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最強な賢者様と私の話 Ⅱ  作者: 天城 在禾
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私が鍛える話 パート③





驚いた私の様子を見て、ギルドマスターはにやにやと笑った。

私はそんなギルドマスターに紙包みを放り投げ、ゼスさんに駆け寄る。


「ゼスさん!どうしたんですか?」

「お久しぶりでございます、キリヤ様。益々お美しくなられて…」

「…ゼスさん老眼ですか?」

「わたくしはまだまだ現役ですよ」


微妙に噛み合わない会話に、私はため息を吐いた。

ゼスさんを忘れている方も多いと思う。

ゼスさんはハルトがお世話になっているオルディーティ家の執事さんである。

強力な魔術師でもあり、火の精霊王と契約している、ダンディーで紳士なおじいさまだ。

ゼスさんと地味に見つめあっていると、ギルドマスターが横槍を入れてきた。


「おい嬢ちゃん!危ねぇだろ。急に投げるなよな」

「あ、ごめん手が滑っちゃったー」

「棒読みかよ!」


私たちのやり取りを見て、ウィルは苦笑し、男性はポカンと口を開けて呆然としていた。


「ま、マスター…この女とはどのような関係が…?」


若干震えた声で恐る恐る男性はギルドマスターに質問した。

ギルドマスターはまたにやにやと笑い始め、男性に座るように指示した。

ゼスさんはすでにギルドマスターの前の席にいて、私が入って来たときに立ったので、私はゼスさんの隣にさっさと座った。

私が座るとゼスさんも座る。

ウィルは一瞬迷ったようだが、ギルドマスターの隣に座った。

男性はウィルに手招きされてウィルの横に座った。


「まぁ、改めて自己紹介してやれよ。まずはタール、お前からなー」


男性はタールさんというらしい。

ギルドマスターがこうやって紹介させるくらいだ、目をかけているのだろう。

私はちょっと疑問を持ちつつタールさんを改めて観察してみた。

至って平凡な茶髪で男性にしては大きめの瞳も茶色。そのおかけで童顔に見える…

身長は隣に座るウィルやギルドマスターのせいで低く見えがちだが、平均よりも高めだろう。

どうしたって隣のウィルと比べてしまうのだが、身体は引き締まった筋肉で覆われているし、動きも悪くない。

というか、ギルド内では上位に入る実力を持っているんだろう。

変なところに警戒を向けなければ、だが。


「え、あ…タールだ、いや、です。ギルドランクはBで、ギルドに入って13年になる、ます…」

「おいおい。嬢ちゃん相手に緊張しなくてもいいんだぜ?まぁ、この爺さんはちょっとアレだけどな」

「ダイロス、キリヤ様がお優しいからと言って調子に乗るようですともう一度一から修業させますよ」

「マジでやめてくれよ…」


私はゼスさんとギルドマスターを見てちょっと意外に思った。

入った時に緊張感がなかったことには気づいていたが、まさか師弟関係のようなものがあったとは思わなかった。


「私はキリヤです。ウィルの弟子かつ妹弟子で元雇用主でもあります。なんでウィルや他の7強とは仲良しです。ギルドランクはDです」


私が自己紹介すると、タールさんは不思議そうな顔をした。

うん、ウィルたちとの関係性が全く分からないよね!


