私が鍛える話 パート⑥
全然ストックできてないですが、更新します。
やっとあの人が登場します(笑)
それから7強を呼んでくれたっぽい方々にお礼(ご飯とかお金を渡したり)をして、アンナのところに1度寄り、私は徒歩で家路につく。
途中、ハッと大切なことを思い出して進路を変更する。
「こんばんわー」
私が訪れたのは酒場だ。
以前訪れた、娼館を兼ねたような妖しい雰囲気の酒場ではなく、こちらはゴツいオッサンとか飲んだくれとかがいる酒場である。
お客さんのみんなは若い女だ!と思ってこっちを見たが、あぁ、なんだキリヤかよ。みたいな反応をして仲間との談笑に戻る。
カウンターの中からこちらに一礼を返してくれたのは酒場のマスターで、くたびれたシャツを着たお爺さんだ。
しかし、実は最高級のお店で頂点に立っていたこともあるようなすごいお爺さんである。
今でもお酒が好きな国賓が来ると国王に呼ばれるレベルの人である。
このマスターと仲良しな(本人は否定してたけど)人を迎えに来たのだ。
誰も座っていないカウンター席の一番奥に一人座る彼は、多分この店で一番高くておいしいお酒を煽っていた。
「ヴェルト!」
その人…ヴェルトは私の方に振り向くことはなく、隣に座る私から顔をプイッと背けてしまった。
それを見たマスターがやれやれ、と呆れる。
「お嬢さん。あんた本当にコイツでいいのか?ただのバカだぞ?」
「おい、誰がただのバカだ」
「お前だよ。ちょっと迎えに来るのが遅いからって拗ねやがって」
「拗ねてねぇ」
私とマスターは顔を見合わせて苦笑した。
私はマスターに弱めのお酒を頼む。
マスターは分かっていたように一瞬でお酒を出してくれた。
そして、こちらにニヤリと笑いかけて私たちから距離を取る。
私はお酒を一口飲んだ。
爽やかな柑橘系の薫りがして、口当たりは甘酸っぱい。
…なんか、多分私とヴェルトに対する当て付けな気がするんだけど、このお酒…
「ヴェルト?」
「…なんだよ」
「まだ、怒ってる?」
「…別に」
「いやいや、怒ってるでしょ」
「怒ってねぇ」
実は、以前記憶喪失になりヴェルトやみんなに心配をかけまくったことがある。
そして、記憶が戻った時にヴェルトに抱きつき感動の再会?みたいな場面があったのだが、そこでヴェルトが私に何か言おうとしたところ、私はそれに気づかず他のみんなにも抱きつきに回ったのである。
どうやらそこらへんでご立腹らしい。
うーん…やっぱりエレナさんに一番に抱き着いたからか?
それともヴェルトの話に気づかなかったから?
あとはみんなに抱き着いたことかな?
いや、人は選んだよ?
女の人はみんな抱き着いたけどトーマとかはこっちから願い下げだし…
7強のみんなとかミゼンとかには抱き着いたけどそれは別に良くない?
