第一話 プロローグ
初心者です。
金属がぶつかり合う音が夜の荒野に響き渡る。なにもない、広い荒野に響き渡るそれは、いっそ幻想的とも思える光景を醸し出していた。砂埃がまい、夜空のように綺麗な黒と澄み渡るような青色の光がぶつかり合って音色を奏でている。
「ッ!!」
やがて、モウモウと舞う砂煙の中から一人の女性が飛び出してきた。青の光を纏い、その淡い青白い髪が夜の空になびく。空中で体制を立て直し、地に着いたときには目の前に地を疾走してきた黒い光が、否、黒い光を纏った少年がその女性に刃を向けている。その少年の瞳には光が宿っていなかった。
少年の黒く輝く刀身が、女性の輝白の剣と交差し火花を散らす。少年の刀が女性の剣を弾き返し、あいたわき腹に凄まじい速さでその鋭い刃を叩きつけようと迫るが、間一髪で間に自分の剣を潜り込ませ、それを受け止める。少年はそれをよんでいたかのように、すぐに刀を引き戻し、女性の頭、喉、胸、の三カ所に鋭い突きを放つ。常人であれば、それを視認する暇を与えずにその命を絶たれていただろう。だが、彼女の目はかろうじてその剣先をとらえていた。頭を剣で防ぎ、急所をそらしたが、完全に避けることは叶わず、肩と右わき腹を掠め、その地を赤く染めた。
防いだ余韻に浸る暇など到底与えてくれることはなく、その華奢なお腹に少年の拳がめり込んだ。
吹き飛び、地面に何度もバウンドし、その肌を黒く汚した。少年との距離が20メートルほど離れたところで停止し、後には少年の歩み寄ってくる足音だけがが響いていた。それはまるで、死に際に聴く、死神が歩み寄ってくるかのようだった……。
「なん…で……」
震える声で出た言葉は、少年に対する疑問だった。
少年はその声が聞こえたのか、歩みを止めてこちらを向いた。
「……ッ…!」
女性はその瞳をみて、呼吸をするのを一瞬忘れてしまった。何故なら、その少年の瞳には、なにも写っていなかったからだ。写っているのは“無”、その何も写していない瞳は、永久凍土のように冷たく、心の底から泡立ってくるような恐怖を感じさせられた。淡い青白色の髪が青色に戻り、地に伏せたまま、少年の声はよく響いた。
「…なぜ?」
少年は、その美少女のような端麗な顔立ちの唇を開き、透き通るような声音で言葉を紡いだ。
「貴様等は、俺の触れてはいけない逆鱗に触れてしまったんだ。取り返しのつかない重罪を・・・、貴様等が生きていていいわけがない、せめて、絶望をその身に刻み、苦しみながら眠るがいい」
そう言うと、少年は、禍々しく光る黒い大剣を虚空から取り出し、女性の胸に叩きつけた。
「ぐっ!?…あぁぁっ!!……あああぁぁぁっっ!!!!……がっ!!……!!」
肉が焼かれ、電撃が迸り、骨が砕けるような痛みが全身を駆け巡り、醜い音が木霊する。気絶したと思えば、痛みで意識が戻り。そして、また同じような痛みが全身を駆け巡る。その地獄を、数分、それが彼女には数時間に思えるであろう長さを感じさせていた。
◇◆◇◆◇
響く絶叫は、耳の奥にまで届き、やむ頃にはその場には血に濡れた少年と、その周りには数え切れないほどの屍が転がっていた。その地には、クレーターや、血痕、斬られた腕や足がいたるところに散らばっていて、原形をとどめていなかった。ボロボロになって中央に立つ少年は、何かを思い出すかのように目を瞑り、空を見上げ……、
……泣いていた。
誤字脱字などありましたら、よろしくお願いします。