第二話 予兆
いじめ、それは何故起こるのだろう。自分との違い、自分より劣っているから、そんな身勝手で理不尽な暴力は、何も子供に限ったことではない。幅広い年代で起りうることだ。
僕、天影璃乃は中学の頃にいじめを受けていた。女の子みたいな顔立ちに、身長が低く、非力なこともあって何もできずにただ、されるがままだった。
僕は考えた。
(どうすればいじめを止めてくれるのだろうか)
と。
僕は考えた。
(何故殴られるのだろうか)
と。
答えは簡単だった。
(敵より強くなればいい)
僕がその力を身につけるのに1年もかからなかった。僕があいつ等を叩きのめしたのはすぐに学校全体に知れ渡っていった。自分のしたことに後悔はなかった。ただ、やり遂げたという満足感が身体を埋め尽くしていった。
その後から僕の力は、あまり見せびらかすものではないと判断し、それ以降は力を振るわなかった。ただ、普通の中学生よりも身体能力が高いというだけで・・・・・・。
◇◆◇◆◇
春、市立雨宮高校の入学式、僕は高校一年になっていた。
「えー、この度は、市立雨宮高校へのご入学、おめでとうございます・・・」
入学式が終わり、各々が自分のクラスに戻って行く。
僕も教室に戻り、自分の席について、いつものように本を開こうとすると、
「まぁた、本を読もうとする。もうちょっと周りと喋ろうぜ?」
「ん?あぁ、健か」
声をかけてきたのは、如月健。中学からの付き合いで、僕の親友でもある。イケメンでスポーツ万能、人当たりのいい性格はとても人気が高く、中学の頃からもてていた。軽く引き締まった筋肉に、高い身長。僕とは正反対だ。健の言葉に素っ気なく応えると、
「何だよ、その言い方。せっかくぼっちで寂しく本を読もうとしていた可愛い親友に声をかけてやったっていうのに」
健は、ニヤリとしながらこちらをジロジロと見てきた。
「可愛いは余計だ、後、僕は男だ。結構気にしているんだからな?」
「ごめんって(笑)」
「はぁ」
まったく反省してる様子のない健にため息をつき、読書を再開使用とするが、今度は大声で僕の名前を呼びながら走ってくる影が見えた。
「り~の~~ちゃぁぁんっ!!・・・げっちゅ!」
「ぐはっ!?」
間の延びた呼びかけと一緒に飛び込んできたその犯人の名前は、雨宮花蓮、健と同じく中学の時に知り合った。容姿端麗のその美人な彼女は、中学の時には生徒会長もしており、有名だった。今でも彼女の容姿に目を吸い付けられている人は何人もいる。その美人な容姿とのギャップが、可愛いものには目がないというものだった。そのギャップもあってか、彼女の魅力は更に磨きが掛かっている。
「おはよぉう、りのちゃんっ!」
「頼むからちゃんづけは止めてくれないかな?男としてちゃん付けで呼ばれるのは、結構くるものがあるんだよ。精神的に」
「えー!可愛いのに!」
「はぁ・・・」
何を言っても聞かないのは、中学の時に確証ずみだ。だから僕は深いため息を吐いた。
「・・・いい加減、璃乃からから手を離して変態」
「むっ?」
「おはよう雫、助かったよ」
「・・・おはよう、怪我はない?」
そう言って魔の手から救ってくれたのは、僕の幼なじみにして超絶美少女の朝霧雫。彼女は僕より少しだけ背が低く、淡い水色の髪に水色の瞳をしている。容姿端麗、成績優秀、頭脳明晰の完璧な美少女である。しかし、彼女は運動が苦手で、運動だけはあまりいい成績を出せていない。家が隣同士でいつもは一緒に登下校をするのだが、
「・・・ごめんね?今日、一緒に行けなくて」
「いいよ、家の用事だったんでしょ?」
「・・・ん」
彼女は基本無口だが、長年一緒にいるので大体のことは話さなくても何となくわかる。猫の耳が垂れ下がっているような幻覚をみた僕は、苦笑いしながら雫の頭をそっとなでた。そうすると、雫は期限を取り戻した。昔からそうすると機嫌が直るのでそうしている。何故か健がニヤニヤして、花蓮が羨ましそうにみているのが気になるが、無視だ。
ややあって、先生が教室に入ってきて、自己紹介や、連絡事項などを一通り話して、今日の授業が終わった。
そうして、入学式初日が終わった。何事もなく、ただただ、いつもの日常が過ぎていく。このときはまだ、予想もしていない理不尽がその身に降りかかることを、僕は知らない・・・・・・。
◇◆◇◆◇
『・・・・・・やっと、見つけました』
誤字脱字などありましたら、よろしくお願いします。