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月の孤児

作者: 大原 小雪

 2014年6月初旬、日課である夜の散歩を終え、帰り道を進む折葉おりば 塔矢とうやの前に突然、なにかが目の前に立ちふさがった11時半ごろ。

「母さん……。」 折葉の目からは涙らしきものがあふれ出た。だけど目の前にいた母さんはまるで氷みたいに溶けて消えた。そこから今度は小学四年生くらいの少年が僕の前に現れた。突然の出来事に立ちすくむ折葉。少年はにやっとして歩き出し、折葉の体をすりぬけていった。強烈な寒気が折葉を襲う。折葉は今日、初めて幽霊とかいうものに遭遇したのだ。折葉が動けないでいると、周りの景色は独りでに動き、折葉は家へ帰った。その日の夜は突然の梅雨を迎え、バラバラと音を立てていた。



 折葉がベッドで摩訶不思議な夢から目を覚ましたのは夕方、午後7時のことだった。外はもう暗くなり、そろそろ町を歩く人の層がずれてくる時間だ。

実を言うとこの男、折葉塔矢は学校に行っていない。中学三年にして不登校三年目を卒業していた。親に与えられた自分の居場所に閉じこもり、光の届かないその部屋で、多くの一般的とされる日本人より12時間ほど遅れた毎日を生きている。折葉塔矢は夜を愛し、夜に生きているのだ。


 コンコン、とノックの音がしたので、重い体を起こしドアを開ける。今日の朝ごはんはカレーだ。大盛りで、卵と福神漬けもついている。レトルトカレーの匂い。朝から大盛りのカレーを食べるのには慣れている。折葉にとっては朝ごはんでも父さんからすれば、晩ごはん。それを三年も続けているからだ。まとめサイトで名作といわれる古いSFアニメを観ながら机の角で卵を割った。父がいる隣の部屋はいつも静かだ。ここは自分しかいない、自分だけの世界だ。と、錯覚してしまうこともある。

 父さんがガラガラとお風呂のドアを開けるのがわかった。上がるころには食べ終わって、すぐに折葉もお風呂に入らなければならない。しかし、父さんはお湯につかる時間がものすごく早く10分もしないうちに上がってくるから、胃の弱い折葉は到底大盛りのレトルトカレーを食べきることなどできない。しかし折葉は自分がお風呂に入る時間を遅らせ、父さんの就寝時間にガンガラジャージャーと音を立て、安らかな睡眠の邪魔をすることもできないのだ。父さんが上がってくると、折葉はカレーを半分も食べずにガラガラとお風呂にはいっていった。上がったころのカレーはもう、冷たく冷え切っていた。

 

そんな風にいつもの冷たい朝を迎えた後、折葉は日課である散歩に出る。が、時刻は8時24分、53秒。まだ二時間も早い。この時間なら折葉の住む田舎でもまだ人はたくさん居る。かといってそれ以外にすることは何もなかった。折葉は自分以外は誰も居ない、自分だけの夜が好きなのだ。しかし、そういう愛よりも先に独占欲が出てしまう欲張りな子供に対しても夜は優しかった。ご飯、散歩、ご飯、ご飯、就寝。こんな年寄りのような生活を若い折葉が何ヶ月も続けていれば、どれだけ待っても時間が過ぎないのは当たり前だ。そんな考えに一区切りついてから、折葉は父さんから誕生日に買ってもらった中古のアコースティックギターを弾いた。5000円もしないほどのおんぼろでも、音楽は麻薬のようなもので、弾けばたちまち散歩の時間がやってきた。

 

時刻は10時30分01秒。折葉は薄いパーカーを着ると、夜の世界に駆け出していった。誰も居ない、折葉だけの世界へ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編というより、序章って感じでした。 この後がある感じのお話でした。
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