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子どものサンタのないしょの話

作者: ホーリー

「あんた、ホントにそれはいてくつもり?」

 母がなんくせをつけた。冬実は姿見の中の自分をしげしげと見つめる。

「へんかな?」

「おかしくはないけどさむいでしょ。ジーパンはいていきなさいよ。」

「ジーパンって……赤のデニムなんておかしいよ。」

 今日は冬実のデビューの日だ。冬実はあれこれ考えたあげく、キュロットスカートをはいていくことにした。ミニスカートを母に禁じられたからである。だから、もうこれ以上はびた一文ゆずる気はなかった。

「ぜったいカゼひくよ。今年さむいんだよ。」

「ひかない、ぜーったいひかない!」

「じゃあいいわ、その下にタイツはいていきなさい。いやならジーパン。」

「えーっ?」

 母はタンスをごそごそやって白のタイツをとりだした。はいているうちにあったかくなる素材のやつである。こんなものを加えたら、コーディネートがめちゃくちゃになる。そう言いかえすと、

「ニッポンのさむさナメんじゃないわよ、今カゼひいたらお正月までひきずるでしょ。だいたいあんた、ベッドでじっとしてられないんだから、カゼひいたらみんなにうつすわよ。」

「ぜったいぜったいぜーったいひかないっ!」

「……もう勝手にしなさい。」

 冷たいひとことをのこし、母は部屋をでていった。押してだめなら何とやら、冬実を不安にさせて言うことを聞かせる作戦である。だがしかし冬実はめげない。勝手にしろと言われたのだから勝手にさせていただく。

 赤のトレーナーに赤のキュロット、ひざ下まである白のソックス。赤のショートブーツはまだ泥がついていないから、たたみの上ではいても平気だ。肩に赤のケープをかけて、あこがれだったポンポンつきのとんがりぼうしをかぶった。

 鏡の前に立って、冬実はにんまりと笑う。


 世間さまにはないしょである。だからここだけの話にしておいてほしい。

 冬実は、サンタの家の子だ。


   ☆


 今日は十二月二十四日で、クリスマスイヴで、佐伯冬実にとっては十一歳の誕生日でもあった。

 十一歳は特別な年だ。冬実の家では十一歳になると、仕事のてつだいができるようになる。冬実はずっとこの日を待っていた。

 何しろ、今までの誕生日はつまらなかったから。

 十二月のはじめごろから、佐伯一家はクリスマスの準備のため、そろって本家——おじいちゃんの家に行く。何の用事もない冬実も、学校を休んでついていく。

 本家の場所はないしょである。ないしょであるが、「日本の北の方で、ド田舎」ということくらいは明かしてもいいだろう。田舎も田舎、半径五キロ以内では、人に会う確率よりもクマに出くわす確率の方が高いくらいのド田舎だ。そこに、むやみやたらと広い寺がある。——通称「サンタ寺」。これこそが、日本のサンタの総本部である。

 十一月のなかばから、十二月のはじめにかけて、ここには全国各地から分家の人々が集まってくる。サンタファミリーが全部で何人いるかについてはないしょである。ないしょであるが、三百人よりは少ない、とだけヒントを出しておこう。

 この家に到着した時から、冬実の両親は大いそがしになるため、冬実にはほとんどかまえなくなる。かわりに冬実のめんどうをみるのは、今はサンタを引退している祖母だ。

 冬実が、祖母とコタツでミカンを食べたり、いとことババぬきをやったりしている間、サンタ寺は沈没しかけた船のような混乱におちいる。だれもがぎゃーぎゃーさわぎ、「プレゼントがたりない」とわめき、「買いに行ったが品切れだった」と泣き、「もうダメだ」と頭をかかえ、それでもなんとか準備をととのえて、イヴの夜には、祖母と十歳以下の子どもたちをのこして仕事に出かけるのだ。

 そして冬実は、がらんどうのお寺で、祖母の作ったハンバーグを食べる。

 もちろん父も母も、冬実をほったらかして平気なわけではない。二十五日には、ちゃんとケーキを買ってお祝いしてくれるし、「ハッピーバースデー」も歌ってくれる。プレゼントもくれる。冬実の誕生会は大人サンタたちの打ち上げの場でやるので、運がよければ親戚の人たちからもプレゼントをもらえることがある。冬実はそれが、うれしくないわけではない。

 でもやっぱり、二十四日に、本当の誕生日に祝ってほしいと思う気持ちがあるのも、事実だった。

 祖母はこう言う。

「どこの家の子だって、それなりに悩みがあるものよ。」

 そんなこと、冬実だってわかっている。

 けれど、よその子がイヴの夜、パパがサンタだとかママがサンタだとか言っている間、冬実は真っ暗な広いお寺で、テレビを観ながらすごしているのだ。よその子をうらやましく思ってしまうのも、しかたのないことではないだろうか?

