幕間① 孤児院に加わるもの
大変遅くなってしまってすみません…
孤児院に連れてかれた二人の少年は…?という話です。
少年二人は、目の前の光景にポカンと口を開けていた。
異常な力を持つ女にやられ、意識を失いそうになっていた時。
数人の足音がして少年たちは少しだけ顔を上げた。
そこにはこの王都で知らぬ者のいない英雄たち…ギルドでSランクの称号を新たに得た7強がいた。
彼らは女と何か話すと少年たちを抱き上げる。
そこで、二人の意識は途切れた。
次に目が覚めた場所は質素な部屋だった。
ベッドが二つ置かれただけの部屋で、二人はそれぞれのベッドで寝かされていた。
起き上がって部屋を見渡すが、他に誰かいるわけでもない。
部屋は質素ではあったがきちんと掃除がされていて清潔そうだった。
寝具から体を起こすとそれぞれ腕と足に痛みを感じ、視線を落とす。
折れているらしい場所には添え木がされ包帯で固定されていた。
何やら薬品の匂いがするので、治療されているらしい。
二人は顔を見合わせる。
「…ここは何処だと思う?」
「そうだね。ギルドか…あの女の持ってる家、とか?」
「それか7強の家か…ギルドじゃなきゃ場所は把握できねぇな」
「だね。誰か来るまで待つ?」
「いや、近くに人の気配はねぇ。罠かもしれねぇがこっちから動いた方が性に合ってる」
「そう言うと思った。でも君足が折れてるよね?」
「まぁな。やばくなったら頼む」
そんな会話をして少年二人はベッドから出た。
二人は支えあうようにして部屋を出て、ゆっくりと警戒しつつ廊下を歩く。
廊下は長く、ここがただの家ではないことはよく分かった。
人の気配があれば息を潜め気配を消してやり過ごす。
だが、あまりにも無防備なため、二人はより警戒心を強めた。
「…やっぱ罠か?」
「かもね…」
そんな会話をしつつ、少しずつ進んでいく。
この家は広い。広すぎる。もしや、貴族の屋敷…?
しかし、それにしては質素過ぎる。
ここが何なのか、二人にはどう頑張っても分からなかった。
「あー!こら!そこの二人!」
考えに気を取られていたせいか、背後からの気配に気づくのが遅れた。
二人は振り返って構える。
しかし、二人は声の主を見て攻撃するのを止めた。
声の主は二人と同じか少し年上らしい少年だったのだ。
「どうして歩き回ってるんです!酷い怪我なのに!」
「いや…」
「まぁ…」
「ダメじゃないですか。悪化させたいんですか?」
「そういうわけじゃ」
「なら戻りますよ!」
プンプンと怒る少年に、二人は何故か逆らえなかった。
怒る少年に連れられ、仕方なく後に続く。
と、そこへパンの焼ける香ばしい匂いが漂ってきて、二人は揃ってお腹を鳴らした。
「…」
「…」
「あぁ。そういえば朝ごはんの時間ですね。丁度いい、このまま食堂に行きましょう」
怒っていた少年は二人の腹の音を聞いて少し笑い、向かう先を変更した。
食堂は近い場所にあったようで、少し歩くと人の気配が沢山感じられる場所についた。
そして、扉の先を見て、冒頭に戻る。
食堂と呼ばれた広い部屋に60人ほどの子供が楽しそうに集まっていた。
また、大人も20人ほどいて、子供の世話をしていたり、忙しそうに歩き回っている。
その中に二人を連れてきた7強の姿もあった。
「こら!そこ!食堂で走らない!今日のお手伝い当番は誰ですか?ちゃんと先生たちのお手伝いしますよ!あ、二人はそこに座っててください」
少年はすぐ近くの椅子に二人を座らせると、落ち着きのない子供たちの所へ行ってしまった。
そこへ、茫然としたままの二人に気付いた何人かの子供たちが二人を囲んだ。
「新入り!」
「新しい人だー」
「ねぇねぇ!名前は!」
ほとんどが二人より年下の子供たちで、無邪気にこちらを見ている彼らに戸惑う。
「おいお前ら!飯の準備手伝え!」
7強の一人が二人を囲む子供たちを呼び、子供たちはなんだかんだ文句を言いながらも二人に手を振ってそちらへ走っていく。
走ったことに対してまた怒られていたが、いつものことのようだ。
あまりにも和気あいあいとしている。
昨日の殺伐とした戦いが何だったのか分からないほどだ。
7強は二人に気づいているようだったが、子供たちに囲まれてこちらに来れないようだ。
7強からはこちらを警戒している気配は感じられなかった。
そこへ、先程の少年が戻ってきた。
二つのお盆を持ち、その上には湯気の立つスープとパンが乗っている。
「すみません、お待たせしました。おかわりもあるので沢山食べてください」
「あ、どうも…」
「おう、ありがとう…」
「あ、僕はキールです。二人は?」
「あー…僕はロイだよ」
「俺はカイだ」
「ロイとカイですね。怪我はどうですか?」
キリヤが少年Aと呼んだ方がロイ、Bと呼んだ方がカイという。
キールは二人にご飯を薦めながら、怪我の具合やここに来た経緯を聞いていく。
ロイとカイは最初言葉を濁していたものの、キールの無言の圧力に負けて洗いざらい白状した。
スラムの孤児で、そういう裏の仕事をしていたこと、その仕事で異常な女に負けて7強に連れてこられたこと。
キールは話を聞いていくうちに段々と無表情になり、最後に大きなため息をついた。
「はぁ…その異常な女というのはシスターのことですね…あの人は本当に!加減ってものを知らないんですよ。この間だって鍛えるとか言って隣の森の魔物を狩尽くすし…生態系が壊れるから止めろっていってるのに…それに先生方もシスターに逆らえないのか甘いし…」
キールはブツブツと文句を言うと、改めて二人を見た。
「ここは賢者様が運営する孤児院です。シスターは…賢者様の内縁の妻?みたいな人なんです。先生たち…7強は一緒にここを運営していたことがあって、今も手伝いに来てくれる関係なんです。二人が孤児だからここに連れて来たんだと思いますよ」
「俺らをどうするつもりなんだ?その、シスターとかいう女は」
「さぁ?怪我が治るまでは好きにしてていいと思います。シスターは今色々と忙しいので、ちょっと帰って来ないですし…君たちは僕たち子供に何かしたりするんですか?」
「んなことするかよ。俺らは子供に手を出したりしねぇ」
「それなら別に危険でもないですし…あ、でも大人でエレナさんという女の人がいるんですけど、絶対にその人には何もしないでくださいね。他の人ならともかく、エレナさんに何かしたら僕達じゃ庇えないので…」
キールは子供に囲まれて楽しそうに笑う女性を示してそう言った。
もちろん、二人は何かされない限りこちらから手を出すつもりはなかったので素直に頷いておいた。
「出ていきたいなら構いません。ただ、この孤児院の一員として言わせて頂くなら…」
キールは少し勿体ぶって、そして年相応の笑みを浮かべてこう言った。
「ここは最高の孤児院なので、ここに入ることをお勧めします!」
その日、二人の少年が孤児院に増えることとなった。