外見だけで判断しないで!
コーヒーをすべて飲み干してから気付いた。
それが姉が淹れてくれたものであることに……。
彼女の方に視線を向けると、ニヤリと笑っている。
まったりとしたお茶の間の団らん中、俺だけが凍り付く。
直後に息苦しさを感じた。まさかこのまま死ぬのだろうか。あり得ないと言い切れないのが悔しい。
ああ……。それにしても、あっけない人生だったな。だけど十六歳で死ぬとか早すぎだ。
思えば、自称・マッドサイエンティストの姉の実験体としてしか役立たない人生だった。
初めて被害に遭ったのは小学校三年生の時。缶ジュースを差し入れてくれたと思って開けたら、くさやの匂いが充満し、異臭騒ぎに。六年の時は暑い日にジュースを持ってきてくれた。そこに入っていたのは惚れ薬で、家の庭を散歩中だった近所のオス猫に恋した。中学二年生の時はバレンタインでクラスの女子に義理チョコもらって浮かれていたら、ココアに『嘘がつけなくなる薬』なんぞを混ぜてきやがった。
どれも数時間で効果が消えるものばかりだったけど、それでも実験体にされた方はたまったもんじゃない。
姉に『やめてくれ!』と言ったところで、やめるような人間ではない。
だから、俺自身が慎重になるしかなかった。
姉が何の見返りもなしで淹れてくれたコーヒーや差し入れてくれたジュースは飲むな、と。
いつも注意は怠っていなかったのだが、今日は他のことで頭がいっぱいだったので油断した……。
苦しいのがおさまった。
辺りを見回すと、天国――ではなく、見慣れた我が家のリビングだ。
両親は息子の異変などには気にも留めずにお笑い番組を見て笑っている。そして姉は目を真ん丸くしていた。一応、生きてるらしい。
「今度はなに入れたんだよ」
生きていることに感謝をしつつ、姉に尋ねる。
彼女はじっと俺のおでこを見てから、こちらに手を伸ばしてきた。
その手をどけたとき、おかしなことに気付く。
俺の手がない! まさかなくなった?!
背中にひやりと氷が走るような感覚。
姉は嬉々とした表情で言う。
「大成功! 私って天才ね!」
「喜んでる場合じゃねーよ! 俺の体、どうなったんだよ!」
俺が怒鳴ると彼女はあけっらかんと答える。
「体が透明になったのよ。ほら」
姉は鏡をこちらに見せてきた。
「ひっ!」と思わず情けない声がもれる。
なぜなら、鏡に映っていたのはTシャツとジャージだけだったからだ。服が宙を浮いてる!
「ほらー。透明人間になれたんだよー! うれしいでしょー?」
姉がにこにこしながら聞いてくる。
「うれしくねえよ! 戻せよ!」
「あー。戻す薬とか方法はないのよ。でも、効果は二十四時間で切れるから。大丈夫」
なにが大丈夫なんだ!
俺が怒りに震えていると、姉は満面の笑みで続ける。
「ほら、明日は土曜日だからさ。学校行かなくていいし。心置きなく透明人間ライフを満喫できるね」
姉は俺が口を開く前に「じゃあ実験室に戻るかー!」と言って離れの部屋へ逃げた。
仕方なく俺は自室に戻った。
「あのバカ姉貴! 実験したいなら自分自身で試せばいいだろ!」
そう叫んでから、ふと時計を見る。
現在の時刻は午後八時。明日の夜までこのままか……。
最初は絶望したが、どうやら日常生活に支障がないことが分かった。透明になっているのは体だけなので服さえ脱げば、誰にも見えない。
今は七月。むしろ裸の方が涼しい。こりゃいいな。
透明になった自分の体は、もちろん鏡に映らない。
俺の体の後ろにある本棚が鏡に映っていることから、『透明な何かがそこにいる』のではなく、『完全に体が消えてしまった』という状態だ。
これならどこにいてもバレないな。
「そうか! これを使えば!」
名案を思い付いた。そうだ、そうしよう!
