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紋次郎は配達を中断して営業所へと戻ることにした。
震える小包を持って。
営業所内は客がおらず静だった。
事務机に向かう散魅が一人いるだけだ。
午後4時前、この時間は他の従業員は配達中である。
「おい、散魅! ちょっと来てくれ」
「ん?紋ちゃんどうしたの? もう配達終わったの?」
桶川散魅は笑顔で紋次郎を出迎えた。
紋次郎は右手を振りながら、渋い顔になった。
「違う、違う。まだ終わっておりゃせんがな」
「だったら、どうしたの? もう4時だよ」
「ちっとな気になる荷物があったもんじゃから、確認してもらおうと思っての」
紋次郎が小包を散魅に渡した。
振動する小包を受け取った散魅が驚いた。
「ちょ、何なのこの荷物? 動いてるよ」
「そうなんじゃ、なんでか知らんけど動きよる」
「動きよるじゃないでしょ、早くお客さんのところに置いてきなさいよ」
「ワシだって、そのつもりでお客さんのところ行ったんじゃ、そしたら留守なんよ」
「電話した!? 電話!」
「おう、もちろんじゃ。でも、電話出んからのどうしたもんかと思っての」
「……困ったわね。所長はまだ地区営業会議から帰ってきてないし」
散魅は本当に困ってるようで、ため息までついた。
紋次郎は困ってる散魅をほっぽいて自販機でミネラルウォーターを買った。
ぐびぐびぐびぐびと一気にペットボトルが空になり、ベコッとヘコんだ。
「ちょっと待ってて、私から電話してみるから」
「おう、頼むよ」
散魅は電話を取り、電話を掛けた。
なかなか出ないのかずっと小包を見ている。
「出んの?」
「うん。出ないね、呼び出し音はなってるんだけど……」
「さっきと同じじゃね。いくら待っていても出んのよ」
「困ったね。これまだ振動してるし」
振動を続ける小包をカウンターに置き、散魅は紋次郎を見た。
「一丁、開けてみるかの」
「さすがにそれはダメなんじゃないかな。お客さんに怒られるよ」
「しょうがないじゃないのさ、現にこうして震えてるわけだし」
「でも……」
「カッター貸してくれ」
「うん……」
散魅はカッターを出して紋次郎に渡した。
カチカチ。使い込まれ汚れが目立つカッターの刃が光った。
紋次郎は刃を器用に動かすと、梱包を解いた。
箱の中にはスマホが入っていた。
スマホは振動しながら小さな音で不気味なサウンドを流していた。
画面はいろいろな色に変わり続けている。
紋次郎はスマホを指でつまみ上げた。
「なんじゃただのスマホじゃの」
「だね、ちょっと古い機種だけど……」
「そうなの?」
「うん、去年の冬モデルだったかな、これ」
散魅は紋次郎からスマホを取って見た。
「とりあえず音止めようや」
「待って、今やってみる」
スマホの液晶を指でなぞる散魅。
だが、スマホは反応せず、何回も指を往復させた。
「動かないよ、このスマホ」
「みたいじゃの、電源は切れんの?」
紋次郎にそう言われ、散魅は電源ボタンを長押しする。
やはりなんの反応も示さず、液晶は色を変え続け、振動していた。
「壊れてるのかな、これ」
「ワシ、それ落としてないけんね。ワシのせいじゃないよ」
「……困ったね、箱に戻してもう一度、お客さんのところへ……」
散魅はスマホを箱に戻したところで手が止まった。
「あっ! 紋次郎だ! 仕事終わったの?」
若い女の子が営業所に入ってきたからだ。
「なんじゃ鴎じゃないの、まだ仕事しとるよ」
女の子の名前は松下鴎、17歳。
自称、美少女不登校児だ。
「そうなんだ、まーいいや紋次郎に会えたしね」
「鴎はのんきやの」
「本当にね、仕事場まで来るなんて非常識だわ」
散魅が鴎を睨み付けながら言った。
「ねーねー紋次郎、仕事サボってんの?」
「この娘、聞いちゃいねえし」
「サボっておらんよ。この荷物に問題があって営業所にいるんじゃ」
「そうなんだ、この荷物何が入ってんの?」
鴎は荷物に興味がわいたらしく、箱を覗いた。
「スマホ?」
「そうよ、スマホよ。なんか壊れてるみたいなのよね」
「これ壊れてるの? ちょっと見ていい?」
鴎は紋次郎に上目遣いで聞いた。
「壊さんようにするならいいよ」
「ちょっと紋ちゃん! お客さんの物なんだから!」
「こげなもん送る方が悪いんじゃ」
「もう!」
二人の横で鴎は箱からスマホを取り出し、しげしげと見ていた。
鴎は首を捻りながら、液晶の色が変わるタイミングでタップし始めた。
「鴎、何やってんの?」
「いや動かないなら、何かのロックが掛かってるのかなと思ってね」
「そいで液晶を叩いてるのか」
「うん。規則的に液晶の色が変わるなんておかしいでしょ」
鴎は言いながら液晶をタップし続けた。
「そんなんで動くのかしらね……」
「ま、やってみんことには分からんよ」
「そーそーやってみるだけやろう!」
何回タップし続けたろうか、何回液晶の色が変わっただろうか、そしていつまでスマホは振動し続けるのだろうか。
3人が同じことを考えながら、スマホを食い入るように見続けた。
しばらくすると、明るかった液晶が次第に暗くなっていき、強かった振動も微弱になっいた。
「「「……!!」」」
3人が電池切れだと思った瞬間だった。
今までカラフルに変わっていた液晶が灰色になった。
液晶の左上から文字が浮かびあがっていく。
『Welcome !!』
液晶に浮かび上がった文字はこの単語だけだった。
そして、床にスマホが落ち液晶が割れガラスが飛び散った。
液晶を見ていた三人が折り重なるように倒れた。