 ——しかし。

「今年はあたしもサンタだもんね!」


 今年はいつものイヴとはちがう。

 今年からは、あたしが主役なんだ。

 だから冬実はにんまりと笑う。


   ☆


「雪くんチョコ食べる?」

「ぼくはいいよ。亜紀ちゃん食べて。」

「えー。雪くん食べなよ。」

「亜紀ちゃん食べてよ。」

 ぐふふふふ。

 雪雄と亜紀は、冬実のよっつ年下だから、小学一年生だ。

 まるまる三年も遠距離恋愛をつらぬいているカップルで、ふだんはまったく別のところで暮らしているくせに、顔をあわせればすぐに恋人同士になってしまう。出会って十日で「大きくなったら結婚しようね。」というアレをやり、ビニールテープの指輪で将来を誓い合った仲である。いつも手をつないで寺を探検しているので、大きいお姉さんたちには大人気のふたり組だ。

 そして今、亜紀がおもしろいものを見つけた。

 声をひそめて、

「雪雄隊員、あそこにサンタがおります。」

 亜紀が見つけたそのサンタは、にやにやしながらタンスの部屋を出てきたところで、まだこちらには気づいていない。廊下の冷えこみにおどろいたのか、マヌケな声で「さむっ。」とひとりごとを言った。

「プレゼントをうばいましょう。」

 雪雄がささやいた。

「プレゼント、持っていないようですが。」

「ポケットにでも、かくしているのでしょう。」

 えものを見つけたハンターになって、ふたりはニヤリとうなずきあう。


 着がえをしていた部屋から廊下に出ると、こごえるほどにさむかった。外が吹雪なのも原因だろうが、大きな家というのはだいたいさむいものなのだ。

 今夜の準備をするために、大人サンタのてつだいに行こうとしたとき、

「隊長っ! サボりのサンタを発見しましたぁ!」

「つかまえなさい、雪雄隊員つかまえなさい!」

 げ。

 長い廊下を、ちびっ子ギャングが一直線につっこんでくる。考える前に足がにげだした。このふたりがニタニタ笑っているときは、絶対にろくなことにならないのだ。

「隊長っ! サボりのサンタがにげます!」

「銃を! 銃を使いなさい!」

 逃げる冬実の頭に、何かが命中した。思わず「いったいなぁ!」とさけんでふりむき、

 そのひょうしに足がすべって、

 思いっきり体が宙に浮いて、

 まるでマンガかアニメのように、

 ——ころばなかった。

 だれかが間一髪、冬実の体を抱きとめていた。

「あ、おばあちゃん……。」

「おばあちゃん、それつかまえて!」

 亜紀の声に、「よしきた!」とかえして、祖母は冬実を軽く抱きしめる。

 そして、

「あら、あら。」

 うれしそうに目をほそめた。

「かわいいサンタさんだわねぇ。」

 なぜだか、急にはずかしくなった。冬実は祖母の胸からはなれてうつむく。

 祖母は、とんがりぼうしのポンポンから、つめたい床をふむつま先まで、じっくり冬実を点検した。

「よしよし。よくにあってる。……冬実、手をだしてごらん。」

 冬実がさしだした右手を、祖母はあたたかく両手でつつんだ。

「お誕生日おめでとう。これ、おばあちゃんからのプレゼントね。」

 右手をひらいてみる。

 にぎらされたものは、やわらかなフェルトをぬいあわせた、赤くて丸っこい、小さな星だった。

「お守りだよ。冬実が立派なサンタになれますように。」

「あ、ありがと。」

 はにかんだまま、冬実はお礼を言う。

「ふゆ姉ばっかりずるいー!」

 ちびっ子どもがさわぎ出した。ずるい、ずるいを連呼するふたりに、祖母はやさしく笑いかける。

「ふたりとも十一歳になったら、作ってあげるわよ。」

「えー、今がいい!」

「あたし、ハート形がいい!」

 祖母は、しかたがないねとつぶやいて、冬実に目だけであやまる。

「それじゃ、今日の夜、おばあちゃんといっしょに作ってみようか?」

 はぁーい!