明日の予定は決まった。
突然、降ってわいた悲劇だが、存分に活用するぞ! 俺は逆境に強い子!
「明日は土曜日だからなあ。早乙女、どっか出かけるかもしれんなあ。朝から尾行すれば……」
そう呟いてからハッとする。
「やべ、俺、あいつの住所とか知らねーよ」
五分間、考えたら結論がでた。
慌ててスマホを掴んでアドレス帳を開き、電話をかけた。
「あ、小西? 聞きたいことがあるんだけど」
俺はそう言ってから少し躊躇する。
電話の相手である小西とは小学校からの仲で、高校も同じ。腐れ縁というやつだろうか。
長い付き合いとはいっても『あの』早乙女の住所を教えてほしいなんて言いにくい。
でも、せっかくの透明人間ライフを有意義に使うためには彼女の家の場所を知る必要がある。
俺は意を決して口を開く。
「あのさ、小西って、女子のことに詳しいよな」
『ああ、任せろ! っつてゆーか俺の無類の女子好きは小学校からだ! お前も知ってるだろ?』
「うん。それでさ、うちのクラスの早乙女の家の場所とか分かる?」
俺はそう言ってからごくりと唾を飲み込んだ。
電話口が静かになる。
『早乙女……ああ、早乙女鈴子か!』
「下の名前までは知らないけど」
『うちのクラスで早乙女といえば、あの子だけだ。住所、分かるよ』
「マジか!」
俺は思わず立ち上がる。
電話を切ると、俺は早々にベッドに横になる。
小西に早乙女の住所を教えてもらったら、思ったよりも近くに住んでいることが分かった。自転車で二十分くらいの距離。しかも『なんで知る必要があるんだ?』などとは聞いてこなかった。
実にスムーズだ。明日は朝から彼女の家に行ってみよう。
そんなことを考えているうちに、睡魔が襲ってきた。
次の日の朝。
「ミッション開始!」
そんなことを言いながら、タンスから適当な服を引っ張りだしてから気付く。そうだ。透明だからこのままでいいんだ。
そんなわけで何も身につけずに外に出た。
自分の体が透明だと分かっていても、全裸で外を歩くのには抵抗がある。
家の敷地内から出るのには躊躇したが、ぐだぐだしている暇はない。
ええい、漢を見せるんだ千堂透也!
思い切って外を歩いてみると、すれ違う人がこちらを見ることも悲鳴をあげることも通報される気配もなかった。
外に出てこうして誰にもバレないと分かると、あの姉は天才なんだなと思う。ただ人間性はどうかと思うが。
まあ、透明になったことを利用してクラスの女子を尾行してやろうって発想も人間性に問題があるかもしれない。
ただ、これにはちゃんとした理由がある。
ツンとする香水の匂いがしたので、目の前に視線を向ける。
そして、向かい側から歩いてくる人物を見た途端、口から心臓が飛び出そうになった。
俺はごくり、と唾を飲み込み、その人物を観察する。
金色の長い髪の毛、べったべったに化粧を塗りたくった顔、露出度の多い服に長い爪。
彼女が早乙女鈴子。彼女はギャルだ。
クラスでも浮いた存在の早乙女は、休み時間は大声で笑っていたり、ギャル仲間と気の弱そうな男子を捕まえて、ちょっかいを出してからかって遊んでいたりと、オタクグループの俺からすれば絶対に関わりたくない女子だ。
それなのになぜ尾行をするのか。
昨日、早乙女に告白をされたからだ。
放課後に自動販売機で缶コーヒーを買っていたら、早乙女に待ち伏せされ、そしてそのまま『好きです!』と言われた。
ギャルがブサイクな俺に告白してくる理由が分からない。
あるとすれば……。
罰ゲームで俺に告白して、俺が本気になったところでフる。そして友人と大笑い。ついでに動画とか撮られたりしてネット上にUP。そんなところだろう。
ただ、初めて告白された俺にとって『もしかして本気かも……』という気持ちもある。それが男心だ。
そんなわけで真相を確かめるべく、彼女を監視しようというわけだ。
まさか向こうから歩いてきてくれるとは思わなかったけど。
早乙女を尾行すると、彼女は閑静な住宅街の一軒の家の前で立ち止まった。
よく手入れされた花いっぱいの庭に、北欧を思わせるおしゃれな外観の二階建ての家。
早乙女は庭を横切り、「ただいまー」と言って玄関のドアを開ける。
俺も続いて入ろうかどうしようか悩んだ。いくらなんでも家の中まで入るのはやりすぎかな……。
そんなことを考えていたら、目の前を横切る虫。
大の苦手な蜂じゃないか! しかもデカい! ミツバチじゃねーよ、こいつ!
