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吹き飛ばされた月下紋次郎、松下鴎、桶川散魅の三人は……。
塔から約300メートル離れた露店の天幕を突き破って落ちた。
「……どうやら生きてるみたいだの」
地面に落ちた、紋次郎が両手を見ながら言った。
「紋ちゃん……」
散魅は紋次郎の上に覆い被さり、頬を真っ赤にしている。
「も……紋次郎、なんでもっとしっかり抱えてくれないのよ」
鴎は売り物の果物を山盛りに乗せた台に落ちていた。
山盛りフルーツの中から顔だけを出して、文句を言った。
「三人とも無事だったようじゃの、よかったよかった」
「ねーもう少しこのままでいていい?」
「……そうしていたいがの、ホレ見てみ」
「ん?」
露店の回りには人が集まっていた。
集まった人たちが紋次郎たちを見てワーワー言い合っている。
「いつの間にかこんなに人が……」
「散魅が見られても平気なら、ワシはかまわんがの」
「そんな性癖持ち合わせてないわよ」
「なら、逃げるかの」
「逃げるの?」
「ほれ、あれ」
「今度はなーによ」
紋次郎は顎を動かした。
動かした先にはエプロンをした男が腰に手を当て二人を睨んでいた。
「店長さんっぽい?」
「ぽいじゃなく、どうやら正真正銘のここの店長だの」
「どうするの? 謝るの?」
「謝って許してくれるとは思えんがの」
店長が音を立て右足を上下に動かしている。
かなりいらついているようだ。
「だね~はははは~」
「ワシがおまえのケツを叩いたら合図じゃ」
「合図?」
「外に向かって全力で走るんじゃ」
「紋ちゃんは?」
「ワシはあの果物の下から鴎を引き出してからじゃね」
「わ、私も手伝う」
「ダメじゃ、三人で捕まったら助けてくれる奴がおらんようになる」
「でも、でも、私一人じゃ……」
「大丈夫じゃ、散魅ならの……」
紋次郎はそう言って、散魅の頭を抱きしめた。
「うん……分かったよ、紋ちゃん」
「ほいじゃ、しっかり逃げや」
「うん!」
ポン! 紋次郎は散魅の尻を叩いた。
散魅は両腕で勢いよく跳ね上がり、集まった人たちめがけて走り出した。
みんなの目が散魅に釘付けになる。
その好きに紋次郎は起き上がり、鴎の手を掴み山盛り果物の中から引き出した。
「全力で走るんじゃ!」
「了解!」
その瞬間、紋次郎の襟をつかまれ、後ろに引き倒された。
床に転がりながら片膝を突いて中腰になった。
「何すんじゃ!」
ズン! 紋次郎の前にぶっとい足が現れ、顔を上げた。
大女が紋次郎を見下ろしていた。
「店を壊して逃げる気かい?」
大女はドスの利いた声だった。
さっき散魅が店長っぽいと言った男は入口を塞いでいた。
「あんたが店長かの?」
「あん? 店長はあの入口の男だ、私はここいらの用心棒だよ」
そういうと大女はポキポキと指を鳴らした。
「ぷーはっはっはっはっ!」
「何がおかしい!」
「すまんすまん、女の用心棒なんて初めてじゃったからの」
「死んでも恨むなよ!」
大女は叫びながら紋次郎に拳を振り上げ、ブン! と振り下ろした。
拳が紋次郎の左頬に直撃し、ぶっ飛んだ。
露店の柱にぶつかり、床に倒れ込んだ。
「男のくせに口ほどでもないやつ」
紋次郎がふらふらと立ち上がり、両腕で顔をガードする。
大女の第二撃目が紋次郎の腹部に直撃した。
紋次郎がまた吹き飛び、地面に仰向けに倒れた。
「けっ! 所詮、女は女やの。女のパンチじゃワシを殺せんぞ」
仰向けに倒れたまま叫ぶ紋次郎。
「……頭を踏み抜いたら、その減らず口もなくなるかしらね」
大女の右足が上がり、紋次郎の顔面へ降ろされた。
「ちょっと待ってください!」
女の声がした。
女の声で大女の動きが止まり。
紋次郎がその隙に横回転して逃げた。
次の瞬間、大女の足が紋次郎の顔があった場所に降ろしていた。
モアモアと砂煙が起きた。
「ふー危なかったの、危機一髪じゃった」
紋次郎は立ち上がり、入口に立つ女を見た。
若い女だ、見た目17-19歳といったところだ。
かなりの容姿はいい、紋次郎が思わず見とれてしまうほどに。
「なんですか、あなたは?」
大女が顔を入口の女に向けて言った。
「私は……私はその人の……恋人です」
「……?」
紋次郎は渋い顔で女を見た。
女は紋次郎の視線を感じ、顔を横に向ける。
「ここの修理費は私が払いますから、彼を助けてください」
女は一気に捲し立てると、頭を下げた。
大女はフンと鼻を鳴らし言う。
「店長どうする?」
「え? あ、ああ。修理費出してくれるならウチはいいぞ」
いきなり大女に話しを振られた店長がしどろもどろに答えた。
大女は黙って頷くと、紋次郎に手を出した。
紋次郎は黙って握手した。
「殴って悪かったな」
「いいや、ワシこそあんた女だとバカしてすまなかったの」
「あんたとは一度、飲んでみたいね」
「ワシは大酒飲みじゃ、今度は負けんよ」
「この街にいれば、また会えるかもしれないわね、その時に飲みましょう」
「そうじゃな、楽しみにまっとるよ」
大女は手を振りながら、露店から出て行った。
それと入れ替えに鴎と散魅が露店に戻ってきた。
「紋ちゃん、大丈夫だった?」
「私のためにごめんね~紋次郎」
「は? 紋ちゃんは松下さんのためじゃないし!」
「紋次郎! 私のためだよね?」
「……」
紋次郎は二人をスルーして、助けてくれた女の手を取った。
「お嬢さん、助けていただいて、ありがと」
「え? え? え?」
「僕は月下紋次郎と言います! 訳合ってここにいますが、けっして怪しい者じゃありません」
「そ、そうなんですか?」
「見知らずのあなたに助けていただいて、僕は男としてふがない」
「そんなこと、気になさらいでください」
「そうはいきません! あなたから受けた恩はこの不肖、月下紋次郎が全力を持って返させていただきます」
「恩ってほどでも、困っている人を助けただけですから」
紋次郎は女の言葉を聞いて、目頭を押さえ頭を振った。
「どうか、あなたに恩返しさせてください」
「わ、分かりましたから、泣かないでください」
女は紋次郎の手を取り、優しく言った。
紋次郎と女のやり取りを見ていた鴎と散魅はあきれ顔だった。




