02話 荷物運びバイト
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翌朝になり、宿屋で食事を食べた俺は商店街にある仕事周旋所に向った。
俺も鍛冶屋の時に何回も配達で来た事があるので、職員は見知った人が数名いる。既に俺が鍛冶屋をクビになっているのは知っているらしく、親切に元鍛冶屋なら荷物運びでもと1件仕事を紹介してくれた。
仕事先は馬車屋のデロンさんの所だった。
仕事斡旋所から歩いて20分ほどの馬車屋のデロンさんのところにいくと、あっさりと明日から来てくれ言われて、日給は3,500ギルだという。今は繁盛時期で忙しいから頼むという。ありがとうございますと仕事をする事にした。
仕事にはありつけたが、派遣のようなもので忙しくなければ、暇を出される。
3,500ギルか……しばらくはこれで食いつなぐしかない。宿代が3,000ギルだからほんとにギリギリの生活だ。
仕事も決まり行くところもないので、お昼前にはまた宿屋に戻ってきた。
あら、仕事は?というアリアさんにデロンさんとこで決まったので、明日から荷物運びですというと、良かったね!と背中をバンバン叩かれる。
昼飯は出ないからと言われて、隣の食堂で昼飯のダーベン牛定食、定価430ギルを食べて、役所横の図書館に入る。
お金もないし、行く所は無いからね。
この町の図書館は誰でも入れるが、入館の時に文字が読めるか確認されるのと、退館の時に手荷物確認をされる。理由はこの世界では本が貴重品だからで、たまに本を盗む輩がいるとの事。
ちなみにこの世界は識字教育が低い。特に農家の子なんて殆ど読めないだろう。俺は丁稚奉公し始めたときから親方が持っている本で勉強しつつ、最近ではサボりの時にも時々は図書館に通ったので、難しい単語以外は分かる。
まぁ、簡単な辞書のようなのもあるしね。
図書館に入ると、もう関係ないのに鍛冶の本を何冊か手に取り、窓際の日の当たる場所に座り、本を開いて読む。
図書館はいつも人が少ない。
この世界、識字力のためか、それとも生活に役に立たないといわれているのか、あまり皆本を読まない。図書館にはたまに老人が数人いるぐらいだ。俺としては絶好のサボリ場所で嬉しい限りだが。
つい、"特集、冒険するなら先ずは武器!お勧め鍛冶屋100選”
そんな数頁の薄い本を手に取った。
村から出てきて、鍛冶屋の丁稚になって3年。
最初は要領がいいと褒められはしたが、
俺はもともと飽っぽい性格。
そういえば、2年目の終わりに俺にも打たせてくれと言ったら、
先輩に殴られたなぁ……。
お前には早いと。
それくらいからか、なんだかやる気をなくしてサボり始めたのは。
そんな事を思い出しながら、薄い本の頁をめくり眺めていると、親方、いや、元親方のゴーウィンさんの打った剣が紹介されているページで目が止まる。
”ベントール王国、ベロデの町の老舗鍛冶屋
創業140年、ゴーウィン鍛冶店。
荒削りなデザインだが、安定した武器を提供。
長年に渡り冒険の友として、信頼の店”
そう文章で紹介され、いくつかの剣が図で掲載されている。
持ち手の長い両手剣や長剣。それと両刃斧。
注文から納品まで目安まで書かれている。
両手剣260,000ギル 納期5日、
片手剣 210,000ギル 納期5日等。
そういや、冒険者から制作の依頼を忘れて、納品遅れそうになり、
危うく店の皆に殺されそうになったのを思い出す。
嫌な過去を思い出して、本を閉じて、そのまま棚に戻す。
ふと隣の棚に魔術の関係の本があり、手にとってそのまま立って本を広げて読む。
魔術学校へ行って習えば、簡単な火や水を出す魔法ぐらいは使えるようになると聞く。だが、学校へ入るためにはトンでもないお金も必要だし、水は井戸から汲み上げればいいし、火だって火打ち石を使えばいい。
魔物を殺すような凄い魔法使いになるためには、血筋や生まれ持った素質も必要とも聞く。俺には無理だろうと思いながら、本を読み進めていくと、火の玉を飛ばすとか、空を飛ぶとか、魔物を扱うとか物騒な魔法も載っていた。
町の外にある魔物が出る森に行く冒険者や戦争をする騎士や魔法使い以外は関係ないかと思いつつ、才能がない俺には無理だろうなと再認識しながら、どこか高まる気持ちで、夕方までその本を読んだ。
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翌日から俺は朝2つの鐘がなる前に
馬車屋のデロンさんの所へ向かい仕事をした。
仕事内容は貸し出している馬車を冒険者組合や商業組合へ持っていったり回収したりする事で、ベドーラ先輩という30才ぐらいの先輩と一緒だ。
「アルフくんは良く働くよね!僕もね!この仕事が生きがいだからさ! だから!サボっている奴みると殴りたくなるね! ギーダの班には負けないように頑張ろうね!あ、ほらパン食べなよ!この仕事は体が資本だからね!もっと熱くなれよ!」
そういっては時々パンやお茶をごちそうしてくれる。
熱血兄貴っていう感じで、いい人だが、
時々仕事の意気込みに温度差を感じる人だ。
どちらかというと職場でも浮いている。
働き始めて1月程が過ぎた仕事終わりの夕方、事務所で皆が集まっている時に、デロンさんが出てきて、ベドーラ先輩と俺を呼び出す。
「ミータルまで馬車を引き取りに行く事になったぞ。ついでに届けの仕事あるからいい仕事だぞ。だが、他の奴らが危険だから皆行きたくないって言うし困っている。護衛もつくからお前達に頼めないかな?」
ミータルは一度も行った事はないが、場所は知っている。
西にある魔の森の向こう側。
魔の森を抜けて片道が3日程。森に入らず南の街道から行けば50日程以上掛かる。今回は納期がないので西の森を抜けるという。森は魔物も出るし、下手すれば命も落とすという。
あら、これはまずいな。これは断るのが一番だ。死んだら意味が無い。
だが、デロンさんベドーラ君が店を立って立つ人間だ!とか、これ位出すからさと、金勘定まで始めている。俺があの……今回はと言い掛けた時、ベドーラ先輩がこちら振り返り、
「アルフ君!頑張ろう!熱い仕事だよ!」
バンバン俺の肩を叩きながら、ニコニコ笑ってくる。
もちろん行くよね!というので、いえ、僕は……と断ろうといいかけるが、
ベドーラ先輩がこちらを無視して、デロンさんに拳を掲げて元気に言う。
「デロンさん!俺ら2人で頑張ります!」
「おお、そうか!頑張れ!期待しているぞ!」
「あ、あの……」
俺の声は届かないらしい。
どうしようと事務所の皆を振り返ってみると、ギーダさんや他の先輩も俺と目が合うと可哀想にという顔をして、顔を背ける。
どうしよう……逃げるか?これ。