さようなら。夢の世界。グッバイ。
力を入れて書いたのですが、一次で落ちたので晒しておきます。暇だったら読んでください。
あーあ。まただ。これでお仕舞。消えてしまうか。ダイヤモンドの都も、エメラルドの図書館も、金の市場も。そして魔法も、錬金術も、超常現象も。
僕は、八家勇作はいつものように、夢の世界が終わるのを認識し始めていた。その視線の先には驚いたように自身の体を見下ろす美しい少女であり、少年が世界の終わりと共に滅びつつあった。僕は静かに声をかける。
「グッバイ。可愛そうな魔女」
「ゆ、勇作。私、私…」
消えゆく僕の体から目を逸らした少女は、魔女は、薄れて行く景色の中で何を思っていたのだろうか。僕こと、勇作は見慣れたとはいえ、陰鬱な気分にさせられてしまうその光景を微笑みながら見ていた。
「さようなら、夢の世界。僕はもう帰るよ」
「どうして」
魔女の悲鳴は消えゆく世界にこだましなかった。消え入る声と共に非日常が終わり、日常が始まる。
僕は、八家勇作は今消えゆく世界のことが嫌いではなかった。各地を支配する魔法使いに錬金術師、そして魔女。彼らの織り成す無限に近い彩色をしたタペストリーのことを勇作は嫌いではなかった。特に自身が手掛けたエメラルドの図書館は嫌いではなかった。例えその緑色に輝く宝石が元々ただのセラミックに過ぎないとしても。そうだ、数万に及ぶ魔法や錬金術を収めた収蔵庫のことを考えると、僕こと、八家勇作の気分は浮き立つと同時に暗鬱たるものになるのだった。僕はかつて導かれたのだ。そして、この消えゆく世界で、角逐し、争い合う、一人の魔女に協力した。どれほどの年月を過ごしただろう。どれほどに残忍な戦いを見ただろう。魔法使いたちの代理戦争。錬金術師たちの狩。魔女たちの殺戮。それでも僕は、八家勇作はこの世界のことが嫌いではなかった。魔法世界エナレスは十分な知識という名の通貨を僕に与えてくれたのだから。
「さようなら、夢の世界。グッバイ」
その言葉は僕が夢の世界を去る時に常に口走る言葉だった。