という商店が軒を連ねる停留所と、次の森戸海岸の
停留所で乗客の大半が降りてしまった。乗客は僕を含め数名となった。
僕は「あれ? みんななぜ葉山まで行かないの?」と不思議な気持ちになった。
森戸海岸は小学生の頃、父と母に連れられ海水浴に来た事がある。もっとも父は母と僕を置いて
釣り船に乗って行ってしまい、僕はひとり、波と戯れていた。母は海の家に上がり座敷に座っているか、横たわっているかしていた記憶が蘇った。森戸海岸は広く、たくさんの人でにぎわっていたっけなぁ。
葉山の海といえば森戸海岸をイメージしている自分に気がついたが、どちらにしても葉山の
停留所で降りてと小池商事のおっさんに言われたのだから、そちらの海水浴場も森戸海岸同様、
賑わっているはずだと気をそらした。でもしかし、逗子駅のバスターミナルも、葉山行きよりも
他の方面行きのほうが人が多かったような気もしなくは無い。湘南と一言でいうけれど、
残り数名しかいない乗客が向かう葉山とは果たして湘南なのか・・・疑念が生じてきた。
それでも日給 8,000円上も払ってくれるバイトなのだから、それはそれで沢山のお客がいて
忙しいのだろう。すると、バスの運転手が葉山の停留所に着くとアナウンスをした。
いよいよだ。ついにやって来た。どんな仕事が、どんな人たちが僕を待ち受けているのだろう。
僕はもう一度、自分を奮い立たせた。