俺はパニックになって安全な場所を求めて駈け出す。
あ、早乙女、玄関のドア開けっ放し! あそこしかない!
……というわけで勢いで家の中に入ってしまった。
いやあ、蜂って本当、怖いんだよな。ガキの頃に二回刺されてトラウマ。
不可抗力で(ということにしておく)ここまで来てしまったからには、もうリビングにお邪魔してしまおう!
俺は半ばヤケになりつつ、早乙女の姿を探す。
「お兄ちゃんのバカあああ!」「うるせえ!」
リビングでは五歳くらいの男の子と女の子が喧嘩をしていた。あーあ。女の子、大泣き。早乙女の妹と弟だろうか。
「あー。もう、ケンカしないの!」
ケンカの仲裁に入ったのは、中学生くらいの女の子。彼女も早乙女の妹かな?
姉妹が多いんだなあ。
そんなことを思いつつ、早乙女の姿を探してみると洗面所に早乙女がいた。
素早く化粧を落とし、ネイルを取りはずしている(あんなに簡単に取れるもんだったのか)。長く細い息をはいてから、彼女は髪の毛を……はずしたー! ウィッグだったのか!
目玉が飛び出そうな俺の横を、黒髪でノーメイクの早乙女が鼻歌混じりに通り過ぎて行く。
ギャルって、色々と取り外しが可能なんだね。
「あ。お姉ちゃん、ウィッグ外したってことは今日はもう出かける予定はないんだね」
リビングに戻って来た早乙女を見て、次女(勝手にそう呼ぶことにした)がそう言って笑う。
「うん。ついさっきスーパーに行ってきちゃったしね」
早乙女はそれだけ答えると、まだケンカ中のチビ二人の前に立つ。
そして一言。
「今すぐ仲直りしないと、おやつなしだよ」
チビ二人はぴたりと動きを止め、にらみ合いながらも渋々、握手を交わした。
そんな様子を早乙女は穏やかな表情で見ている。
俺はその姿を眺めつつ思う。
黒髪ショートヘアにすっぴんの彼女は、整った顔立ちの美少女。正直、中学……いや、小学生にも見られそうなロリ顔だが、それもまた良い。俺はむしろストライクゾーンど真ん中だ!
それに、どっかで見たような顔だなあ。誰だっけ?