「弟子で妹弟子…?元雇用主?」

「ま、気にすんな。とりあえず俺らとキリヤの仲がいいってことだけ覚えてくれりゃぁいいぜ」

「は、はい!」


さすがに可哀想に思ったのか、横からウィルがフォローをいれてくれた。


「他の奴らみたいに嬢ちゃんに喧嘩吹っ掛けんなよ?タール、そっちの包みも渡してくれ」

「はい!」


タールさんから紙包みを貰ったギルドマスターは両方ともバリバリと音を立てて破き、中身を取り出した。

片方は何かの魔具で、片方は紙の束だった。

私が運んだほうが魔具である。

ギルドマスターは紙の束をペラペラとめくって確認し、魔具を見て、それから私を見た。


「…嬢ちゃん」

「…はぁ。起動させればいいんですね?」


見たところ、紙の束に魔具の起動方法が書かれているらしかった。

まぁ、そんなの見なくても私には起動方法は分かる。

何故ならこの魔具を作ったのは私だからである。

平たい板状の魔具を手に取り、ちょっとツルツルした面の上で魔力を込めた指を滑らせる。

漢字で「解除」と書いて、こっちの文字で「開け」と書いてやっと起動するのだ。

魔具は柔らかな光を出したかと思うと、どんどん板に字が彫られていく。

私はその文字を追う毎にどんどん無表情になるのを感じた。


「お、おーい。嬢ちゃん?」

「…私を呼んでくれてどうもありがとう。ふふ。もちろん私にやらせてくれるんだよね」

「待…」

「ね?」


私の有無を言わせない態度にギルドマスターは怯えたようにヒッと息を呑んだ。

長い付き合いであるウィルですら冷や汗をかいているようで、タールさんなんかは椅子から落ちてしまった。


「キリヤ様。落ち着いてくださいませ。その魔具をわたくしにも見せてくださいますか?」

「どうぞ。でも、ゼスさんは分かってることですよね?だから私を呼んだんだもの」


私は魔具をゼスさんに渡した。

ゼスさんは内容を見ても驚かなかった。


「はい。この事態をお知らせしたくキリヤ様をお呼びいたしました。遅くなりまして申し訳ありません」


ゼスさんは魔具を一番しっかりしているウィルに渡して立ち上がり、深々と私に頭を下げた。

別に怒っているわけではないので、ゼスさんの謝罪に首を振る。


「…キリヤ。これは…」

「うん。私を奴隷に落としたディグザムの元雇い主でハルトを狙ったクソ野郎が、またハルトを狙ってるみたい」


魔具を見たウィルも殺気立った。

そう。

私の復讐の対象はディグザムで、みんなの解放を優先したため忘れていたが、ディグザムの元雇い主は貴族であったのだ。

そのクソ貴族が、また、ハルトを狙って動いているという。

それも…お父さんとお母さんを人質に取り、ハルト自身に洗脳を掛るという方法で。


「不自然な動きがございましたので、レイド様とリリア様は当家で保護しております。ハルト様には通常の生活を送って頂いておりますが、このことをお伝えし、警戒しております」

「…捕まえるには証拠が足りないのか」

「はい。慎重な性格のようで、証拠が少なく…力不足で申し訳ありません」

「ゼスさんに怒ってるわけでも苛立ってるわけでもありません。私自身とこのクソ野郎に腹が立ってるだけですから」


あー。やっぱり人間は安心すると油断ができるよね。

…あのとき。ディグザムに復讐したついでに、この貴族についても調べればよかったのだ。

なのに、組織のみんなのことしか考えてなくて…

証拠を潰したのも私自身だろう。

あれでディグザムは慎重な男だったので、きっと取引の証拠を残していたはずだ。

だが、私が復讐を果たし、ディグザムたちを国に引き渡した時にその貴族が証拠を握りつぶしたに違いない。


「あー、クソ…10歳の私をぶん殴りたい。ゼスさん、この調査をギルドマスターに依頼したってことはハルトの護衛か貴族の摘発の協力もギルドに依頼する予定だったんですよね?」

「はい。ギルドにキリヤ様が登録されていることは知りませんでしたが、ハルト様がなついていらっしゃる7強の方々がいらっしゃいます。7強の皆様でしたら協力してくださると思いましたので」

「当然だな。他の奴らも喜んですっ飛んでくるだろ」


ウィルが強く頷いてくれて、私は軽く息をついた。

私は貴族を捕まえる方に行く予定だ。

そのとき、ハルトを守ってくれる人がいることで安心できる。


「私は貴族を捕まえます。ウィル、ハルトのことは頼んだよ?」

「おう」


返事をしてウィルは部屋を出ていった。

7強の他の メンバーに話しをつけにいったのだろう。


「それではキリヤ様、わたくしも1度アルベルト様にお話をして参ります。明日、同じ時間にこちらにお伺いいたします」


ゼスさんも部屋を出ていった。

部屋に取り残された形のギルドマスターは深いため息を吐き、タールさんはやっと椅子に座り直していた。


明日の鍛練は見送ってもらおう。

それに、ミゼンたちにも手伝って貰ったほうが良さそうだし、ね。















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