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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人形の魔女

作者: 白雪姫

 暗い森の奥深く。そこには人形の魔女と呼ばれた少女が住んでいました。

 今日はその少女の話をしましょう。

 彼女は生まれつきの赤い髪から“魔女”と呼ばれ、迫害されてきました。子供たちも親から「あれは悪い“魔女”だから付き合ってはいけないよ」と教えられ、無視するか彼女をいじめるかのどちらかでした。


 “魔女”は何故自分がこんな目に遭わなければいけないのかといつも泣いていました。

 彼女が10歳になった時、彼女は村を追い出され、森の奥へと向かいました。

 村のしきたりにより10歳になる春までは面倒を見ることになっていましたが、それが過ぎたことにより義務は果たしたとばかりに森へ捨てられたのです。

 森には凶暴な獣がいます。捨てれば簡単に消えてくれると思ったのでしょう。

 しかし、幸運にも獣に目をつけられずに済んだ彼女は森の道を逸れ、少し歩いたところで大きな屋敷を見つけます。


「ごめんください」


 声をかけても返事はありません。お腹の減っていた彼女は屋敷の戸を開け、中に入ります。大きな廊下を進み、突き当たった部屋に入るとそこには沢山の料理が置いてありました。

 我慢出来ずに彼女が料理に口をつけると、後ろから声がしました。


「美味しいかい?」


 心臓が凍るような驚きが彼女を襲います。勝手に食べたことはもちろん、自分は“魔女”です。村にいた頃のように木の棒で殴りつけられるのではないかと怯えながら振り向くとそこに立っていたのは貼り付けたような笑顔の人形でした。


