夢を旅した少年
僕は、時々、あの天国の最後の門のことを思い出す。狭い、あまりに狭い、あの門の先にはどのような楽園が広がっていたのだろうかと。主は与え、主は奪う。主の御名はほめたたらえよ。姉上に向かって僕は時折あの信じ切れなくなってゆく一日のことを確かめるように持ちだした。あの時、姉上は確かに泣いていた。でも、そのことを言うと、いつも僕の妄想だって姉上は言う。八家美奈は、天空の司書様は、今でも家に居候している。姉上が時折、福沢諭吉に魔法をかけて貰っているのを見かけることがある。同じナンバーのお札だから、使ったら通貨偽造の罪で捕まりそうなものだが、上手くのらくらやっているらしい。九条止施代ことP・Mは、どういう法則でトーキョーが元に戻ったのか不思議がっていた。彼女の予想では、G・Gの悪戯の可能性が高いらしい。僕が神の力だよと何度言っても信じない。P・Mにとって自由意思を求めてさまようあの男装の麗人は神以上に強大なものらしかった。いつか決着を付けなきゃいけないんだよと、いつも言っているのに一向に自分の世界に帰る様子は無い。僕らの日常は戻った。クラスの一ダースほどの人間は名前と顔が一致しない、別人へと置き換えられていたが、それがどうだというのだ。日常は戻った。三千万人の犠牲と、僕の心の傷後と、大魔法使いの純潔を犠牲にして。僕は夢の世界を旅する。そしてこの比較的リアルな世界をこよなく愛するチョーノーリョクシャだ。そして、臆病で、怯懦で、だらしのないただの人間だ。だから、僕は今日もまた夢の世界を旅する。だけど、そうだ。だけど、いつか旅をできなくなったとき、そのとき、そのときは、僕は一人の人間としてこの比較的リアルな世界を現実だとでも言うのだろうか。そう思うと何だか可笑しくなってしまう。だからどんな終わり方をしても僕は最後にはこう言うのだ。
「さようなら。夢の世界。グッバイ」