まぁ、とりあえず拗ねてて最近飲酒量が増えてるのでどうにか仲直りしたいのである。
「ねぇねぇ」
「…んだよ」
「ここで色気のない告白されるのと、もっと静かで二人っきりの時に多少色気のある告白されるのとどっちがいい?」
私の質問にヴェルトはお酒を吹き出し、話を聞いていた客の一人が盛り上がってそれが伝染して店中が沸き、マスターがニヤニヤと笑って客にお酒を振舞い始めた。
「っ…キリヤ!」
「ずっと拗ねてるヴェルトが悪い。それに迎えに行かないと帰って来ないし」
私たちのやり取りを見た客が「ここで痴話喧嘩かー!!?」と盛り上げ始め、破局するかしないかで賭けが始まった。
「大事な話がしたいのにヴェルトは拗ねてて私のこと避けるし。そりゃ確かにめっちゃ心配かけたし迷惑もかけたから怒るのは分かるけどそこまで拗ねられるとこっちまで拗ねたくなるんだけど」
「…あ、はい。すまん…」
「言いたいことあるなら言ってくれないと。ある程度は分かるけど限度があるじゃん。私とヴェルトは同一人物じゃないんだから考えが全部伝わるわけじゃないんだよ」
「…悪かった」
「まぁ私に追いかけられて嬉しくて調子乗るのも分かるけど」
「…おい!それを言うか!?分かってても言うなよ!」
てへぺろ、とおどけて見せるとヴェルトは大きくため息をついて私の頭に手を置いた。
「別に本当に怒ってねぇよ。散々心配かけやがってとは思ってるけどな」
ヴェルトはそう言ったかと思うと、今度は私の頭を掴み、ギリギリと指先に力を入れていく。
「ちょ、痛い痛い!!?」
「確かに調子に乗ってはいた。あぁ、そりゃあ好きな女に追いかけられたら嬉しいからなぁ。だがその好きな女は心配かけた事に対して何も説明してくれねぇ。…そういや、俺の勘違いじゃなけりゃ今日も何か巻き込まれてたらしいじゃねぇか?」
「あれ?お兄ちゃんと桐那のこと説明してなかったっけ?…ていうかなんで今日こと知ってるの!?」
「報告してくれる奴ならいっぱいいるからな。…キリヤは本当に懲りねぇな!何でもかんでも首を突っ込むんじゃねぇよ!」
あぁぁぁ!
待って!マジで!頭蓋骨陥没するから!下手すると穴開くから!
私は慌ててハルトが狙われていることを説明し、その責任の一端が私にあることを話す。
和朔と桐那についてはまた二人っきりの時にでも話そう、うん。
私の必死の説明のお陰か、ヴェルトは頭から手を離した。
私たちの様子を見ていた客は「痴話喧嘩が終わっちまった…」と何故か残念そうにしていた。
マスターの「賭けを締め切るぞ」という一言で、慌てて客の何人かが新しく賭け直す。
…絶対その賭け金の一部貰うからなお前ら!
「チッ」
「うう…酷い…絶対頭蓋骨にヒビ入った…」
「んなわけあるか。…それで?ハルトはどうしてる」
「家全体で警戒してるみたい。7強も手伝ってくれるって」
「…それなら安心か」
「うん。…ちゃんと無事で帰るし、ヴェルトのことちゃんと頼るから。安心していいよー」
「…安心できねぇ…!」
本当に信用ないなぁ…
まぁ、自業自得である部分も多いから仕方がない。
ヴェルトの言うとおり、私は自分の好きな人たちを幸せにしたいし、そのためには多少の無茶をする。
その多少の無茶が周りの人にとっては多少ではないからいけないのだろうけど…
「…ヴェルト」
「あ?」
「…転移!」
私はヴェルトの服の裾を掴み、一緒に転移する。
マスターたちには悪いけど、目の前で賭けの結果を見せるつもりはない。
転移で訪れた場所は、かつて組織の基地があった洞窟の目の前だ。
神様が私に力をくれた場所。
「っ、おい。急に転移すんなよ。グラス持ってきちまっただろ」
「う、ん。えーっと…」
「あのクソ爺がまた怒る……キリヤ?」
ヴェルトの言葉が右から左へ通りすぎていく。
…でも、仕方ないじゃないか。
前の人生を含めたって、告白なんて初めてなんだから。
心臓の音が凄い。
顔が熱い。
頭が真っ白になる。
「あの、私…!」
「あー、待て!」
「うぐっ」
口を開こうとしたその瞬間、ヴェルトに口を押さえつけられた。
ヴェルトは片手で私の口を押さえ、もう片方の手で自分の顔を押さえていた。
その顔が、とても赤い。
「…いや、その、な。…あー…そりゃ、確かに嬉しいんだが…やっぱり、俺から言わせてくれ」
そうしてヴェルトは私から手を離し、何故か服を整え始めた。
それに釣られて私も服を整える。
そして。
きっと、この日のことを忘れることはないだろう。
…あんまり、色気のある告白はできなかったけど。
ヴェルト君、どんな告白したんですかね…
キリヤもなんて答えたんでしょーか…