 小さいふたりをだまらせておいて、祖母は冬実をまっすぐに見つめる。

「冬実。……大きくなったね。」

 冬実はその先を、聞きたくないような気がした。

 急に切なくなった。さっきまでの、はずむような気持ちはどこかに消えてしまって、今はただ、お別れ会の前のようにさみしい。

 ずっと、雪雄や亜紀のように、祖母にあまえていたかった。

 あれほど退屈だった、お寺の静かな夜がなつかしかった。

 けれど、もう十一歳なのだ。

「今日から冬実は一人前だ。しっかり、がんばっておいで。」

 祖母は冬実に笑いかける。

 冬実がどうにか笑ってみせると、祖母は力強くうなずいた。


 午前十一時。

 赤い服に身をつつんだ戦士たちが、寺の本堂に集まった。

 中にはもちろん冬実もいる。もうドキドキ緊張している。お堂の前の方で、これから祖父が「クリスマス開会式」のあいさつをするはずなのだが、前も後ろも背の高いおじさんたちにかこまれて、百四十センチの冬実には、背のびをしてもなんにも見えない。

 真っ赤な大人サンタの壁にかこまれていると、なんだか心ぼそくなってくるようで、冬実はポケットのお守りをにぎりしめた。

 祖母の言葉を思い出す、

「冬実が立派なサンタになれますように。」

 少し心がかるくなる。

 不意に、ぽん、と肩をたたかれた。

「ふーゆーちゃんっ!」

 ふり向いて冬実は笑顔になる、

「さきちゃんだ!」

 いとこで、みっつ年上の咲子だった。もちろんミニスカート。

「そっかふゆちゃん今年デビューか! どこ担当になった!?」

「えっと、長野。」

「ぎゃーうそぉー信じらんないーあたしとおんなじぃー!!」

「静かにしなさい!」

 親戚の、名前のわからないおじさんににらまれた。

「あ、スイマセン。」咲子はちょっと舌をだしてから、「よかったよかった、ふゆちゃんといっしょなんてもうカンゲキ。長野って広いけど、人はそんなに多くないからラクショーだよラクショー。わかんないことがあったらなんでも聞いてよね!」

 冬実の不安はいっぺんに消し飛んだ。

「あたし、はじめてだけどがんばる!!」

「きゃー!!」

「きゃー!!」

「うるさい!」

「あ、スイマセン。」ぺこり、「あのねふゆちゃん、もうお父さんとかお母さんとかに聞いてると思うけど、警察は敵だからね! 見つかったら絶対にげなきゃダメだからね!」

「はいっ!」

 冬実はやる気まんまんで答える。

「あたし去年は東京だったんだけどさ、もうすごかったよ! そこら中で待ちかまえてんの。何だっけ、住居……住居違法……? とにかくサンタって、そんな名前の法律に違反してるらしくて。」

 住居不法侵入罪、

「だから絶対立ち止まっちゃダメだよ! いるんだからね、むかしつかまった人!」

 冬実はとたんにこわくなった。

「え、あの、さきちゃん、」

 がたんがたん。

 お堂の前の方で、スピーカーが冬実の言葉をさえぎる。

「わっ、わわ、ふゆちゃんあとでね! 話はあとで!」

「静かにしなさい!」

「……だから、今やめようとしたのに。」

 咲子はひかえめに反発した。おじさんはまた何か言おうとしたようだったが、結局もぐもぐとつぶやいたきり沈黙した。

「えー、これから、クリスマス開会式をとりおこないます。まずは日本サンタクロース協会代表、六花瑞雪先生のお話です。」

 祖父の話がはじまる。


 あー、サンタのみなさんこんにちは。窓の外を見ればわかるとおり、本日はあいにくの猛吹雪ですが……あ、それは東北だけの話かな。ちょっと待って……ああ南の方は晴れなのか。まあアレですね、お天気にめぐまれた方もホワイトクリスマスの方もいるようですが、例年どおり二十四日をむかえることができました。まずはみなさんに感謝します。この一ヶ月、本当によくがんばっていただきました。みなさんのお力がなければ、クリスマスははじまらないのでございます。あー……あと、連絡事項。ご存じのとおり、プレゼントを買った資金は、おもちゃ屋さんのレシートを出してくだされば協会で立てかえますので、まだの方は出しておいてくださいね。……この後もいろいろと準備がございましょうから、年寄りのあいさつはこれくらいで。

 それでは、本年も最後まで、気をぬかずにまいりましょう!


