44話 世界の維持
どうもアルフです。
現在俺の生まれ育った家の前で、焚き火を囲み皆と食事中です。家の中でとは思ったのだが、こうやってみる俺の実家は明らかに掘っ立て小屋。狭いし床はキィキィと素敵なサウンドを鳴らす。さすがに知り合いではあるので、他の家を無断で使うのも気が引ける。メテーレ達が鍋を用意していると、うぅぅんと声を上げて少年は目を覚ます。
「おい、坊主、村の人をどうした?」
「転移を!アゥ!い、いたい……耳が! ウ!エグッ!あぐぅ、奥歯がぁ!!」
「うるさい!いいから答えろ!」
少年は泣きながら答える。僕は魔力管理省から来た執行者だと。
なんだ?その魔力管理省は?と泣きながら呼吸が整わない少年に尋ねるが、まったく分からない事を言う。国の魔力を有する者を管理するだの、多すぎる魔力は管理しなきゃだめだと。どこの国だと騎士も怒鳴るように横から聞いてくる。
「グザバード・バーミリロ魔法王国だ、ぐぶぉッ!僕を……国が……おまえたち皆殺しだぞ……」
少年は囁くように答えると、がっくり首を垂れて動かなくなる。
あれ?おい、おい?……少年の頭を掴んで顔を見ると、口から血を垂らして明らかに死んでいる。え?耳から血を流しているが、それで死ぬような事か?それとも奥歯に自決用の薬でも仕込んであったのか!?
後ろからヘクオートとマガテリヌの会話が聞こえる。
「フォフォ、転移魔法は奥歯に力を入れるからのぅ、尖らした枝を差し込んであるからのぅ」
「ちゃんと感覚ずれるように、耳も切っていたよ!あと脇腹のほうにも剣を差し込んでおいたよ」
「さすが我が孫!抜かりはないのぉ、肝臓の部分か?」
「うん、付いた血も黒いから、たぶん肝臓!掘り起こして足も切りたかったけどね」
何してくれてんだよ!おまえら!
「どうすんだよ!死んでるじゃねぇか!おい!」
「まあ、人間は死ぬかのぅ、人はいずれ死ぬから同じじゃろ?」
お話が通じないぜ。狂っている。
「グザバード・バーミリロ魔法王国といえば、西にある魔法主義国家ですぞ」
騎士のひとりがそう説明してくる。西の半島に位置する魔法を狂信的に研究している国家で、現在はどの国とも交流が殆どなく、内情もまったく分からない国家だという。各国家はグザバード・バーミリロ魔法王国こと魔法主義国家と交流を試みた事があるが、いざ、交流や貿易が始まると、条件で気に入らない事があると、高位の魔法をアピールするように国境付近に連日ぶち込んでくるという狂った国家らしい。魔法主義国家の国王はヒアンブー・デ・ハゲヨコ王だという。
「……で、その魔法主義国家がなんで、こんな田舎の村で?」
「石を使ったとか言ってましたわね」
「アルフ様、何か心当たりはございませんの?」
ありまくりだ。戦場で、ボウダテさんに貰い受けた、あの石以外に思い浮かばない。想像できるぞ。あの魔力を拡大させた石は魔法主義国家から持ち出されたとか造られたとか、そんな内容で、ゴーレム呼び出した事を聞きつけた魔法主義国家が秘密裏に調査に来て、家族や村人ごと拉致したとか。
「まったく心当たりないな。石?……心意気というか、意志じゃないかな?」
前世で鍛えた必殺技を使うぜ。おとぼけ大作戦だ。
「では、魔法主義国家は英雄としての意思を!志を挫こうと!?」
「ひどい!英雄の志を挫こうとアルフ様の家族までか村ごと消し去るなんて」
「魔王が操ってるのは?」
「そうね、その可能性も否定できないわね」
メテーレ達と騎士は、勝手に話を進めていく。俺は変な汗がでてくるが、魔法主義国家なんて知らんよ。恐々と聞くと、魔法主義国家は国といえども、王国の10分の1にも満たない小国家で、度重なるいざこざから、王国や隣国は滅ぼそうと動き出すと、察知してか急に魔道具を安価で輸出して機嫌を取ったり、アホな政治家や芸能人を呼んで洗脳させたりと、力技をだしてくるという。
「さ……さて、今夜は疲れた、俺は休む、ご、ゴーレムは周りを警備させるから……」
言えない。俺のせいでこんな事になってるとは。俺はとぼとぼと馬車に戻り、ああ、もういい、ふて寝だ!ベッドに倒れこんだ。そうだ、そう!寝ておきれば、全て変わっているはず!そうだ!そうかもしれない。きっとそうだ!
「可哀想……アルフ様、あんなに落ち込んで」
「そうね、見ていられないわ、あんな落ち込んでいるなんて」
「魔法主義国家!酷いことするね!あたいは許さないよ!」
そう会話するメテーレ達の声が聞こえたが、知らん。もうしらん、明日になれば変わっているはず!!
「魔法主義国家か!あの転移魔法をみたか?マガテリヌよ」
「みたみた!あんな連発して使っても平気ってすごいね」
「行って見たいのぅ、魔法主義国家」
「アルフ魔導士様が仕返しに行くはずだから付いていこうよ!おじいちゃん!」
「さすが我が孫じゃ!」
「えへへ!」
馬車の窓からそんな声も聞こえる。仕返しなんていく訳ないだろ。ボウダテさんの所に行って、その後は王都で、毎日、チチクリマンボだ。誰に文句を言われようが関係ない。俺は俺の信じる爛れた生活を進むんだ!
この時、俺は騎士達が王都の情報部隊ロニーグ少佐へ伝令の鳥を放っていた事と、
これから起こる新しい世界大戦も予想もできなかった。




