6話 相談
「うん、断る!」
「ええーー!?」
そんなもの断るに決まっているじゃないか。唯一、俺を打ち倒す存在である勇者を仲間として共に行動するなんて出来るわけがない。
魔族なら魔王の権限で何とかできるからともかく、勇者なんて俺にとってはただの爆弾だ、誰がいつ爆発するかわからない爆弾をそばに置けるか。そんなものは自分よりできるだけ離れた場所に置いて隔離しておきたい。さらに触るな危険の張り紙までしといてやる。
「ちょっと、この流れで断るんかいな」
「仲間はちょっと難しいかな、でも、相談の内容によっては協力くらいはできるかな」
そういう訳でちょっくら相談にのることにしてみた。
まあ予想通り貴族に目をつけられてるそうだが。
この街で色々活躍し、領主にも認められるようになった勇者は、店を持つことが許されるようになった。
そこで商売を始める訳だが、この街ならではの特産品を売ることを考えた。まあ最初は珍しいものを売ればそれが名物になるかもしれないと思ったようだ。
まずはちょっとメモを取るのに便利になると思ってペンシルを作ったらしい。こいつは消せるという特徴があるのだが、チョークのように手でこすっただけで消えてしまうものではなく、消しゴムという別のアイテムでこすった時だけ消える代物だ。
その消しゴムの原料になる樹木が、この街の近くの森にあるのだがそこの土地の管理しているのが例の貴族様ってやつで、管理と言ってるが、消しゴムの原料となるって判明するまで何もしてこなかった奴だ。ただ土地を持っているだけだったのだ。それが急に価値があるとわかったとたんに横暴になって利益をよこすように言ってきたそうだ。
勇者の方も、最初は売り上げの何パーセントかぐらいは還元して支払っていたのだが、だんだんと要求がエスカレートしていって、原料から製品にするやり方を教えろとか、別の所からもっと高値で買い取ってくれるところが現れたとか言って、取引額をあげたりしてきたのだ。
もちろん勇者は作り方を教えたりしなかった。当たり前だ、そんなもの企業秘密に決まってるじゃないか。できた製品を見、試行錯誤して自分で作り方を研究するのならともかくだ。
教わるならそれこそ弟子入りしたり、契約を交わしてレシピ使用料を払うのが当たり前なのだが、そういうのは職人や商人の考えであって貴族には通じなかったってことだ。
馬鹿な奴だと思ったが、勇者を困らせるという事に関しては参考にさせてもらう部分がありそうだ。なにせ魔族には絶対にない発想をしておるからな。
ちなみに、この消しゴムの素材になってるゴムってのは、加工次第で色々な用途に使えるらしく、ゴムを使った製品をこの街の名産品にしようとしていたところだったそうだ。
ふむふむ、なるほど、このゴムの製造方法と加工、ゴムの特性と用途はきっと異世界の知識に違いないな。くぅー、これだよ、こういうのを待ってたんだよ。
そう思ってワクワクすればするほど、その商品の製造を妨害している存在がこの上なく憎らしくなってくる。
一応、信頼を得たとされてるこの街の領主にも相談したらしいのだが、うまくいかなかったらしい。
「領主さんはあまり商売の取り決めや契約とかに詳しくないみたいなんや。名産品として価値が上がったんなら値段が上がるもんやろ? 製造方法も、売れて品薄になったんやから教えて人手を増やすのは別に悪いことやない。とかゆうてるし」
勇者も随分と苦労してるようだな。商売なんてわからん奴にはとことん理解できないだろうし。
それにしても非常識で理不尽のかたまりだと思っていた勇者が、こうも翻弄されてるとは、貴族や領主、あなどれんな。
「ちゃうねん! 値段あげたら売れ行きは悪うなるし、人手増やすんは信頼できる人やないとあかんねん、商売敵増やしたら意味ないんや」
勇者の興奮は続いていた。ストレスたまってたんだな。こういう場合は何も考えず、俺はただうなずいておけばいいだろう。うんうん、ソウダネー。これでよし。
そんな風に対応してたら。
「ちゃんと訊いてる?」
面倒になってきたなぁ、わかったわかった、協力してやるから開放してくれ。
「ちゃんと訊いてるよ。その貴族を何とかすればいいんでしょ」
何とかすればいいとは言ったが、簡単ではなさそうだ。
これがただ単に、一つの貴族が私利私欲のために暴走しただけならその貴族を始末するなり、部下の魔族に成り代わらせて傀儡にでもすれば、しばらくの間は問題も起こらないだろう。
だが、俺が今まで調べた人族の貴族ならば、おそらくややこしいことになっていると思う。たぶんもっと複数の貴族がこのことに係わってそうだな。もっと情報が必要になるだろう。
まったく、俺が勇者についてどれだけ調べたと思ってるんだ。歴代勇者の死因まで調べたんだぞ。貴族のやり方で毒殺できないか試したりもしたんだからな。まあ、できなかったんだが。
おそらく表に出てきている貴族は、下っ端だ。黒幕がいると考えた方がいいだろう。そこで、なぜ黒幕がこのようなことをしているのかを考えねばならん。商品は作って売らなければ利益が出ない、なのに原料を売らないようにしているのは何故か。何故だ?
そういえば、ゴムの製造方法を教えろって言われてたな。目的はそれだけだろうか。それだけで貴族が動くか? 何か他にもありそうな気がするな。
ふむ、何をするにしてももっと情報が必要だな。取り合えず、今考えるのはここまでかな。
「えぇ! そない簡単にできたらええんやけど……。それにあんたみたいな子供が貴族に逆らったりしたら、どないな目に会うか考えるだけでも恐ろしいわ。確かに協力してってゆうたけど、うちが考えてたんは、貴族が持っとる土地以外の場所に、ゴムの原料になる木があるか探してもらいたかっただけや。強そうな護衛さんがおるから、この辺の森にいる魔物くらいやったら問題なさそうやし……」
お! それは、原料になる木につて詳しく教えてもらえるってことか。いい条件だ。
「じゃあそれもやっとくよ、どんな木をさがせばいいの?」
「なんや急に末恐ろしい子にみえてきたわ、あんたどっかで怪しい薬飲まされて、子供になった高校生とか言わんとってや」
この話を書いた時に思ったことを勇者が最後に言ってくれました。
一応この勇者の名前はキヌエで、店の名前は雑貨屋シルクなのですが、魔王視点では中々出てくることがないような気がします。