俺が首を傾げていると、突然、ざあああという音がした。雨だ。
「あ、降ってきちゃったねー。洗濯物、部屋干しにしておいて良かった」
早乙女は言いながら、棚から何かを取り出す。
そしてチビ二人と次女にこう提案する。
「今日は一日中、雨みたいだから、みんなでDVDを観ない?」
「なになに?」「あたしね『ア二雪』が見たーい!」「僕は『妖怪ボッチ』が観たい!」
三人が一斉に口を開く。
早乙女はニコニコしながら、二枚のDVDを誇らしげに掲げる。
「なんと! 『アニ雪』も『妖怪ボッチ』の劇場版もありまーす!」
「わーい! さすがお姉ちゃん!」と三人が拍手した。
なんだか楽しそうだな。
そんな良い雰囲気の中、映画鑑賞会が始まった。
DVDプレイヤーに二枚目を入れると、早乙女が静かに立ち上がったので慌ててその後を着いていく。
彼女はキッチンへ行くとエプロンをつけ始めた。
時計を見るともう十一時。俺もついつい『ア二雪』に見入ってしまったよ……。
俺はダイニングの椅子に腰かけて早乙女の様子を監視。
ってゆーか、キッチンでエプロンつけてやることと言えば料理しかない。
この家には現在、両親の姿はない。仕事だろうか。そうなれば長女(多分)の早乙女がお昼を作ることになるのだろう。でも、料理できるのかな。
お手並み拝見といこうか。
リズミカル且つ素早い包丁さばき、フライパンのチキンライスは宙を舞い、片手で卵を割り、あっという間に本格オムライスの完成。
「ふう。三十分もかかっちゃった」
早乙女はそう言って肩をすくめると、四人分のオムライスをテーブルに並べた。
『こいつ外ではギャルだし料理できないんじゃね?』とか思ってすみませんでした! 土下座します! 見えないだろうけど!
チビ二人が「わあああい!」と匂いを嗅ぎつけて走ってきた。
早乙女は「じゃあ、お姉ちゃんが切ってあげるねー」と言いながらチキンライスの上に乗ったオムレツにナイフを入れると、とろっとろの半熟卵が出てきた! テレビでしか見たことないやつだ!
「いっただきまあす!」と二人は言うが早いか、オムライスを口いっぱいに頬張る。
「あれ? 綾子は?」
早乙女の言葉に、二人が同時に答える。
「知らなーい! 部屋でお絵かきしてるんじゃない?」
「ああ、BL漫画ね」
早乙女は幼い二人には聞こえないように言ったが俺には届いたぞ! ここはスルーしよう。
男の子の方が丁寧に玉ねぎだけをよけながら、ふと口を開く。
「昨日、幼稚園でレイラちゃんに言われたんだ。『響君と奏ちゃんのパパは、鈴子お姉ちゃんの本当のパパじゃない』って。本当なの?」
その言葉に、早乙女の顔が一瞬、曇る。
「レイラちゃんそんなこと言ってたんだー。響のこと好きだもんね」
早乙女はすぐに笑顔になってそう言った。
なんで、否定しないんだ。……ってことは、本当なのか。
「あたし、レイラちゃんって嫌ーい!」
奏ちゃんが頬をふくらませる。俺も同意だ!
それにしても、早乙女って実は複雑な家庭環境なんだろうか。
響君と奏ちゃん(どうやら二卵性双生児らしい)がリビングに戻って、思い思いの遊びを始めると、早乙女は風呂場の掃除を始めた。よく働くね、君。
なんか学校にいる時と全然、印象違う。というか、まともに見たのは今日が初めてだ。だって透明じゃない時にじっと見たら校舎裏呼び出されて煙草の火とか押し付けられそうじゃん?
早乙女はギャルだけど、内面はめちゃくちゃまともで面倒見が良くて料理上手で掃除もしっかりこなす子だったんだな。
だからこそ、俺への告白の意味が分からん!
俺が頭を抱えているうちに早乙女は掃除を終え、再びキッチンへ戻る。
そして小麦粉やらバターの重さを計り始めた。
「あ、お姉ちゃん、お菓子作るのー?」
次女の綾子ちゃんがキッチンに入ってきて尋ねる。
「うん。クッキー作ろうかと思って」
「私も手伝うよー」
「助かるよ」
早乙女はそう言ってニッコリ微笑む。
二人は並んでクッキー作りを始めた。いいな、こういう光景。
「さっきさ、響、変なこと言ってたね。『鈴子お姉ちゃんにも聞いた』とか言ってたけど」
綾子ちゃんは小麦粉をふるいにかけながら口を開いた。
「ああ、『パパが違う』ってやつ? ま、本当だしねー」
早乙女があっさりと言った。
……そうだったのか。
早乙女は麺棒でクッキーの生地を薄く広げながら続ける。
「でも、私は今の方が幸せだよ。両親は離婚しちゃったけど、そのおかげでこんなにかわいい妹ができて、しかも双子の姉弟まで生まれてさ。ま、お母さんは大変そうだったけどね」
「私も鈴子お姉ちゃんがいてくれるから毎日、楽しいよ」
二人はそう言って笑い合う。あれ? 目から汗が……。
こんなに心優しい子が罰ゲームなんかで告白してくるわけないよな。
もう、早乙女を監視する意味はない。姉妹水入らずをのぞき見するのはやめよう。
そう思ってダイニングを出ようとした瞬間。
「あ、そうだ! 鈴子お姉ちゃんさ、昨日の告白、どうだった?」
キラキラした目で綾子ちゃんが早乙女に尋ねる。それって俺のこと、だよな?