 ぱちぱちぱちぱち。


 そして、汗と涙と血しぶき吹きあれる「命がけの六時間」は、その拍手を合図に始まったのである。


「トナカイの管理してたやつ出てこいタダじゃおかねえぞ!」「だれか長崎のプレゼント袋しらなーい? 一個たりないんだけど!」「リツ姉どこ行ったのー?」「ピザ屋さんですか? ……はい、宅配で。トマトスペシャルピザ、ぜんぶLサイズで六十枚。……いや、イタズラじゃなくて、」「このクッキーさしいれなんで食べてくださーい!」「ンなもん食ってるヒマねえよバカヤロー!!」「ねえシュウくん、笑顔。余裕のない時こそ笑顔。ね?」「冬実ちゃん長野の子どもリストどこやった?」「子どもリストってなんですか?」「ダメ、ミニスカはくなら赤いパンツ! きまってるの!」「リツ姉どこー?」「おもちゃ屋さんのポイントカード、十万円分たまりました!」「ひとつの店でたくさん買うな、あやしまれるぞ!」「おいおいこの配達ルート、これじゃこの家プレゼント二回とどくんじゃないの?」「プレゼントぶくろにケータイ落としたぁ!? あれ四次元につながってんのよ、もうそれ一生でてこないわよ一生!!」


 配達ルートが書きなおされ、つかみ合いのケンカが勃発し、何人かが吹雪の中、二十キロ先のデパートに買い出しに出かけた。冬実はどなりつけられることも二回や三回ではなかったが、ぼろぼろ泣きながら走り回って、電話をかけて、すっころんでおでこを打って、

 そしてついに、

「じゃあおばあちゃん、行ってきます。」

「冬実、応援してるよ。がんばれ!」

 午後四時四十五分、トナカイのひくソリに乗り、大空に駆けあがったのである。


   ☆


「……さっむーっ!!」

 だからジーパンはいてけって言われたのに。

 トナカイの手綱をひくのは咲子。冬実は後部座席でプレゼント袋にうもれていた。

 吹雪である。

 トナカイのソリはオープンカーもいいところで、当然エアコンなどついてはいない。冬実はようやく、持ってきた携帯カイロが気やすめ以外の何ものでもなかったことに気づく。すでに肩の上に、雪がつもりはじめている。

 なんだか、イヤな感じがした。

 ものすごくひどい目にあう気がした。

「いっくぞぉ————っ!!」

 咲子がほえて手綱をひく。

 急上昇、

「わ、ちょ、さきちゃん、」

「だいじょうぶ! シートベルトないけど、落ちて死んだ人は今までひとりもいないから!」

「だっ、だから、こわいって、ちょ、うわ、」

 強風にソリがあおられて、一瞬で十メートルも右に流された。胃の底がちぢみあがる。

「さきちゃんあぶないよ! これ絶対ヤバいよ!」

「ジェットコースターだと思え!!」

「む、むり、」

 ぐらり、

 ——落ちる、

「ぎゃ————————っ!!」

 風に乱されるトナカイの足取りを、咲子はむりやり押さえこもうとしながら、

「ふゆちゃ——こういうの——ダメなの?」

 冬実はもう口もきけない。

「あ、あぁ、あぅ、あぁ、」

「泣くな! 楽しめ!」

 混乱しきった頭で思う——こんなの楽しいもんか。もうイヤだからねダメだからね、次は怒るよ、次ゆれたらあたし帰っちゃうよ、

 ——どうやって?

「ミニスカサンタをナメるなぁ——っ!!」

 咲子が風にケンカを売る。そのさけびを、雪が圧倒的な白さでぬりつぶす。

 息がくるしい。暴風は冬実に呼吸さえゆるさない。酸素をもとめてあえぐ。なんでこんなことになってしまったのだろう。不意に目元になみだがにじむ。なみだは弱気な心を生む。このまま死んでしまうのかもしれない。——ポケットのお守りを思い出す。だいじょうぶだ、おばあちゃんが守ってくれる。冬実は右手でしっかりソリの端をつかむ。手ぶくろの左手で口をおおう。しっかりしろ、負けるな、死んでたまるか。ゆっくり息をしろ。ひとつ、……ふたつ、……みっつ、

