10話 洞窟生活から逃走生活
ボウダテさんが亡くなって、遺体が臭うようなり、俺は手を合わせて土に埋めた。外の怒号はまだ止まない。おれは洞窟の入り口から、そっと覗くと敵兵らしき人影が塹壕に油を撒いていた。これは不味いと思い、まだ残る荷物を出来るだけ気が付かれないように洞窟に引き込んで入り口を塞ぐ。
天井にある草で塞いでいる穴が唯一の光源だが、気付かれないか不安になり。洞窟を奥に広げてその穴も塞ぐ。奥行き5メートルほど、高さ1.5メートル。幅2メートル程の空間が俺のいる場所だ。もし敵兵に気づかれたら、脇に洞窟を掘って隠れるしかない。
時間も分からない状態の中、時々土が出す音を聞いて過ごす。土も音を出すんだなと変に感心して指先で炎を出して荷物から酒と干し肉、パンを齧りながらただぼんやりして眠りについた。
何日経ったのだろうか。まだ手元の酒瓶を掴んで飲んで天井の土を退かして恐々穴を開ける。外は夕暮れ時か、もしくは朝で回りに人影は無かったが、遠くで争う声が聞こえた。怖くなり天井を塞ぎまた俺は酒瓶を口元に持って行った。
ボウダテさんの遺言で預かった金の入った皮袋と手紙を自分の荷物にいれ、彼が言った魔力を吸収するという石を眺めた。石は全部で5個。大きさは親指ほど。
酒の肴で食べるかと、半ば酔って口に一つ入れる。口に入れると固かったはずの石はホロっと崩れ、少し苦味のある固いパンのような味で口に中に溶けていった。気がつくと5つ全て食べて酒も回って俺はそのまま寝込んだ。
目が覚めて気分が悪くなり、嘔吐ともに起きた。吐き気が止まらず、気持ち悪いくらいに汗が出てそのまま気を失う。その繰り返しを数回繰り返してやっと意識が明確になってくる。酒を飲み最後の一本を飲みきった時に水魔法で水を出して飲み、顔を洗う。
干し肉もパンも無くなってから、かなりの時間が経つ。天井にまた穴を開けて外の様子を伺う。外は暗く、星空が見えた。周りには誰も居ないようだ。俺は穴を広げて外にゆっくりと出た。
地面を這うように進むが回りに誰もいないと分かると丘を目指して歩き出した。回りは肉が腐ったような死臭が漂っている。あれから何日が経ったのか分からない。自分達の陣営があった場所には多くの死体が無残に残されていて、動くものにビクっと驚くと森狼に似た小型の獣が死体をクチャクチャと食べていた。俺を認識すると何でもないようなそぶりを見せてまた死体を食べ続けた。一瞬ウッと吐きそうなったが、口を押さえて歩き続ける。
どうにか丘までたどり着くと崩れた天幕があり、恐る恐る覗くと誰も居なく、服や剣など散乱していた。金目の物はないかと、探すと歯が欠けていない短剣と高そうなローブ、それと杖ぐらいしかないが、ここは頂戴しておく事にする。ついでに地図や岩塩や調味料などの入った袋もあったので、折って懐にしまう。
丘を見下ろして、一緒に来たビドリブさん達は無事に逃げられたのだろうか?と思ったが、まずは俺が逃げなきゃなと思い、夜の街道を独りとぼとぼと歩き出す。
夜が明ける頃に、先に人影を見つけて街道の脇へ隠れる。
先の橋に袂に兵士が居るようだ。この先の橋を越えないとベロデの街には帰れない。探るように近づくと帝国の兵士らしく、通してくれるようには思えない。仕方なしに街道をそれて南に向う。
不思議な事に森を歩いている最中、森狼やいくつかの獣に出会ったが、こちらを見ると逃げていく。俺の身体から死臭でもしているのだろうか。
街道からそれて歩き2日程経った頃、大きな河に出た。さすがに何日も行水もしていなく、気持ちが悪くなり、服を脱いで河で行水をする。少し寒いが岩場で木々を集めて焚き火をして身体を温める。
服も汚れているので河で揉み洗いをしたが、ボロボロになっているせいか、破れてしまったので拝借したローブを着る事にする。意外としっくりくる黒いローブで、ベルベットのような生地で素肌に気持ちいい。お腹も空いたし、どうしようと地図を見る。
南東にラウデ村があるのが分かる。ここが帝国領か王国領か分からないが、地図にはどちらの領土とも記されていない。現在地と思われる場所から4~5日で辿り付けるだろう。このまま河を渡って森を抜けるのもいいが、どちらがいいか判断が付かない。
河を渡った場合、森を抜けて街道を行くが先に帝国兵士がいれば、また南か北に行かなきゃならない。このまま河沿いに行けば間違いなく村に着ける。ならばとりあえず村まで行くのしかないか…。
俺は河沿いにラウデ村を目指して歩き出した。
それにしてもお腹が空く。
歩いていくと森の中でも開けた場所にでた野宿をする事した。土魔法で簡単な小屋を作る。土魔法の能力が上がっているような気がして、小屋の前で、地面に手をあてゴーレムを作り出す。俺より少し大きな泥人形が出来上がる。2メートルぐらいか。
そのまま動くように意識するとドスドスと歩き出す。
おお!これは凄い。ゴーレムが動き出した事に感動する。
やはり魔力が増えたのか……あの魔力を吸収する石のお陰か?作り出した泥人形に踊らせたりさせた。もしや?と思いもう一体も作り出してみると合計3体の泥人形を作り出す事に成功した。それ以上も作って動かせそうだったが、3体目の時点で旨くコントロールできず、その夜は3体のゴーレムで前世の某ダンスグループのような一列になって腕を回す踊りを朝までさせた。ただあまり激しい運動をさせると土がボロボロと落ちるので、土を強化させて事なきを得る。
それにしても……意外とスムーズな動きできるのだな……泥人形。
朝になり、空腹は進む。
魚でも獣でも何か捕まえて食べないと村まで辿りつけそうにない。
どうしようかと思っていると、ドカドカと泥人形3体はどこかに走り出していく。
お……おい、お前らどこにいく……。
ポツンと残された俺は呆気に取られて遠くで獣の叫ぶ声を聞く。暫くして、3体は森狼をそれぞれぶら下げてドカドカと戻ってきた。手には無残に首を曲げて舌をダランと垂らして森狼。
それを俺に突き出してくる。
え?飯?なにこの優秀な泥人形。
無言で、枝を集めて火魔法で焚き火を用意して、森狼を短剣で捌き、天幕から頂戴した調味料から岩塩を振って枝に刺して焚き火の近くかざす。空腹だがしっかり焼いて無言で肉に齧り付いては喰いつき、喉が渇けば手から水魔法で水を出して飲むという食事を繰り返した。
その間、泥人形は俺の周囲を謎の踊りをして警戒する。これはとても便利な魔法なんじゃないか?お腹一杯に肉を食べきれない部位は薄く切って塩をまぶして葉に包み焚き火の下に入れて暫く置く。それにしても食べきれない。泥人形に食べるか?と差し出すが無視をされる。……そうか食べないか。
結局、この日は残った肉や煙で燻したり、毛皮を洗って肉を削いだりして同じ場所で野営をした。毛皮防寒で使えるかと挑戦したがガビガビになり毛が抜けるので、苦労はしたが夜に燃やす事にした。
それにしてもゴーレムはずっと出しているが、まったく魔力の限界を感じない。一体どれくらい俺の魔力は成長したのか……。