思わず動きを止め、耳を澄ませる。
「ああ、うん。でも、返事聞く前に逃げて来ちゃった……」
早乙女は声のトーンを落として答えた。
「えー! なんで?!」
「だってギャルの子から告白されたら引くでしょ?」
「じゃあ、あの格好やめなよ!」
そうだそうだ! 俺は綾子ちゃんの意見に大賛成だ!
早乙女は星形のクッキーを生地に押し付けながら口を開く。
「だって、またイジメられるかもしれないし」
「ギャルならみんな寄ってこないもんねー。だけどさ、中学の時はそんな格好じゃなかったのに」
「マミが守ってくれたから。変な男子を投げ飛ばしてくれてたのよー!」
早乙女はそう言うと「マミと同じ高校行きたかったな」と呟く。マミさん、すげえ。
「小学校の時は、千堂君がイジメっ子をやっつけてくれたんでしょ?」
綾子ちゃんが言いながら早乙女の肩を小突く。
「うん。なんかね、変な物つかって追い払ってくれたんだ。すっごく臭かったけどね」
早乙女の言葉に俺はようやく思い出した。
苗字が変わって、尚且つギャルメイクだから全く分からなかったけど……。
早乙女って星川鈴子だったのか! 美少女として有名で、歪んだ愛情表現しかできない男子達にイジメられていたのは知ってる。
そして、一度彼女を助けたことがある。
いや、助けたっつーか、姉の発明第一号『開けたらくさや君』という缶ジュースのフリした開けるとくさやの匂いが広がるというただのイタズラ道具。
小学校三年生の時に六年生だった姉が『ほら! クラスメイトがイジメられてる! これで場を和ませなさい!』と渡され、言われるがままに早乙女をイジメていた男子にあげたんだ。
あれが早乙女視点からは、俺が果敢にイジメから助けたことになってたのか。
「中学校は別々になっちゃったけど、ずっとずっと忘れらなくて、マミに千堂君の受験先を調べてもらって頑張って受けた高校だからさ。今度は情けない姿、見せたくないでしょ?」
そう言って笑う早乙女に綾子ちゃんは言う。
「むしろ誰も近寄れないと思う」
「いいのいいの。ギャルも悪くないよ。ギャル仲間のリカもアズサもめちゃくちゃいい子だし」
早乙女は綾子ちゃんを見て続ける。
「人を見た目で判断してはいけません」
「校則違反をしてはいけません」
真顔で言う綾子ちゃんに早乙女は苦笑いをするだけだった。
直後に早乙女家を出た。
もう何も調べることはない。むしろ疑って申し訳ない。
清々しい気分だ。
ただ、自宅の玄関を上がった瞬間に、薬が切れ、母の目の前で全裸をさらすはめになった。ああ、これが道の真ん中じゃなくて良かった……。
月曜日、学校に行くと早乙女に「これ作ったから食べて!」と袋にたっぷり詰まったハート形のクッキーを渡された。
走り去ろうとする彼女を、勇気を出して呼び止めた。
「早乙女!」
こちらを振り返るギャルに、俺は顔を真っ赤にしながら口を開く。
「金曜日の返事なんだけど……」
(おわり)