「……い! おーい!」

 冬実は目を上げる。

 幻聴ではない。シルバーグレーの嵐の中に、火のように赤い後ろ姿がかいま見えた。

「おれの後ろにつけ!」

 自分が風の道を切り開くから、後についてこいと言っているのだ。

「あーりーがーとー!!」

 咲子がヤケクソのようにどなり、トナカイの鼻先をそちらにむける。

 風にあおられ、なぐりつけられ、しかし負けない、負けるもんか、ふたつのソリが、じりじりとにじりよっていく。冬実は恐怖をおなかの奥に押しこんで、プレゼントぶくろが落っこちないようにしっかり抱きしめていた。

 たどり着く、

 ——風がなくなる。

 うそのように呼吸が楽になった。

 咲子がぜいぜい言っている。

「だいじょうぶかぁ!?」

 助けてくれたサンタの声が、風に流れてきた。咲子が声を張る、

「うん助かった、ありがとう! おじさんだれ? お兄さん?」

「四十歳のノブヒロお兄さんだぁ!」

「あっ、……パパ……。」

「えっ、ふゆちゃんのパパなの!?」

「なぁーにぃー後ろにいるのは冬実なのかぁー!?」

「そうです!! これから長野に行きます!!」

「おれは石川だー!! しっかりやれよ冬実っ!!」

 視界いっぱいに舞う雪嵐、その向こうにかすかな朱色が差した。

「ふゆちゃん、もうちょっとで抜けるよ!」

「お前らオッサンに感謝しろよぉ!」

 咲子が絶叫する、

「おじちゃん大好きぃー!!」

 冬実も大声を出した。

「パパありがとうっ!!」


   ☆


 ソリは長野のイヴの夜に、すべるように忍びこんだ。

 時刻、午後五時三十分。

 すでに日は落ち、月はない。闇色の空に満天の星。上空三百メートルから見下ろす地上の街は宝石のように輝き、幹線道路がそれを結んでいた。

 ただ、静かでやわらかな風が吹いている。気温は低いはずだが、さっきまで地獄にいたせいで気にならなかった。長野が晴れていて本当によかった、と冬美は胸をなでおろす。ホワイトクリスマスなんて——考えただけでぞっとする。

「ふゆちゃん、郊外の方から行くよ。そっちの方が早くねむるから。」

 冬実は「子どもリスト」を取り出す。

 その年の、プレゼントを待っている子どものリストだ。いまねむっている子どもは青字、起きている子どもは赤字で光る。プレゼントをもらった子の名前は黒い字にもどるはずだった。

 どういうしくみになっているのかと言えば——これも、サンタだけのないしょである。


 咲子は中学校の屋上にトナカイを止めた。手綱をフェンスに手際よく結びつけ、

「じゃ、あたしが先にお手本見せたげる。」

 そう言ってほほえむ。

 闇の中、白く浮きあがるプレゼントぶくろを肩にかつぎ、ジャンプ一番フェンスに飛び乗った。くるりとふり返り、手をさしのべる。

「ふゆちゃん、飛んで!」

 冬実はたじろいだ。

「だいじょうぶ! あたしたち、今夜はサンタなんだから!」

 フェンスがとても高く見えた。

 ふらつきもせず立っている咲子が、自分の親類とはとても思えなかった。

 きっとあんな風にはできない。うまく飛べるはずがない。うまく飛べてもフェンスから落ちる。大けがをする。

 うつむく。

 ——そうだあたし、小さいころにジャングルジムから落ちて、

「時間はないよ! あたしが支えてあげるから!」

 泣きそうな顔をしているのが、自分でもわかる。冬実はいやいや腕時計を見る。午後五時三十五分。さっきからもう五分もたっていた。時間がない。今夜、この県にいるすべての子にプレゼントを配るのに。

