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09話 塹壕とゴーレム

街道を進むにつれ、各わき道から俺達と同じような義勇と名が付く徴兵された者や兵士達が加わり、大きな編隊となって平原を目指す。昼夜問わず行進し、休む隊列は街道の脇でそれぞれ休んだ。そして、徒歩で56日目、俺達はデダーブ平原を見下ろす丘にたどり着いた。両軍、平原を向い合わせで陣を張り、その先で両軍の工兵と思われる兵士が必死で杭や塹壕を掘っている。


「ビドリブさん……こう見ると圧巻ですね。何人いるのですかね」

「さっき休憩のときに聞こえたが、俺達の国は5万人集めたらしい、敵国もそれぐらいはいるだろう」


話していると、馬に乗った指揮官が大声で怒鳴る。


「お前ら工兵達は平原へ向い、塹壕作りに加われ!」


号令と共に俺達は渡されたスコップを片手に塹壕へ向う。塹壕へ向うと顔の大きな傷がある兵士が声を上げる。


「おお!援軍がきたか!俺は工兵団長ベッドリーだ!伝令によると3日後に両軍がここでぶつかる!俺達は塹壕を深く掘り、広げるぞ!」


てきぱきと指示を出していく。俺は指示通りに塹壕の先に行き、土魔法でガンガン先を広げて出た土は塹壕脇へ移動させていく。俺と同じように土魔法が使える人も協力して広げていく。年配のビドリブさんや同じ班の人は俺が広げた後ろで地面に板を敷き、通路を確保していく。


「うむ、優秀な土魔法の工兵がいるから捗るな!そのまま陣営へ囲うように広げ行くぞ!」



その日は暗くなっても火を焚いて休憩を挟みながら塹壕を広げていく。


「よし!お前達班とそこの班は食事と仮眠の休憩に入れ!」


そう工兵団長ベッドリーに言われて、俺達の班と3つの班は塹壕奥の休憩場所へ移動した。



「君の土魔法は凄いね。それに魔力切れしてないみたいだし、あ、俺はボウダテという」

地面に布を引いただけの場所で支給されたパンとスープを飲んでいると、一緒に土魔法をやっていた人が声をかけてくる。


「あ、どうもボウダテさん、ベロデからきたアルフです、こっちはビドリブさんで…」

それぞれ近い人を紹介して握手をしあう。ボウダデさんは北部の町から徴兵されたとの事。


「それだけ魔力があるならゴーレムも作れるじゃないか?」

「ゴーレム…ですか」

「あれ?知らないのか?」

「はい、実はまだ土魔法を覚えて数ヶ月で、土を動かすしか知らないのですよ」

「ああ、それは勿体ないよ、土人形を作って動かすのもやったほうがいいよ。魔力が多いなら!」


聞くと土で人形や獣の形を作り自由に動かせる方法あるという。だが、魔力が多く必要で難しいという。へぇーと聞きながら食べ終わった手をパンパンと叩き、地面に手を置いて小さな人形をイメージする。地面が盛り上がり、50センチぐらいに小さな人形ができるが、魔力を流し続けてぎこちない動きしか出来なくそのまま土が崩れていく。


「うまいね!初めてでそれができれば凄いものだよ!僕は魔力が少ないから人形を形成するしかできないけどね」


彼も同じように地面に手をかざして人形を作る。俺の人形よりしっかり出来ている。だが動かそうとしたとたんに崩れて土になっていく。その後もボウダテさん会話して土魔法を少し教えてもらう。ボウダテさんは土以外の魔法がまるでダメで、自己流で色々学んだとの事。魔力を増やすには鍛錬が必須で彼はこの戦いで鍛錬できると出てきたらしい。身なりや話し方は良さそうな出身なのに死ぬかもしれない戦場にくるとは奇特な人だ。


仮眠を取るまで俺はボウダテさんから土魔法の魅力を聞かされる。彼がいうにはどこにもある地面を利用できるこの魔法は最高だという事、そして土魔法を使う魔法使いがもっと活躍できれば、最高だと熱っぽく語られるが、俺はそうですかと少し呆れながら聞いていた。

確かにこの世界で土魔法はあまり有意義には見られない。土を操作できるといってもスコップをもった人員

で行えば、問題ないし、土魔法も魔法だから魔力切れになれば、使えない。どう考えてもスコップ掘ったほうが効率はいい。物凄い魔力があれば別だがそんな人間トラクターのような人間はそうそういないし、活躍も地味だ。


そんなボウダテさんの会話を聞きいていると、戦いで負けそうになったら地面に潜って隠れて逃げるという技と土を固くするという技も教えてくれる。確かに万が一のときは使えると考えて、実践を交えて教えてもらった。


