13話 ゴーレム無双
帝国の敵兵が逃げていく中、後方からガデール男爵の騎士が追いついてきた。
「さすがはアルフ殿!既に敵を蹴散らした後とは!」
「まさに!伝説の魔導士……こ、これほど惨い殺し方とは!」
小刀の爪でスライスされた兵士の顔が所々に散乱している。さらに3体のゴーレム達は、一通り謎のポーズが終わった後、逃げる兵士を激しい勢いで追いかけて殺し続けている。遠くで叫ぶ声が止まない。
「ええぇ、まあ勢いが良いのですよ。うちの子は……」
自分で言って何を言っているのか分からない。何がうちの子だ。恥ずかしい。
村は強奪もなく平和で、捉えられていた騎士も無事救出できた。周囲を索敵した騎士によると、逃げた兵士は街道を北へ向い戻ってくることはないとの報告を受けた。村には食堂と宿屋があるとの事で、その日はまともな食事と夜はゆっくりと寝ることにする。
あれ?うちの子はまだ帰ってこない……が??
結局、彼らが帰ってきたのは俺が食堂で昼飯を食べ終わった時だった。1体の指の間に敵兵の顔のパーツが挟まっていて、それを見た食堂のおばさんが失神していたが。
帝国軍57部隊、指令天幕
「だからなんだと言っているのだ!」
「で……ですから!ラウデ村より王国が召還した悪魔がこちらに迫っています!早く逃げください!!」
「そんな馬鹿な話はあるか!我ら帝国軍は平原を制圧し、両街道を河まで兵を出している!さらに我が部隊からラウデ村へ500の兵で先日占領したばかりではないか!その状況で無敵の帝国軍の司令官ヴァルター・フォン・メレンドルフに悪魔から逃げろというのか!?あ!?」
司令官ヴァルターは報告を受けて苛つきを加速させていく。デダーブ平原の戦いは我ら帝国軍が勝利し、腐った王国軍を西へ追いやった。だが、目の前の報告をする伝令はしきりに汗をかいて、悪魔がくるから撤退しろという。
「落ちついてください司令官。それと伝令…なにが迫っているのですか?悪魔ではわかりませんよ」
参謀のハンスが冷静に尋ねる。
「は、はい!北部書に描かれた悪魔格好の大きな兵士が3名、我が兵士を殺しながら迫ってきています」
「ふん!お前ら二人で話し合え!大方、無謀な敵兵が突撃しているのだろう。悪魔なんぞ臆病者のいう事だ!」
ヴァルターはそういうと天幕から出て行く。
「まったくアレだから頭が筋肉で出来ている人は困りますね。…で、伝令さん、その悪魔はどれくらいで、ここに着きそうですか?」
「はい!早ければ1刻待たずに!」
参謀のハンスは伝令の報告を細かく聞いて推測していく。3メートルを越す人族はいない。だとすればオーガ族などのほかの種族だろう。しかし王国が他種族を兵士に入れたという情報は無い。そうなるとやはり悪魔かと考えたが、兵士を殺して回る悪魔など聞いた事がない。悪魔は人に心に巣食うものだ。北部書にもそう書かれている。オーガ族でなければ、オーク族か?いや、彼らも人族に協力するという事を聞いた事はない。
ふと、ありえないがまさか?という推測が思いつく。
____ゴーレムか!?
ハンスは状況から考えて推測の答えに辿りつく。もしゴーレムで我が兵を殺して近づいているとすれば、とんでもない事になる。何故なら膨大な魔力をもった魔法使い、いや魔導士が何十名もいる事が想像できるからだ。
「伝令!その悪魔の肌は!肌は聞いたか!?」
「は、はい!湿った土のようだと……」
ハンスは急いで天幕を出て行ったヴァルターを追いかける。
「ヴァルター司令官!!」
「どうした?その慌てようは?まさかハンスまで悪魔が来ると言うのではないだろうな!」
「いえ、状況から……ゴーレムです」
「なっ!?」
司令官ヴァルター・フォン・メレンドルフ。彼は直感的な人間であるが、愚かではない。北や東の隣国との戦場で培った野性的な勘と強靭な精神がその体格に宿る。そして積み重ねてきた経験が彼を即座に行動に移させる。戦場に絶対という言葉ない。そして適わない敵と判った時、即時に彼は行動に移す。
「す…すぐに撤退だ!今すぐ!」
「は、はい!」
「全班長まで周知させ直ぐに撤退させろ!荷物は最低限でいい!直ぐだ!伝令を55,17,18部隊にも送れ!」
帝国軍57部隊は総兵数4200名中、680名の死者を出して帝国領へ撤退。55,17,18部隊も翌日には撤退をした。またそれから2日後には41部隊も撤収をした。 撤退後、帝国は王国のゴーレムを扱う魔導士について間者を大量に送り込む事となった。