セラの存在
お城の門前で、彼の帰還を待つ。 簡単な任務のはずが、セラにとっては大きい。
――――町全体が緋く染まりだす頃。
やがて複数の人影が遠方に見え、見知った人たちだと分かると安堵する。
セラ「お疲れ様です王子様。 いかがでした? 森のほうは」
シルク「ああ、セラ、お迎えありがとう。 何も問題はなかったよ」
セラ「そうですか。 良かったです」
シルク「いや……いくら歳が歳と言え、あんなお使いみたいな任務はどうかとなぁ」
セラ「平和で喜ぶべきです。 でも、あなたなら、お父様にも近いうちきっと認められますよ」
シルク「そう言ってくれると嬉しいよ。 待ってくれる人がいるから頑張れる」
セラ「大げさね……」
セラは気恥かしさを微笑でごまかす。 釣られてシルクも笑顔を吹きこぼした。
二人の仲睦まじい談笑に口を挟む者はいない。 側近の彼らは広い背中や、万物を知るかのような深い目で優しく見守る。
セラ「あんまり待たせてはダメね。 戻りましょう」
シルク「そうだな。 父上にも報告しなくちゃいけない」
町の人々に映る勇敢なシルエットは、白く大きいお城の門をくぐり、次第に見えなくなる。
――――一方で。
地平より出てて動き出す、得体の知れないもの共の存在に気付いた人間はいない。
?? 「ご機嫌麗しゅうございます。 マザー」
薄く青い冷気をまとい、まるで怪しく笑みを作るその男は……ジャック。
マザー「ジャック・フロスト。 なんの用じゃ」
自分があたかも紳士であるかの様に気取るジャックは、雪男と呼ばれるのを毛嫌いする。
ジャック「つい先日マザーの仰られたことについてですが」
マザー「ほう? なんじゃ」
ジャック「その望みを叶える手立てがあります」
マザー「……流石じゃジャック・フロスト。 そなたならきっと素晴らしい案を持っているじゃろうな」
自然とほころぶ。 彼は、自他共に認める頭脳明晰な男であり、その認識に間違いはない。
ジャック「恐悦極まります。 そこで一つ、人鬼らのお力をわたくしめに貸して頂きたいのですが」
マザー「ああ構わん。 好きに使ってくれ」
ジャック「はっ」
マザー「頼んじゃぞ。 そなたにわ期待しておる」
ジャック「ははー。 仰せに仕りたり」
大仰な素振りで颯爽と退出していく。 お調子者でもある彼を憎める者は、仲間内にはいない。
敵対するものに、たとえどれだけの残忍さを持っている、としても――――。
マザー「……万事上手くいきそうでもないのぉ」