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27話 爛れた日々

宿屋に戻りその後、広場で冒険者組合職員は冒険者と宴があるとの事で、ガデール男爵やメテールとビライラ、ミザラを伴って挨拶に顔出す。挨拶の原稿はガデール男爵から渡されて、何があってもこの通り話してくださいと念を押されて、俺はその場で必死に覚える。


原稿なんてあったのか……もっと先に渡してくれよと思いながらぶつぶつ読みながら復唱し、読めない文字は副団長のフランツさんに聞いて覚えていく。


途中、ここで腕を上げて感情的に話してくださいとか演技指導も入る。面倒だな……。メテーレも冒険者組合でのことを何やらガデール男爵から説明を受けているが、俺は渡された原稿を覚えるので必死だ。


広場に集まった人達は俺が話し終えると、最後に打倒帝国!王国の為に!と拳を突き上げて叫ぶ。なぜそんな気合いが入っているんだ……この人達は。まぁ話した原稿もプロパガンダ風だしね。俺としても演じるのは悪い気分じゃない。


壇上を下りると、冒険者や組合職員が、握手を求めてきて俺は愛想よく笑顔で握手をしていく。途中、職員らしき人に、昼間の件は俺も大人げなかったと謝ろうとしたが、隣でがっちりガデール男爵が異常な速さで補足してきて、あまり会話できず直ぐに会場を後にした。


飲めや歌えで凄く楽しそうなのに、参加できずにそのまま宿に戻る。

あれ?半裸の女性まで踊っているじゃないか……俺も参加したかったよ。ガデール男爵にアルフ魔導士様、昼間の事もありますから、と言われて申し訳なくなり、しょんぼりして部屋に戻る。


しかしそこまでだ!部屋に戻ればメテールとビライラ、ミザラとお酒を飲みながら楽しい時間のスタートだ。しょんぼり?いえ、滴るエキス・カリバーは今夜、王国の夜に伝説を作るだろう。明日の空は黄色いかも知れない。


だが俺も前世では出来る社会人の道を進んだ男。飢えた狼でなく、スマートな紳士を目指してウィットに富んだ素敵トークで彼女達の心や色々な部分を開かせるつもりだ。


「アルフ様、昼間は本当に申し訳ございませんでした……」


「俺……いや、私も悪かったよ」


「え?メテーレどうしたの?」


「実は……アルフ様が、冒険者組合で少し揉めたの」


「え!?どうしてだい、あんたがいたんだろ?」


「私を心配して、それと帝国との戦いを否定する組合職員と……」


メテーレとビライラ、ミザラの会話がおかしい。メテーレの話す内容だと、俺が冒険者組合に行ったら、冒険者のくせに戦争行きやがってと組合職員に個室に呼ばれて愚痴を言われて、王国の為に戦わない職員を成敗したとなっている上に、組合長に暴力を受けそうになったメテーレを救ったとなっている。


どうする?脅されて……とか言うべきか?


俺はスマートな紳士を演じる事を決めた以上、それは無理だ。それに彼女達は最近辞めたとはいえ、元軍人。冒険者組合職員に脅されて、うぁぁぁんゴーレム助けてーとかやりましたとか言えない。それは口が裂けても言えない。仮に言ったとして、猫型マシンに頼る少年ばりに母性本能を引き出せるのか?


……無理だろ。無理!無理!絶対無理!だせぇーアルフ様だせぇ!ゴーレム居なきゃ、ただの田舎小僧!やーい!水呑百姓生まれ丁稚奉公育ち!とか言われないか? 


いや、待てよ、ゴーレムも俺が呼び出して、俺がコントロールしている。ならば俺の一部。そして俺は伝説のゴーレムを操れる魔導士のはず!!


……いや、待てまて、彼女達は元軍人だぞ!?前世でも政治家と宗教家と軍人は一般市民とは違う思考のはずだ。



俺の脳がオーバークロックした最高のCPU並みに、彼女達の反応をシミュレーションする。そして俺は最適な台詞を選び、口元に装弾してメテーレの肩を抱いて放つ。



「ふっ……私も大人げなかったな、命をかけて君達と王国を守る心意気が過ぎたようだ」


聞いた3人は目を大きく開き、口を開けて黙る。


し……失敗か?あれか!?ここは怖かったんだぉぉ!と胸にダイブが正解だったか!?


「私!何があってもアルフ様に添い遂げます!」


「私も!私も!何があっても!」


「あたいは感動したよ!冒険者出身なのにその騎士精神!もうとろけそうだよ!」



だ、大正解ですよ……俺。


その夜。俺は新たなベッド上の世界に伝説を築いた。大陸は6つの山頂が至らぬ私に厳しさと優しさの恩顧受けろと促し、深く包み込む偉大な泉は聖なる喜びを享受させようとする。そこに住まう民をいざなうように三十の動神が、世界はまだ広いと教えてくれた。神は耳元で囁きながら、この世界は貴方のものだと教えてくれる。山頂近くでビバーグを繰り返し、オーバーハングしている岸壁から見下ろすと絶妙な視界にはいるゴルジュ。海を渡り、山を越え、密林をわけ入る。時より聞こえるハーピーの泣き声が、異世界の良さを教えてくれる。最高ですか?最高です!



別に広場の宴なんで出なくていいさ。ここが俺の宴だ。


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