 ——おばあちゃん、どうしよう。

 冬実はポケットの上から、祖母のお守りをおさえる。

 ——冬実が立派なサンタになれますように。

 高いフェンスを、こわごわ、上目づかいに見上げた。

「ほら、おいで!」

 やぶれかぶれに走り出す。

 ——今日はあたし、誕生日なんだから。

 地面をけった。


   ☆


「だーいじょうぶ、だいじょうぶ。今日はあたしらにできないことなんか、なーんにもないんだから。」

 咲子の言うことは、かなり適当だがまちがってはいない。

 十二月のある時期だけ、サンタの血を継ぐものは超人となるのだ。たった三百人以下で日本中にプレゼントを配れるのも、この力が関係していることはまちがいない。

 そして、おくびょうでたよりない冬実にも、その力が流れていることはたしかだった。

 冬実は咲子の手本どおり、民家の二階の窓にへばりつく。体が木の葉のように軽くて、自分でもとまどうほどだった。

 ——あたし今なら、指一本でもけんすいできそう。

 ガラスごしに、錠前にささやいた。

「おねがい、開いて。」

 カギは照れたようにくるんと回り、冬実はそうっと窓を開く。

 カーテンのすきまからのぞくと、ベッドにいたのは高校生くらいの少年だった。

 男の子だ。しかも年上だ。なんだか変な気がしたが、起こさないように窓わくをふみこえ、

 ——うっわぁスゴい部屋!

 さながら、大地震の後のようだった。

 何しろ床が見えない。マンガ雑誌がつみ上げられ、洋服が散乱し、——っていうか、なんでこの人は制服のまま寝てるんだろ?

 気にしている時間はなかった。冬実はプレゼントぶくろに声をかける。

「大江朝広さんのプレゼント、出して。」

 びっくりするほど重くて、大きな箱が出てきた。どうやらゲーム機のようだ。

 まくらのそばに箱をおこうとしたが、大きすぎてむりだった。しかたがないので机の上におき、なんだか朝広さんが寒そうだったので、布団を肩まで引き上げてあげた。できるだけものをふまないように気をつけながら窓のところにもどり、

「どう、ふゆちゃん、かんたんでしょ?」

 咲子の言葉に、満面の笑顔をかえした。


 トナカイのソリが走る。

「ねえ、さきちゃん。」

「どうかした?」

「このソリ、なんで飛ばないの?」

 ソリは、アスファルトの道路を走っていた。

「だってこわいしあぶないし。トナカイだって地面の方がなれてるでしょ?」

 さっきあれだけのムチャをやって、こわいなどとよく言えたものだ。

「でも、人に見られたら、」

「こんなにさむいのに起きてる人なんかいないわよ。へいきへいき。」

 たしかに。車道には一台の車もないし、通行人の影はない。

「飛んでる方が遠くからも見えるし、目立つもんだよ。」

 赤信号。止まれ。

 咲子が手綱をひく。


 街から街へとめぐりながら、ふたりはプレゼントを配った。

 ふしぎな夜だった。

 静けさをたたえた住宅街には、何か、やさしさのようなものが満ちていた。

 見しらぬ町の景色を、なつかしいと思った。公園のベンチを照らす街灯が、葉を落とした街路樹が、にぎやかに明かりのともるレストランが、民謡教室「たちばな」が、「車のトラブルご相談ください」が、置き去りにされた自転車が、冬実のしらない街の、冬実のしらない生活をいろどっていた。

