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夢の中へ行ってみたいと思いませんか?

 僕は世界を旅する。眠りの中で夢は見ない。なぜならそれはもう夢では有り得ないから。夢現かな。人生は。僕が好きだからと言う理由だけで移動してしまえる世界はある。だけど、時に、無理やり移動させられる世界もある。無理に移動させられる世界は決まって詰んでいる世界だ。例えば原爆投下一日前の長崎だとか、木馬を城内に入れてしまったトロイだとか。魔王に勇者が敗れてしまった世界だとか。そうして今日の放課後眺めさせられたラグナロックな世界だとか。終末の核戦争後の世界だとか。地球が属する銀河と他の銀河との衝突が始まる五年前だとか。そんな無理すぎる世界に送り込まれるのだ。そういう時どうするのかと言えば、それでも僕は多少のあがきをしてみるのだ。例えば長崎を旅した時なんかは米軍の撒き散らしたチラシを山と集め、街ゆく人々に対して逃げ出すように声をかけてはみたんだし、トロイを旅した時は木馬を撤去させるようプリアモス王を説得しようと努めたのだ。勇者の敗れた世界では、魔王に果敢にも交渉を挑んでやったし、今日のラグナロックな世界でも忠告くらいはしてあげた。終末の核戦争後の世界では、核廃絶を訴えてやったし、銀河系同士の衝突の、つまり地球文明の消滅の五年前にはせいぜい最後まで生き抜くことの意味を人類の永夜の歴史と矜持とを自殺用の睡眠薬の代わりに置いてあげた。だけど、結局のところどれも大した成果は上げられなかった。長崎では憲兵隊に投獄されそうになったし、トロイではアカイア軍が街を支配するまで軟禁された。魔王とは世界の半分を与える協定を結んだら酷い売国奴扱いが待っていたし、今日のラグナロックではやっぱり神々の終焉は起こってしまった。終末の核戦争で核の廃絶を唱えようものなら、狂人扱いされて精神病院という名のプリズンにぶち込まれたし、そうそう、それでも、ただ一度だけ、銀河系の衝突のときだけは、本物の終焉のときだけは、僕がよそからの旅人だと分かってくれて色々と便宜を図ってはくれたのだけど。僕は『力』を持っている。けれど無力である。何故なら何も変えられないから。だから、僕は少しばかり自己逃避の世界へと入り浸ることがある。それは、最近でいうなら半月前から昨日までだ。魔法や錬金術に学校の勉強のように真剣に取り組む世界へと僕は入り浸った。結構面白いものだ。虚数領域を使った『力』の積の合成により魔法と、錬金術は行われるのだと、僕は教わった。僕が入り浸った魔法世界エナレスでは、P・Mという名の可愛そうな魔女が支配する禁領区。ランサム七十八に属して世界中の魔法使いや錬金術師、魔女たちと争った。可愛そうなP・M。禁領区で永遠に禁忌の魔法を管理していた可愛そうな管理人。僕はその世界で初めて好き放題に振る舞えた。なぜなら、そこには闘争があったから。そうだ。K・LにO・O。S・PにJ・I。禁領区のP・Mの配下であり、僕の親しい知古は、もういない。みんな他領域を支配する魔法使いや錬金術師との争いに巻き込まれて消えてしまった。僕の『力』が及べば彼らのことをみんな助けることができたのだと思う。だけど僕は好きに振る舞ってしまった。ゲームみたいに領土を広げて、魔法や錬金術の書を集めて、耳目を引くような大掛かりな建造物を作ることに夢中になった。それは玩具を与えられた子供に似ていた。僕は干渉し過ぎてしまったのだ。その結果が魔法世界エナレスとの縁切りであり、今日の山田さんの放逐であり、放課後のP・M=九条さん事件であり、僕の日常の崩壊の第一点につながってしまっているのである。

 全く。この世は闇である。僕は時に眠ることが恐ろしくなる。どの世界を呼び出すのか決めてしまっているときはいい。だけど、何も浮かばないまま眠ってしまうとどうなるか。そう。決まってそのときは最悪の情勢なのだ。そうして今日もどうやら何も思い浮かばないまま眠ってしまうような日であるようだった。うつらうつらとしていると…。

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