「この技はずっと地面に中にいると息苦しくなるね。危うく気分が悪くなって死にそうなった事があるよ、少しでもいいから外の風がはいるようにしないと危ないよ」


この世界に酸素という概念がないせいか。もし使うなら風魔法で時々、風を入れるようだな。それから2日間塹壕を掘ったり、荷物を運んだり、杭を削って地面に刺したりと俺達は繰り返した。



2日後、大きなラッパの合図で戦闘が始まった。俺達は前線から離れた場所で、弓を運んだり、炊き出しの飯を運んだり、塹壕を広げたりを繰り返した。その間もボウダテさんから教わった土魔法を鍛錬していたが、夜に塹壕で休んでいると、ボウダテさんがココだけの話だけどねと小声で話しかけて小さな黒い石を見せてきた。



「これはね。禁制になっている魔力を吸い取る石。死んだ人間限定だけど、死んだ人間の近くいれば、死んだ人間の魔力を吸収する事ができるんだよ。でね……これを飲み込むと自分の魔力を上げる事ができる」


「え?そんな魔道具があるのですか!?」

「しっ!声が大きいよ!」

「あ、すいません」


魔道具屋で仕事していたが、初耳だ。というか禁制品の事は聞いていたが、持っているだけで処刑されるっていう危ない品物だ。


「でね、この戦争では多くの人が死ぬでしょ?だからここにいて魔力を吸収すれば凄いことになると思わないか?」

「それができたら凄いですね。あ、でもそれって同じ事知っている人って…」

「これは僕の家に代々伝わる秘伝でね。アルフ君は僕が出合った中で一番土魔法がうまいから特別に教えているんだ。もし旨くいったら、これ!あげるよ。一緒に土魔法を頑張ろうね」


懐から数個の同じような石を見せてくる。


「俺に教えないほうがいいじゃ?」

「そんな何個も石を飲んで魔力は限界があるとは思うからね。もし危なくなったら一緒に逃げるのを手伝ってくると助かる」

「あ、その賄賂も込みですね」

「まあ、悪くいえばね」

「さっき豪華な天幕で休んでいる司令官の会話を盗み聞いたけど、この戦いは僕達の陣営は負けるみたいだよ。敵の総攻撃がもう間もなく始まるかもしれないから、司令官達はもう夕刻には後方に引き上げ済みだよ?」


「え?じゃ、今から逃げましょうよ!?」

「しっ!声が大きいよ!」

「すいません…」

「いいかい?それだと魔力が溜まらないから、ギリギリまでいるよ…だから「ドスッ!」ぁ…」


ドスっと音がして、ボウダテさんを見ると胸に矢が刺さっていた。


____「敵襲!!」


耳を劈くような鐘の音と怒号が飛び交い、兵士達が盾を構えて、魔術師達が空へ照明の変わりに炎を打ち上げる。


「あ、ああ…グフォ…」

「ボウダテさん!ああ、誰か!治癒兵は!治癒兵はいませんか…あ…」


炎の照明弾が空を照らすと無数の黒い矢がこちらに降り注ぐのが見える。


急いで脇の土壁を土魔法でへこませて洞窟のようにし、ボウダテさんの襟を持って引きずって入れる。入り口にある手当たり次第荷物を洞窟に入れて、僅かに見えるように隙間を残して入り口を塞ぐ。


「ボウダテさん!こ、この位置なら大丈夫です!死ぬことないですから!」

耳元で元気付けるように言う。


唸るボウダテさんを抑えて矢を抜いた。抜いた後に不味かったか?と思ったが、仕方ない。ボウダテさんは目を開きながら失神した。


荷物に酒瓶を見つけて彼に飲ませて傷口を酒で洗い流す。荷物の中には包帯があり、とりあえず出血を抑えるために強く抑えて一息つく。塞いだ入り口の隙間からは兵士達の怒号が飛び交っている。土魔法で更に奥に空間を広げて頭上に少し空気が入るように穴を開けて手を伸ばして草で蓋をした。この広さなら…たぶんだが、数日は大丈夫だろう。




外の怒号はまだ止まないが、洞窟内は静かだ。

目を覚ましたボウダテさんが声をかけてくる。



「すまないね、アルフ君」

「いえ、気分はどうですか?少しですけどお酒とパンがあります」

「ありがとう。傷は…いっ…痛い」

「結構重症ですよ」

「こんな時、治癒魔法覚えておけば良かったと後悔するね。アルフくんは使える?」

「い、いえ教わった事も試した事もないです…」

「じゃ、今、覚えてよ。僕は使えないけど教えるから」

「あはは、じゃ、教わりますか」


「あと、僕が死んだら家族にこの金と手紙を渡してくれないかな?」

「そんなの自分で渡してくださいよ」





結局、俺は治癒魔法を会得できなかった。

隙間から見える日差しが落ちた頃にボウダテさんは呼吸を止めた。

外の戦いの怒号はまだ止まない。


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