17話 大歓迎
俺達はラハラムの街へ辿りついた。ガデール男爵と翻訳を手伝ってくれるグアドリの話では、ここから王都までは街道を南下して王都への街道に入れば、この馬車で25日ぐらい着けるとの事。またラハラムの街は人口5万人で王国領の東では最も帝国に近い街らしく2つの大きな騎士団が駐留しているという。街が見えてくるとラッパの音や歓迎する声が聞こえる。
「ガデール男爵、これは大歓迎じゃないですか。流石は男爵様ですね!」
「アハハ……私じゃないですけどね」
「いやいや、騎士を率いての戦い。それは国の英雄ですから!」
街に近づく風景を見ながらガデール男爵を持ち上げる。前世でも上司や取引先には歯が浮くよう台詞を連打できる出来る男だった。だが、街に近づくとなにやら様子が変だ。思いっきり俺の名前が書いてある横断幕が街の塀に掲げてある。えっと……アルフ魔導士、大歓迎?え??車窓からガデール男爵へ目を移すと彼は言う。
「国の英雄はアルフ魔導士殿ですから」
聞くと既に伝令で王都には連絡してあり、寄る街では全てこの歓迎だという。嬉しいというか恥ずかしいというか困惑しているとガデール男爵が、耳元で囁いてくる。
「もちろん、報酬はアルフ魔導士殿が満足するまで……と聞いております。おっと!この話は内密に」
「な!報酬!そんな……だが、いや、そうですか」
人間というのは愚かなものです。特に俺!
既に目が$マークなった。ああ、街に帰ったらどうしよう。学校へ入るか!それで学校で知り合った可愛い女性と結婚して田舎に家を買って、昼間は畑や狩りで汗水たらして、夜は違う汗水を垂らすか!?ああ!ビバ桃色の未来!そうだ!一夫多妻ならハーレムだ!ビバ異世界!ハレルヤ!上上下下右左右左!ハレールヤ!ああ……毎日がエブリデイ!毎日が夜戦だ。
「あ、あのアルフ魔導士様!?魔導士様!!」
「ハッ!?ああ、申し訳ない。つい…夜の戦い、そう!戦場の残酷さを思い出していました」
「……申し訳ございません。辛い戦場を乗り越えたアルフ様に、報酬など無粋な事を……」
「いえいえ、一緒に戦い亡くなった仲間を思うばかりです」
「慈悲深いアルフ魔導士様には……失礼しました」
いえ……といって俺は窓の外を眺めた。正直、そんな事は微塵も考えてないが、俺の口が異常に滑らかに言葉を発する。それにしても、お金の力は恐ろしい。一瞬だが、金の使い方のシミュレーションしたじゃないか。窓の外を見ながら手を振る女性の品定めをしているが、俺の脳内だけの自由だ。
街に入ると、耳を貫くような大歓迎。宿屋の前についたらしく、俺はローブを深くかぶり男爵の後につづいて宿に入る。宿というより高級ホテル。吹き抜けのあるエントランスを抜けて広い部屋に案内される。
「このホテルの支配人のラゲードと申します。伝説の魔導士にお会いできるとは……感動の極みです!滞在でご不便がありましたら、ぜひ何なりとお申し付けくださいませ!」
挨拶を済ませて彼が出て行き、ガデール男爵に尋ねる。
「あ、あの?男爵様、この歓迎はとても……嬉しいのですが、少し大げさに接してくるような」
「国は戦いの英雄として声を大きくして、アルフ魔導士を立てたいのです。勿論、本当に英雄です。ですが、それと共に帝国への牽制も含まれています。大変失礼かもしれませんが、ぜひ、バウロ王国にゴーレムを操るアルフ魔導士有りと協力していただける事を願います」
ガダール男爵が膝を突いて挨拶をする。いやいや、そんなと肩を持ち俺も屈み男爵のそばに寄る。
「では、ご理解いただけますでしょうか?」
「は、はい、私にできることであれば、協力しますとも」
「ありがたい!ではささやかではございますが、この街で祝賀会がございます。ぜひ」
まぁ、悪い気分しないしね。そういうと男爵は出て行き、替わりにメイドが入ってきたが大丈夫ですと部屋に独りきりになる。激しく嬉しい気分なる。ありがとう!ゴーレム様!高い天井だから大丈夫だと考えてゴーレム3体を呼び出す。
床に光る模様と共に、相変わらず謎のポーズをするゴーレム3体。うん、怖いよ。というかこの悪魔のようなゴーレムで大丈夫か?祝賀会でお見せくださいと、出したら会場が悲鳴だらけになるだろう。とりあえず小刀の爪を指に収納させて…あとは顔、そう顔が……ヘルメットとかないのか?と床の大理石を見て、あれ?これいけるか?と、手をつけて念じると、見事に加工ができたので、3体とも大理石のヘルメットと鎧を装備させた。
床の大理石が剥げてしまったが、あとで謝罪しよう。うん、そうしよう。だめならお金で。メイドを呼ぶとすぐ廊下で待機していたらしく床の事を謝罪するとすぐ部屋を交換しますと逆に謝罪される。ああ、申し訳ない。ゴーレムを見ると両手を合わせてまるで拝むようにするのは止めて欲しいが。とりあえず、これで悪魔ゴーレムとか呼ばれないだろう。