 冬実は思う。

 ひとつひとつはよく似ている。冬実の町にだってある。けれど本当は、そのすべてが世界にひとつしかないもので、ありふれていると同時に、この上なくとうとい。

 見上げればきらめく、星の輝きのように。

 冬実は思い出す。

 毎朝学校に通う道。スーパーの前を通って、病院の角を曲がって——星から星へと飛び回るように、星と星とをつなぐように、日々の生活はあるのだった。

 街は冬実の目の前で、幾千の星座に変わる。

 トナカイのソリが走る。

 星座の街を駆け抜ける。


「ふゆちゃん、ねむい?」

 午前二時。

「……へいき。」

「寝たら死ぬかもよ。さむいし。」

「……ねむくない。」

「なら、まあいいんだけど。」

「……うー。」


「ふゆちゃん、起きてる?」

 午前二時五分。

「……うー。」

「寝たら死ぬんじゃないの。寒いし。」

「……あー。」

「わかってるなら、いいんだけど。」

「………。」


「ね、ふゆちゃん。……コーヒー、飲む?」

 午前二時七分。

「……ん……。」

「だいじょうぶ? ……まさか、ホントには死なないと思うけど、……っていうか、もうすぐ次の街に着——、」


 その時、だった。


『そこのトナカイ、路肩に寄せて止まりなさい!』

 一瞬、冬実の心臓が止まった。

 赤いランプが、サイレンが、拡声器でひび割れたかなきり声が、一気に冬実をたたき起こした。

「けけけ、警察っ!?」

『止まりなさい! 車両の確認をします!』

「え、なに、このソリ、ダメなの?」

「ナンバープレートつけてないからじゃない?」

 咲子はかなり不きげんな声だ。

「ホントうるさいわね警察って。あんな大声ださなくても聞こえるのに。」

 トナカイの足が宙をふんで、ソリは夜空に登りはじめる。

「さきちゃん! 前、ヘリコプター!」

 真正面から警察ヘリがせまってきた。

 ソリは右に旋回、

「ふゆちゃん! 逃げ切るよ、つかまっててね!」

 トナカイが足を速める。


 ソリは流星の速度に乗る。家並みが、尾をひく光になって流れてゆく。

「あー、もう、しょうがないや。この町はあと回し。」

 咲子は地図を見ながら、

「毎年、ちゃんと予定を立ててるのに、警察のせいでうまくいかないんだよね。」

「ねえ、さきちゃん。」冬実はぼうしが飛ばないようにおさえて、「今朝、言ってたでしょ。警察につかまったら、どうなっちゃうの?」

 咲子は少しきげんをなおしたらしい。

 ちょっと笑いをふくんだ声で、

「ね、ふゆちゃん、おもしろいこと教えてあげよっか。」

「なに?」

「ときどきいるのよ、ドジやってつかまる人。太田さんってわかる? ほら、ノリくんのパパ。すっごい太ってるおじさん。」

 わかる。冬実は興味しんしんにうなずく。

「聞いた話なんだけどね、あの人、六年前に一度、つかまったらしいの。」

「えっ……。」

 太田のおじさんは警察署につれていかれた。むっとだまりこんで、自分の名前もしゃべらずにいたらしい。取り調べの刑事が何を言っても、聞いているのかいないのか、しまいにはイビキをかきはじめた。

「まあ、夜どおしの配達のあとだったから、つかれてたんでしょうね。」

「それで、どうしたの?」

「二十五日の夕方、大人のサンタ三十人くらいで、警察署を襲撃してね……。」

 クリスマスの平和な夕暮れ、突然乱入した三十人のサンタに、署内は一瞬でパニックにおちいった。そのすきをついて、太田さんを救出してきたわけだ。

「たまにあることらしいよ。十年に一回くらい。警察もこりればいいのにね。」

 冬実はがまんできずに吹きだした。

 サイレンの音は、もうはるか後ろに遠のいていた。


 行き着いた先は、摩天楼と呼んでもいいような、高い高いビルの屋上だった。夜闇に輝くような街が、眼下に広がっていた。

 少し強めの風が何ともさむい。

「ここから先はいっしょにいけない。ふたりで手分けして配らないと、終わらないから。」

 咲子はプレゼントぶくろを肩にかついで、笑いかける。

「でも、ふゆちゃんなら平気でしょ。ぜんぶ終わったら、またここで落ちあおう。」

 次からは、ひとり。

 けれどもう、冬実はこわくなかった。

 この静かな夜に、ドキドキしていた。

「じゃ、さきちゃん、どっちが早く終わるか競争ね!」

 咲子はズルい。うんとも言わずに走りだした。

 冬実はあわててあとを追う。


   ☆


 冬実は夜闇をぬって走る。

 子どもリストの青い字を、どんどん黒に変えていった。まだ起きている子はねむるまであと回しにするつもりだったが、午前四時を回り、そんなのんきなことはしていられなくなったので、かまわずに乗りこむことにした。

