01話 いきなりクビですか?
読みやすく軽く読める小説を目指し書いてます。
誤字脱字ご指摘頂ければ幸いです。
「アルフ、申し訳ないが、お前はクビだ。明日には出ていってくれ」
「親方!何ですかそりゃ!?先日の仕入れがマズかったのは認めますけど、でもクビってそりゃないですよ」
「アルフ!鋼の仕入れ間違い、納品遅れ、今月だけでもお前の間違いは数えればキリがない。それにな?お前はいくら教えても同じミスをする。自分で考えもせず、理解しないで動くお前はこの仕事には向いていない。槌を持たせる前に店から出て行け」
捲くし立てるように言われる。取り付く島なしだ。あれはお客が悪いのですよと言い訳してみても、火に油を注ぐだけで、逆拳骨を脳天にお見舞いされて、今すぐ出て行けと荷物ごと店の前に出された。
荷物を抱えて、とぼとぼと商店街を歩く。
俺は異世界に転生した平凡な会社員だ。
元の世界からどうしてここにいるか分からないが、最後の記憶は俺が28歳の誕生日を迎えた翌日、遅刻ギリギリで会社に向うところで途切れている。この世界では、貧乏な農家の末っ子として生きていた。そして夕暮れ時に井戸から汲み桶に水を入れるときに強烈な頭痛と共に、前世の記憶をフラッシュバックするように思い出した。
この世界に転生したと気がついた時、俺は8歳。
転生前の名前は吉田…たしか勝也?克哉?どうも記憶が曖昧だが、たしか吉田だったはず。まあ、名前はいいとして、この世界は剣と魔法の世界らしい。アルフの記憶がそう教えてくれる。
それから数年…俺は前世の知識を活かして…と夢を見て、 “魔法でチートだ!”“転生前の知識で!”“そうだ!計算とか!”…色々試すが、田舎の村で俺は何もする事ができなかった。
そもそも、三流の大学を卒業し中小企業で働いていた俺が異世界で活躍できるなんてそんな都合のいい話は無かった。前世の世界だったとしても転生したからって、活躍する事は難しかっただろう。少し器用な農家の小僧でしかなかった。
そんなチートを探すべく、なんとか努力をしている中、農業で生計を立てている俺の家は、不作が続いた。こういう事は数年毎にあるらしく、俺も肥料のせいでは?と一生懸命努力したが、親父に“うるせぇ、黙っていろ!“と理不尽に怒鳴られた上に、俺はベロデの町へ丁稚奉公に出された。
つまり売られたって訳だ。
ちなみに価格は420,000ギル。
日本円と比較は難しいが、片手で持てるぐらいの小麦を店で買うと1,000ギル。
小麦420袋と交換。
つまり俺は小麦420袋…俺の価格。
だが、こういう事はよくあるらしい。
そして3年間という決まりがあるらしい。
6年前にも3軒隣のビモルさんの家も不作の時に、末の子供を丁稚奉公に出したらしい。だが、悪いことだけでは無く聞くと丁稚奉公して、技術が身につけば職人になれる事も養子にされる事もあるらしい。
まぁ不幸を嘆いても仕方ない、街に行けば俺の才能が開花するのでは!?と少しだが、期待していた。田舎の村から出て、ベロデの鍛冶屋で働き始めた。
働き始めて直ぐに分かった。
ハッキリ言って鍛冶屋の丁稚奉公は辛い。
まず何が辛いかって朝は早いし、冬は冷たい水を使い、夏は熱い室内。その上運ぶ荷物は重い。全てにおいて人力。指の関節なんぞパックリ割れて冬の水が拷問の毎日だ。
挙げ句に俺の給与は食事やまかないの飯はでるが、1ヶ月働いて1,000ギル。
この世界の一人前の鍛冶職人で350,000ギル。
酒のエールでさえ1杯100ギルなので10杯飲んだら、給与が無くなるという俺には恐ろしいブラック職場だ。
聞いた事ないぞ、月給でビール10杯しか飲めないって。
さらに、逃げようにも売られた時に丁稚奉公は3年間働く決まりらしく、途中で逃げ出せば実家に罰金を請求されるという。迷惑をかける訳にも行かず、逃げ場なしだ。
ぱっくりと割れた指の関節から日々血を滲ませながら毎日働いた。
そんな中、前世の先輩社員の言葉を思い出す。
「いいか?出来る男というのは適度に仕事をサボるものだ」
自動販売機に寄りかかりながら、缶コーヒーを片手に言われた先輩の言葉を思い出す。
名言そこにあり!
実践して数ヶ月程。
そして丁稚奉公開始から3年間が経過した先程、俺は鍛冶屋を首になった。
出来ない男は仕事をサボっちゃダメだと改めて反省した。
嫌な職場だったが、クビになると結構ショックだ。
まさか3年経ってすぐにクビになるとは考えてもいなく、今後、俺はどうすればいいのかと途方に暮れる。
「おい、ゴーウィン鍛冶屋のアルフじゃないか?浮かない顔してどうした?」
とぼとぼ荷物を抱えて商店街を歩いている中、声を掛けてきた人を見ると、時々武器の納品で挨拶する騎士団のバルデスさんだった。お店をクビになりましたと言うと、ガハハと笑いお前はヘマばっかりやっているからなと傷口に塩を塗ってくる。酒ぐらい飲ませてやると脇にある店を親指で指す。
「…って訳ですよ」
「お前には悪いが、ゴーウィンさんもよく我慢していたほうだぜ」
終始、騎士団のバルデスさんの”俺は田舎から出てきてな!それで苦労して準騎士団に入って”と、彼の”俺は苦労して来た、お前だって頑張ればどうにかなる!”という会話を、
はい、そうですかと暗い気持ちで聞きながらお酒を飲ませてもらった。
不思議と話を聞くうちに、鍛冶屋をクビにはなったが向いてなかったし、違う仕事を探すかという気分になった。エールを5杯もご馳走になった感謝を言うと、いつか奢ってくれと笑って答えてくれた。空が暗くなってバルデスさんと手を振って別れ、これから今後どうしようか?現実的な問題に直面した。
俺の現在の所持金は大銀貨3枚に銅貨2枚、鉄貨2枚
つまり32,200ギル
これでどうすんだ。
とりあえず寒いこの季節、野宿も厳しい。
足取りも重く南区の宿屋「ひぐらし」に向う。
「あら?アルフじゃないか、ゴーウィンさんのとこお払い箱になったのだって?」
扉を開けて目があった途端、アリアさんが笑いながら言ってくる。
「もう聞いていますか?そうなんですよ……もうどうしたらいいのか……」
「配達の子が言っていたよ。まあ、仕事なんて選ばなきゃなんでもあるさ
で、住むとこなくて泊まりに来たって訳かい?」
はい、そうですと返事をすると、落ち着くまで宿賃は安くしてやるから落ち込むなよと、
5泊まれば宿賃1日3,800ギルのところを3,000ギルにしてくれるという。
とりあえず5日分払う。15,000ギル。
もう手元に17,200ギルしかない。
部屋の鍵を渡されて硬いベッドに身を投げ出すと、天井を見上げて思う。
明日から仕事探しか。
俺をクビにしたゴーウィン親方を憎む気持ちと、こんな事ならもっと真面目に働けば良かったと思う気持ちが混濁して、涙が自然と流れてきた。
窓の外から商店街を酔いどれで歩く人の声が聞こえる。
そういや先輩達と良く飲みにいったな、と思い出しながら、
そのまま目を閉じて寝付いた。
誤字脱字ご指摘頂ければ幸いです。