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ゴーゴーと宅配車のカーエアコンが唸りを上げ出す真夏日。
気温は33.8度、もう少しで地域最高気温更新の35.1度だ。
月下紋次郎は宅配車を路肩に止め、伝票を睨み付けていた。
紋次郎の額には汗が吹き出している、カーエアコンを強にしていても車内はまったく冷えていない。
手の甲で汗を拭い拭い、伝票確認していく。
目下、紋次郎のストレス原因は……。
時間指定。
送り主から指定された時間に配達しなければいけない制度だ。
朝、営業所出発前にある程度の配達経路を作って出発するのだが。
午前中、既に紋次郎が考えていた予定を大幅に狂っていたのだ。
行く時間指定配達先々で留守だった。
時間指定客の間に一般客の荷物を配達し、また時間指定客のところへ行くの繰り返しだ。
昼飯は宅配車中で総菜パンを食いながら配達を続けていた。
営業所に戻る暇がないのだ。
「このままだとサービス残業になりかねん」
紋次郎は独り言にしては大きな声で呟いた。
なんとしてでも今日は定時に上がり、19時までにはテレビの前にいたかったのだ。
衛星放送でやっている半年に一回放送する旅番組が見たいのだ。
普通の旅番組とは違う場所というか、そんなところ行かねえよというところを隅々まで紹介する番組だ。
紋次郎はその旅番組を楽しみにしていた。
半年に一回のささい楽しみだ。
紋次郎はまた額の汗を手で拭い、伝票を整理しながら配達経路を組み直していく。
「お客さんよ、家にいてくれよ、頼むぜ」
伝票をあれこれ並び換え、またあれこれと並び直し、うーんうーん言いながら地図と睨めっこだ。
「あー!」
紋次郎はサイドブレーキを上げ、ギヤ-をDにして配達車を動かした。
そう伝票と地図を見ているより、一軒でも多くお客さんの家を回って荷物を減らすべきだと気付いたのだ。
急ぐ紋次郎は少しばかり荒い運転だ。
「宅配便でーす」
「ご苦労様です」
お客さんに荷物を次々と届け、なんとか勤務時間内に終わる算段が付き始めた午後2時。
午後3時までの時間指定の荷物に取りかかる、午前の客とは打って変わってちゃんと家にいてくれ、紋次郎の予想より早く終わった。
路肩に配達車を止め、荷物の整理していた時だった。
荷物の一つが怪しく振るえていた。
片手で持てる小さな箱だ。
ガガガーガガガー。
一定のリズムで振動している。
紋次郎は恐る恐る振るえる荷物を取った。
荷物は意外と軽く、紋次郎は箱を耳に当ててみた。
振動音とは違う小さな音が聞こえた。
「なんだコレ?」
紋次郎は箱を振ってみた。
梱包がしっかりしているのか、中の物が動くような音はしなかった。
小包の宛先を見ると、配達車が止めてある場所から近い。
「なんか動いてるし、先にコイツを届けに行くかの」
紋次郎は運転席に戻り、エンジンを掛けた。
小包の配達先まで5分程度で到着した。
宛先票に書かれた住所は新築の二階建てアパートだった。
紋次郎は小包を持って配達先の部屋の呼び出しブザーを鳴らした。
ブーという音が部屋の中から聞こえるが、人の気配はしない。
紋次郎はもう一度、ブザーを鳴らしたが、やはりお客さんは出てこなかった。
仕方がないので、紋次郎は宛先票に書かれているお客さんの携帯番号に電話してみた。
しかし、部屋の中からは呼び出し音が聞こえない。
「いないのか、困ったの」
いまだ振動が止まらない小包を持ったまま途方に暮れる紋次郎だった。