「美味しいかい?」

「はい、とても」


 人間ではないとわかった時、彼女は安心しました。幼い少女にとって、村での生活は人を見ることが恐怖になるほど辛いものでした。

 目の前の不気味な人形に笑顔を浮かべて会話をするほど彼女の心は壊れていたのです。


「それはよかったよ」


 人形は貼り付けられた笑顔のまま彼女の頭を撫でました。


「こんなところには誰も来てくれないからね。どうぞ、もっとお食べ」


 人形の言葉を合図にしたかのように彼女のお腹が可愛らしい音を立てました。

 恥ずかしそうにうつむいた彼女に人形が料理を差し出します。


 それからの人形との生活は今までにはない色鮮やかな思い出を彼女に与えてくれました。

 不思議な人形は彼女に文字を教え、笑うことを教え、料理や薬の作り方まで教えてくれました。

 物心がついた時には一人ぼっちだった彼女にとって、人形は初めての家族でした。


「ずっと一人ぼっちで寂しかったんだ」


 時々、人形は思い出したかのようにそう呟きます。


「私も家族が欲しかったの」


 いつも彼女はそんなふうに答えます。

 その度に人形は嬉しそうに笑っているような気がしました。





「友達ってどんなものなの?」


 ある日、本を読みながら少女は尋ねました。


「自分と一緒に遊んだりしてくれるものさ」

「人形さんは友達?」

「僕は家族だよ、もっと大事なものさ。 でも、僕も友達が欲しかったな」


 そう言う人形はいつもと変わらない笑みのはずなのに少し寂しそうに見えました。






 彼女が屋敷にたどり着いて、ちょうど1年が経った時、人形が誕生日のお祝いをしてくれました。


「ここに来た日が君の誕生日だ」


 そんなことを言いながら人形は彼女と遊び、小さなパーティを開いてくれました。


「人形さんはいつが誕生日なの?」


 人形は少し考えて言いました。


「そうだねぇ、夏頃かなぁ」

「夏頃ね、絶対に私もお祝いをしてあげるわ」

「君は優しい子だね」


 そう言って人形は嬉しそうに笑っていました


 それからというもの、彼女の頭の中は人形の誕生日祝いのことでいっぱいでした。


「誕生日のお祝いってどんなことをするのかしら?」


 彼女は屋敷中にある本棚をひっくり返して誕生日の話を探しました。


「誕生日パーティには友達を呼ぶのね!」


 彼女が見つけた絵本には友達と一緒に誕生日を祝う男の子の絵が描いてありました。


「でも、人形さんに友達はいないし…………」


「そうだ! 私が友達を作ってあげればいいんだわ!」


 それはとても素晴らしい思いつきのように思えました。

 それから彼女は人形の友達作りを計画しました。

 去年の夏には子供たちがこの屋敷の近くにある小さな小屋を見つけて中で遊んでいたのを彼女は知っていました。

 もう少し先に行けば屋敷があるのですが、小屋に気付いた子供たちはそこを夏の間の秘密基地に使っていました。

 楽しそうなはしゃぎ声に、何度覗きに行きたいと思ったことでしょう。

 ですが、自分は“魔女”です。きっと友達になんてなってくれません。

 そう考えた彼女は悩んだ末に素晴らしいアイデアを思いつきました。


「人の友達はつくれないわ。 人形さんの友達はやっぱり人形よね」


 そういって彼女は森で材料を集めると部屋の中で作業をし始めました。

 本を見ながらせっせと作り上げます。






 森の中に蝉の声が鳴り響く頃、彼女は朝早くから料理をしていました。

 パンケーキを作っていたのです。彼女は朝から小屋に入り、パンケーキを置いて立ち去りました。


 お昼頃に窓の外を覗いて彼女は大喜びします。


「やっぱりいるわ!」


 小さな小屋で3人の子供たちが遊んでいるのが見えました。どうやらパンケーキに興味を持っているようです。

 しばらく迷っていた子供たちですが、しばらく遊んでお腹がすいていたのかパンケーキを口にしました。

 3人とも1枚ずつパンケーキを平らげました。


 しばらくして、彼女が小屋を覗きに行くと子供たちが眠っているのが見えました。


「パンケーキ美味しかったかしら?」


 そんなことを考えながら小屋の中をを覗きに行くと村の子供達がぐっすりと眠っていました。


「この日のためにいっぱい勉強したのよ」


 夏になるまでせっせと勉強し、料理の練習をしていた彼女はしっかりと計画を立てていました。


「これでお友達になれるね」


 そう言って彼女は手に持ったナイフを一番太った男の子の腹に突き立てます。


「うぐぅ!」


 男の子が大きな悲鳴を上げます。目を覚まして呆然としている彼の腹から“魔女”はナイフを抜き、再び突き刺します。

 彼女の赤い髪と対照的な美しい白い肌は返り血で彼女の髪よりも深い緋色に染まっています。


「!?」


 悲鳴を聞いたもう一人の少年も目を覚まし、ナイフを持った魔女を見て逃げ出そうとしますが身体が動きません。


「パンケーキ美味しかったでしょう? 森の奥に生えてる痺れ草と眠草はとっても甘い味がするのよ」


 “魔女”は笑みを浮かべながら動かなくなった子供からナイフを抜くとその血に染まった刃を二人目のお腹に触れさせます。


「なんでこんなことをするんだよ!」


 しびれて動きづらい口からそんな言葉を捻り出します。


「友達が欲しいの」


 “魔女”は貼り付けられたような笑みを浮かべて答えました。


「なんで友達になるのに殺すんだ!」


 徐々に口が回るようになってきた一番年上の彼は彼女を説得します。


「殺す…………? なぁにそれ? 仲良くなりたいだけなのにどうして怒るの?」


 そこに人形のような笑みはありませんでした。そこにあるのは人間らしい不思議そうな顔でした。


「怒ってないよ。 僕は君と友達になりたいんだ」


 説得のチャンスだと考えた彼は震える声をねじ伏せながら、作り笑顔で“魔女”に語りかけます。


「よかった。 お友達になってくれるのね!」


 彼は自分の説得が上手くいったと安堵の表情を浮かべます。

 しかし次の瞬間、彼女の持っていた刃が彼の胸を貫きました。


「え…………?」


 自分の身に降り掛かった災厄が理解できず、呆然とする少年。


「人形さんのお友達になろうね」


 “魔女”は再び人形のような笑みを浮かべナイフを抜き、。


「最後は貴女ね!」


 最後に残ったのは村で“魔女”をいじめていた女の子でした。

 魔女は女の子の顔を見て村で自分のことをいじめた子だと思い出しました。


「貴女はお友達じゃないわ」


 “魔女”はナイフを手放し、小屋を出ました。


 自分は殺されずに済むのかと期待したのもつかの間、戻ってきた“魔女”が持ってきたのは大きなノコギリでした。


「パーティのお料理を作るのに、お肉が足りないの」






 子供たちがいないことに村の大人達が気づいたのはその夜のことでした。しかし、森の奥を探すのは危険だということで森の奥を探すのは次の日になりました。


 次の日、朝から子供探しが行われました。とうとう屋敷を見つけた村人達は屋敷の戸を開きます。


 強烈な死臭がする扉を開けた時、むせ返るような血の香りと共に彼らの目に飛び込んできたものは、中身をくり抜かれ、綿を詰め込まれた二人の少年と料理《人だったもの》を人形と共に囲っている赤い髪の女の子でした。


「誕生日おめでとう! 人形さん。」


「そうよ。 私頑張ったんだから!」


「友達ができて私も嬉しいわ!」


 物言わぬ人形に話しかけ、人形と同じ笑顔を浮かべてケタケタと笑う少女は、この先「人形の魔女」として語り継がれるのでした。

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