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今まで泣いていた桶川散魅が何かに引きつられるように立ち上がり。
ふらふらと歩いて行った。
「ねえ、紋ちゃん……」
「ん? なんじゃ」
「下に人が大勢いる、街なのかな……?」
「なんじゃと!」
紋次郎は抱き付いている松下鴎を強引に離して、散魅のところへ行った。
「本当じゃ、下に人が大勢おる……」
「ここって、かなり高いところみたいだよね?」
「そうじゃな、高層マンションの屋上みたいな感じがするの」
クイクイ、紋次郎の上着の裾を引っ張られた。
紋次郎が見ると、鴎が真っ赤な目をして裾を掴んでいた。
「鴎か、脅かすのやめんかい、心臓に悪いわ」
「だって……ぐす」
「あー。悪かった、悪かったからこれ以上泣かんでくれの」
「う……うん」
「それより鴎も見てみ」
「なに?」
鴎が紋次郎の背後から顔だけを出して覗いた。
「街よ、下の方に街があるの」
熱のこもらない声で散魅が鴎に教えた。
「街?」
「たぶんね。人が大勢見えるもの」
「しっかし、人が小さく見えるの、よっぽどここは高いところなんじゃろうな」
「紋次郎、お腹空いた」
鴎のお腹がぐ~と鳴った。
紋次郎と散魅は目を合わせて、大笑いした。
「な、なんで二人して笑うのよ! ひどいよ!」
「悪かった。悪かったの、笑ってしまって、たしかに鴎の言うとおりじゃの」
「そうね、何があるか分からないから、食べられうちに食事したいわね」
「それじゃ下行ってみようよ!」
鴎が腫れぼったい目をこすりながら言った。
「しかしの……ここ高いところなんじゃ、どうやって下に降りるかの」
紋次郎が頭を掻いた。
「そうね……降りれそうなところあるのかしら」
そういうと散魅は周囲を見回しながら歩いたが、入口らしい物は見当たらなかった。
そして、散魅は見回した感じから、ここの大まかな外観予想を言い始めた。
「ここって石を積み上げた塔みたいた建物ね」
「そうじゃの」
「それもかなりの高さの塔ね」
散魅が塔から身を乗り出して地面を見ながら言った。
「それより、降りる場所は?」
まだ紋次郎の背後に隠れながら鴎がつまらなそうに言った。
「見付けてたら松下さん置いて、私と紋ちゃんの二人で降りてるわよ」
「ひどーい! 私を置いていくなんてひどいよ!」
鴎は紋次郎の裾を離して、プンスカしながら散魅の前に立ちはだかった。
鴎と散魅が睨み合い火花を飛ばす。
「少しは自立しなさい、引きこもり女子高生さん」
「う、うるさい! あんたに関係ないじゃない! あんたなんか24歳フリーターだし!」
「いいのよ、私、紋ちゃんと結婚するから、結婚するの職歴なんて関係ないのよ」
「け、結婚! 紋次郎はあんたなんかと結婚するわけないじゃない! 紋次郎は若い子が好きなの!」
「未成年者に手を出したら紋ちゃん逮捕されるわよ、あなたのせいでね、松下鴎さん」
「いいもん! そしたら責任取って私が紋次郎と結婚するもん!」
二人が言い争ってるのを聞き流しながら、紋次郎も周囲を見て歩いた。
歩きながら怪しそうな場所を踵で床を蹴ってみたが、階段が出現したりはしなかった。
「どうしたもんかの……」
そう呟くと、紋次郎は中央で大の字になって仰向けになった。
風の音と鴎と散魅の言い争う声が紋次郎の耳に入って来る。
「ん? なにかの、アレ」
青と紫のグラデーション色の空、上空にマントをバタつかせた男が浮いていた。
男は紋次郎を見ているようだった。
「……友達になろうって雰囲気でもなさそうだの」
紋次郎は相手を刺激しないように、ゆっくりと立ち上がった。
そして、鴎と散魅をチラ見した。
「二人はまだ一緒にいるようじゃの」
マントの男が右指を紋次郎に向けた。
指先には小さなブラックホールみたいなのが発生しつつあるように見えた。
男の口角が上がっている、どうやら笑っているようだ。
「気に食わんやつやの……」
紋次郎は男を睨み付けながら叫んだ。
「あんたなんの、ワシに何か用かの!?」
「……フッ」
男の白い歯が見えた、瞬間……。
指先の小さなブラックホールが紋次郎に向かって動き始めた。
遅いのか早いのか判断に困るような微妙な速度だ。
「こりゃ逃げんとまずいの!」
紋次郎は鴎と散魅の方へダッシュした。
「キャッ! 紋次郎!」
「紋ちゃん!」
「二人とも少しの辛抱じゃ!」
紋次郎が二人を抱きしめ、そのまま塔から飛び降りた。
紋次郎の背後で大爆発が起きた。
「「「!!!!!!」」」
耳をつんざく爆発音と衝撃が三人を襲った。
三人とも勢いよく吹き飛ばされた。
紋次郎は片目を開き、崩壊していく石造りの塔と……。
マントをはためかせ男が見えた。




