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再会と旅立ち その5




 

 生徒たちだけでいつまでも置いておくわけに行かないので、教会の玄関でノアと別れ、ミズキは一人馬のところまで戻った。

 どうやらユリウスはまだコールマンたちと話しをしているのか、戻っていなかった。

 代わりに見覚えのある蜂蜜色の髪が揺れていた。

 アーネットだ。

 「久しぶり。元気?」

 わざわざここにいるのだ、きっと自分に何か用があるのだろう、ミズキは明るい声でアーネットに声をかけた。

 「そういえば、ずっと気になってたんだ。あの後アーネットは大丈夫だったのかなって。長老たちに変なことされなかった?」

 ミズキの中の聖霊獣が目覚めたきっかけになった、先月のあの結界破り。あのあとミズキはユリウスに連れ去られ、査問会から抜け出すことが出来たけれど、アーネットはどうだったのか?

 ミズキの問いかけにアーネットは眉根を寄せた。

 「そんなのノア先生の一言で全部お開きになったわ。それ以上はなにも聞かれてない」

 「そう、よかった」、

 ミズキがほっと胸をなでおろしたのもつかの間。ぎろりと不機嫌丸出しの眼差しに睨まれて、ひくりと体が引きつった。

 ―――……ええと。

 ミズキは笑顔を浮かべたまま思案をめぐらせ

 「そうそう。さっきノアから聞いたよ。秋がきたらアカデミーに入るんでしょう? おめでとう」

 ほんのさっき、別れ際にノアから聞いたばかりの情報に祝辞を述べた。会えるかどうかわからなかったので、ノア経由におめでとうの伝言を言付けていたが、いえるのであれば直接言いたかったので、ここで待っていてくれたのはラッキーだ。

 とにかく純粋におめでとうと言ったのだが、アーネットの眉間に更に深いしわが刻まれた。

 「なによ、嫌味?」

 「なんで嫌味なの?」

 ミズキはきょとんとアーネットに尋ねた。

 しかしその態度もアーネットには気に入らないのだろう。

 「……私、やっぱりあなたのこと嫌いだわ」

 アーネットは地面を睨みつけながら低い声で呟いた。

 ぎゅっと手を強く握り

 「自分は私の年にはとっくにアカデミーに入ってスキップしまくってたじゃない。嫌味にしか聞こえないわ」

 そう小さな声で呟く。

 ―――いや、それは受け取り方が卑屈なだけで……。

 ミズキは心の中で苦笑いした。ただし顔は一切変えていない、あくまで心の中でだ。

 「それに、なによ。勉強ができるだけじゃなくってずっと聖霊獣の片割れを宿してたですって? しかもあのランドルフ公爵の対だなんて、ふざけるのもほどにして欲しいわ。自分自身のことも知らずにずっとここにいただなんて、どれだけ平和なの、あなたの頭の中」

 ちくりちくりと刺してくる言葉にミズキは返答もせず、言われるがまま針の筵になった。

 事実、自分の中の聖霊獣の存在を知らなかったので、平和に過ごせていたと言うのは間違いがない。

 もし知っていたらどうなっていたことか。考えてもろくなことがない気がする。

 でも、もし自分の中にユリウスの対の聖霊獣があると知っていたら、今頃、普通にユリウスを慕い、妻として振舞っていただろうか?

 ちらりと想像して、断念した。

 ―――絶対、無理! 心臓がもたない!

 早々に結論付けて頭を振る。

 と。

 「あなた、人の話を聞いてないの?」

 アーネットの冷たい声にミズキははっと我に返った。

 「いえ、返す言葉もなかったダケデスヨ」

 ミズキが言うとアーネットはふんと息を吐いて

 「もういいわ」

 顔をつんと背けた。

 そうして教会のほうへすたすたと歩き始める。

 慌ててミズキはアーネットに声をかけた。

 「あ、ねえ! 私に用があったんじゃないの?」

 わざわざミズキの馬のところに来ていたのだから。

 きっとなにか用事があったのだろう。

 だがアーネットは振り向くこともなく

 「別に、もう終わったわ」

 それだけを言った。

 今の会話の流れでどこにアーネットの用件があったのか、わからない。

 だがこれ以上話をふるのはやぶ蛇だと思い、かわりに

 「秋がきたら、またあおうね」

 アーネットの背中に声をかけた。

 アカデミーも王都にあり、幻獣討伐部隊とそう遠く離れてはいない。だからレニーが幻獣討伐部隊とアカデミーの教師を両立できるのだ。

 アーネットは足を止めて少し振り返ると

 「おめでたい人ね」

 ふんと笑ってまた歩き始めた。さっきに比べると、雰囲気は柔らかくなったように思う。

 ミズキは馬の背を撫でながら首をかしげた。

 ―――あの子はいま一つわからない。

 ミズキは静かにアーネットの背中を見送った。と、その背後から

 「お前は厄介な人間関係を築くやつだな」

 きっと一部始終を見ていたのだろう。

 ユリウスが呆れたように呟きながら姿を現せた。

 「私は単純明快なつもりなんですけどね」

 ミズキはそう呟いて、唐突にさっきノアと話をした言葉を思い出した。

 『その昔、剣の聖霊獣の力に酔いしれた宿主が、中の力を暴発させて、見境なく人も魔物も切り伏せたことがあるの。戦争においては一人で敵1個師団全滅させたこともある……』

 これについて、ユリウスに聞けば教えてくれるのだろうか?

 ミズキはユリウスを見つめた。

 ユリウスもミズキを見ていたけれど、先に視線をふいっとそらしたのはユリウスだった。

 どちらの目も何かをききたそうにしていたと思ったのに……。




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