43話 消えた村
どうもアルフです。
ベロデの街では迷惑なほど大歓迎された。
宿屋ひぐらしに挨拶して泊る事になったのだが、会った事もない領主や組合長が、どうもどうもと挨拶にきて、“ここより良い部屋を紹介しますぞ!”と女主人のアリアの目の前で言い放ち、口喧嘩でひと騒動が発生したり、馬車屋で一緒に働いたベドーラ先輩が“僕が彼に仕事を教えたんだよ!”……と謎自慢をしに来たりで、面倒な事が多発する。
この宿にも一応は広く良い部屋も1部屋はあるので、そこに泊まって街の最低限の挨拶をして、翌日には俺の生まれた村へ向う事になった。ゴーウィン鍛冶屋にも顔を出したが、あまり歓迎はされなかった。そして先輩職人からは“戦に一緒に行った俺の班の人は、俺以外は全員が帰って来ていないぞ”吐き棄てるように言われる。
その事を聞いたら、俺だけ生きて返って大歓迎というのも悪い気分なり、余計に挨拶に回るのも気が引けた。帰りに何故、俺にそんな事を言うんだと少し悲しい気分になった。
宿屋に戻り、アリアさんから“アルフが育った村は無くなっているらしい”という話をされる。ある商人が、この村出身のアルフが英雄になったと伝えにいったら、村は誰も居なかったという。街ではアルフが王都に呼んだのでは?となっていたらしいが、それにしても全員が畑を放置していなくなるのは変だよねと少し話題になっていたらしい。60人程が住む名も無い村だが、何があったのかと。その夜は夜遅くまで知り合いが来て、飲み食いをして、翌日早々に村へ旅立った。
村へ向い、翌日の昼過ぎには村の入り口に着く。
見慣れた景色、村の入り口にはゴリガさんの家……あの屋根はビモルさんの家だ。あれ?柵は小さくなってるかな?そんな思い出に浸りながら村に入ると、本当に誰もいない。貧しさを全力でアピールしている俺の生まれた家の前に馬車を止めて、俺は家に入り声を上げる。
父さん!母さん!今戻ったよ!
本当に誰もいねぇ……。どうしたんだ?この村は!?入り口に鴨居には鍬と天秤棒もかけてある。明らかにおかしい。畑に行くなら持っていくはずだ。俺は他の家も見て回る。
「アルフ様?ここはアルフ様の生まれた村ですよね?家族は?」
「誰も居ないね、争ったような後もないし」
「ねぇ、そこの家を見たけど、食卓にご飯が並べてあったよ、急に人が消えたみたいよ」
おーい!誰かいないか!と声を上げてみるが、声がこだまするだけ。急に怖くなる。騎士のふたりも誰もいませんねと報告してくる。
どうしたっていうんだ?
ふと後ろを見ると、ヘクオートとマガテリヌが会話している。
「マガテリヌよ、これは広域で発動じゃの?」
「違うよ、お爺ちゃん、個別に発動してるよ。ほら、あの家の扉の部分に失敗したあるじゃない?」
「ふむ、だとしたら術士の魔力は足りなくならんか?」
「そうだよね、集団で来て発動させたんじゃないの?」
「無理じゃろ、目の前で行えば騒ぎにもなるだろうし、それに……」
「おい!何を話してる!」
俺はヘクオートとマガテリヌに詰め寄り聞く。
「ん?なんじゃ?転移魔法が使われたんじゃろ?これ、これ見るのじゃ」
出されたレンズのようなものを見る。こうじゃ、と指示されてレンズを通してみるが、何もない。ほれほれと村の外を見ると紫色のような靄が少し掛かっている。
「この世の中には見えないもの漂っているのじゃ、それが転移魔法を使うと、その部分だけ薄くなるのじゃ。まぁ当然、時間が経てば同じになるがの。でな?その薄さは時間と比例しているのじゃ、それでな、転移した場所が遠くなれば、薄さが変わると考えてワシは15年前に王都の先の平原で3頭のボロークを連れて実験してな、ああ、そのボロークが良く暴れてのうぅ、ワシの足を……」
「それはいいから!!皆どうしたんだよ!」
「ん?そんな事をワシが知る訳あるまい?ワシらが分かるのは転移魔法が使われたという事だけじゃ」
ヘクオートの後方、村の入り口に、赤いローブを着た少年が歩いてくるが遠くに見えた。誰だ?と見ていると、消えたり現れたりして、急に俺達の近くに現れた。
「やっぱり来たね?」
この展開は敵だ。間違いない。急いでゴーレムを全力で呼び出し、回りに配置する。その様子でメテーレ達や騎士達も構える。
「誰だお前?見たことないが、何か知ってるのか?やっぱりってなんだ?」
俺は彼に強め態度で言う。
「へぇ?こんなゴーレムを呼び出せるってすごい魔力じゃないか。悪いけど手短に済ませたいんだよね。その魔力、石を使ったよね?まだその石の情報って残ってる?」
「俺が聞いているだ!皆をどうした?」
「もう面倒そうだな……この際、お前を「ドンッ!」ぉ……」
少年の後ろにいたゴーレムが少年の頭に強烈なチョップ一撃を噛まして、少年はドサッと倒れる。あ、あれ?あっけないが?少年を引きずってくるゴーレム。俺は土魔法で少年を首から下を埋める。彼が目を覚ましたら事情を聞こうと皆に言い、とりあえずこの日も暮れてきたので、野営の準備をする。
ヘクオートとマガテリヌが“こうやっておけば発動できないぞ”とか、“違うよ、お爺ちゃんこっちの耳も切り落とすだよ”と物騒な事をやっているのが遠くに聞こえたが。