46話 ボウダテさんの手紙
2封の封筒。
俺は土で汚れた「魔力管理省の執行者様へボウダテ・フォン・オルガーより、謝罪をこめて願い」を読み始めた。
魔力管理省の執行者様へ
ボウダテ・フォン・オルガーより、謝罪をこめて願い
大変、ご迷惑をお掛けしました。
魔法省の全てをかけて開発した技術ではありますが、日々悩み考えた末に、この技術は世に出るべきではないと判断を致しました。理由としましては、論理の問題です。いかに強くなれるとしても、行き着く先は大量の虐殺。魔法省の理念である魔力の均衡を破壊する事になります。この技術を国が持てば、世界は必ず崩壊します。
しかしながら、執行者様が、この手紙を読んでいるということは、私のエゴを裁きに来たという事に変わり有りません。何卒、穏便に対応いただける事を切に願います。家族にはこの一切を伝えてはおりません。お願い申し上げます。私の家族は見逃してください。
グザバード・バーミリロ魔法王国
魔法省最高技術者 ボウダテ・フォン・オルガー
俺は無言でもう1封を開けて読む。
伝説の魔導士様へ
これを読んでいるという事は……僕はもう死んでいると思う。誰が読んでいるか分からないが、事実だけを書いておくね。僕はグザバード・バーミリロ魔法王国で、魔法省最高技術者だったボウダテ・フォン・オルガーという名で、オルガ-公爵の次男。
最初はコネで魔法省に入ったのだけど、研究が向いていたのか才能があったか分からないけど、評価されて入省3年目から古代文明魔法研究課に配属になったんだ。ああ、古代文明魔法研究課はエリートしか入れない名誉な事なんだよ。
それはともかく、300年以上も研究をしている古代文明の魔力拡大の研究実験に立ち会う事になった。ずいぶんと苦労したけど、小規模な実験は成功したんだ。色々と条件があるけど、人間の魔力を人工石に吸収させて、それを吸収する事で魔力を拡大する事が可能になった。
研究は毎日行われて、毎日大量の人間を処理する事になった……つまり殺したんだ。
はっきり言うと罪悪感はなかった。他人が死のうが生きようが、僕には関係ないからね。だけど、ある日、処理用に集められた人の顔をみて僕は変わったよ。家のメイドの子のホメダを見かけたから。
僕は彼を逃がした後、研究施設が事故で爆破したように偽装して逃げる事にした。僕の遺体もちゃんと用意し、研究結果も全て消してね。それからこの国にきて結婚したんだ。
あ、悪いとは思ったけど、研究成果の人工石は持ち出したよ。300年の研究成果が無くなると思うと、どうしても……ね。
最初は上手く行っていたよ。愛する妻と可愛い子。異国で順風満帆な生活。
でも、だめだね。
貯金も減っていくし、生まれた子供を育てるためにもお金が必要だし、今の収入じゃ到底将来は生活できない。
そんな時に僕は戦争の話を聞いたんだ。僕が人を殺すのは気が引けるけど、戦争であれば、僕が処理するわけじゃないしね。都合の良い話だと嫌ってくれて構わないよ。人工石で魔力を吸わせて、僕は魔導士になるんだ。そして家族に贅沢をさせるってね。ともかく、君がこの手紙を読んでいるという事は、僕が戦場で死んで、何らかの事があって、君に人工石を渡したと思う。
君にはお願いがある。家族には早く違う街へ移るように伝えて欲しい。少ないけど僕の書斎の本棚の下にお金があるからとも伝えて欲しい。
それと君にも伝える事がある、強い魔力を持つ者を魔法省はいつも見張っている。それが他国でもだよ。君が人工石を使えば、執行官が必ず気が付く。なるべく人目に付かないように暮らすんだよ。それと人工石は使って欲しくないけど、もし使う場合に注意しておくと、寝起きに狭く暗い場所で使うといい。
急激な魔力の拡大は、急には身体に吸収しづらい。それは身体をめぐり、肉体に強烈な圧力が掛かるんだ。研究では広い場所で使用すると魔力が拡散するし、明るい場所だと五感に障害が出てしまうんだ。できれば、暗い場所でお酒を飲みながら使えば効果ある。頭が冴えている時に使うと、精神疾患がでる事が多かったからね。
君の人生が良いものになる事と祈っている。それと……この手紙は燃やしてくれ。
俺は読み終えて、無言で手紙を燃やした。
すごく重いよ。重すぎる……というか穴倉で酒飲みながら、酒の肴で食べてなきゃヤバかったじゃねぇか!わざとだろ?どうせ使って、障害者になると思ってたろ!ボウダテさんよぅ……。
俺はボウダテさんの家に戻り、そういえば書斎の本棚の下にお金隠しているといってましたよ?と思い出したように伝えて宿に戻った。
宿に戻ると、メテーレ達が今夜はお楽しみね……と何故か言う。そう、今夜俺の何かがスパークする。復活おめでとう!黄色い猿!15年ぶり!そう俺のアリーナツアーも今夜からだ!
次回はチチクリ回です。