 パソコンをいじっている子、テレビゲームをしている子。

 冬実の決めぜりふはこれだ。

「今すぐ寝ないとプレゼントあげないよ!」


 午前四時五十五分。

 こころなしか、空の色が変わってきた気がする。

「ごめんね、開いてくれる?」

 ねむたそうにカギが開く。

 まだカーテンの向こうは明かりがともっている。こんな時間まで起きているとは、相手はかなりのツワモノらしい。

 登場にはインパクトが必要だ。相手をびっくりさせて、こっちのペースで話を進める。

 冬実はその場で深呼吸。

 せーの、

「寝ない子だれだー!!」

 さけんで勢いよく窓をひらくと、そこには、冬実と同い年くらいの少女が、

「あ……。」

 ——泣いていた。

 思いがけないことに、冬実はぼうぜんと立ちすくむ。


   ☆


 二月三日まで、あと四十一日。

 第一志望の中学の受験日まで、あと四十一日だった。

 算数の図形の問題が、どうしてもどうしてもわからなくて、ひとりでぐずぐず泣いていたら、窓からサンタが飛びこんできた。


 最初は威勢がよかったのに、あとは無残なものだった。

「あ、あの、あ、」彼女はわたわたと手元の紙を見て、「水野、陽菜さん、ですよね?」

 ——なんなの、この子。

 二時間なやんだ図形の問題より、ずっと意味がわからなかった。しかし疑問はひとつも言葉にならず、陽菜はこっくりうなずく。

「あ、あのあのね、こういうの、本当はねむってるときにとどけなきゃいけないんだけど、でももう四時だし、もしかしたら、もうこのまま寝るつもりないんじゃないかなって、思って、だから、その、ええと、あ、——、」

 ひとつだけ、わかった。

 彼女も、陽菜と同じくらいに——もしかしたら陽菜以上に、混乱しているようだった。

 その混乱が、やみくもな勢いを生んで、少女はぎゅっと両目をつぶる。

 思いっきりうわずった肩で、見事なほどのへっぴり腰で、

「い、今すぐ寝なきゃプレゼントあげないよ!」

 ——何のおどしにもならなかった。

 チワワが去勢を張っているようであった。

 少女は自分の失敗を感じたらしく、大いになさけない顔をした。消えいりそうな声でつぶやく、

「あ、あの、あたし、サンタ……。」

 ——なんなの、この子。

「……と、とりあえず、寝て!」

「でも、あたし、勉強しなきゃ……。」

「え、あ、勉強?」

「——なんでもない。」

 陽菜はすばやく言ってベッドにもぐり込む。

 寝ろと言われたことが、なんだかむしょうにうれしかった。


 少女は名前を、佐伯冬実といった。

「ないしょにしといてね、あたしの名前。」

 冬実は大きなふくろから、リボンがかかった小さな包みを取り出す。

 そして、にんまりと笑った。

「ほしい?」

「ほしい。」

「でもなー、夜ふかしする子にはあげちゃいけないきまりなんだよなー。どうしよっかなー。」

「だって、あたし勉強してたんだもん。」

「あ、そっか。勉強、いいの?」

「うん。もういいや、わかんないから。明日、先生に聞いてみる。」

 冬実は顔をゆるませて、陽菜のまくら元に包みをおく。

「あたしね、実は今日、——あ、もうきのうなのか——きのう、誕生日だったんだ。」

「え、おめでとう。」

 陽菜の言葉に彼女ははにかむ。

「ありがと。……うちの家族、イヴはみんないそがしくてね。毎年、かまってもらえないのがさみしかった。きのうもぜんぜんかまってもらえなかった。」

 返事をもとめているわけでは、ないようだった。

 ひとりごとのようなつぶやきを、陽菜はふとんの中で聞く。

「だけど、もういいんだ。……プレゼントって、もらうのもうれしいけど、あげるのもうれしいね。」

 冬実は立ちあがる。

「じゃ、そろそろ、あたし、行くね。」

「ちょ、ちょっと待って!」

 このまま帰してはいけない気がした。

「待ってて、そこにいてね!」

 陽菜はベッドから飛び起きる。机のとなりにおいてあるかごをひっぱり出して、

「これ! あたしが作ったんだけど、よかったら、その、何個でも持ってっていいから!」

「え、そんな、」

 陽菜は手芸が趣味だった。作ったマフラーや手ぶくろが、かごには山ほど入っているのだ。

「誕生日でしょ! もうきのうだけど、でも誕生日なんでしょ!」

 冬実はとまどった顔をする。

「……ほんとに、もらっていいの?」

 いいの、いいの。

「何個でも?」

 いいの、いいの。

「じゃあ、——これと、これ。」

 色ちがいのふたつのマフラーだった。

 オフホワイトに、赤で模様をいれたのと、水色で模様をいれたもの。

「ひとつは、あたしのぶん。」

 そう言って、冬実は水色の方を首にまいてみせる。全身赤ずくめの服装に、それはいいアクセントになった。

「——もうひとつは?」

「プレゼント、ひとつたりなかったんだ。」

 それはいい、と陽菜は思う。

 自分の作ったマフラーが、サンタクロースのプレゼントになるなんて。

 冬実は窓の前で、少し笑って手をふる。

「ありがとね。じゃあ、おやすみ!」

 陽菜も笑ってみせた。

「行ってらっしゃい。」

 時刻は、午前五時二分。

 サンタが出ていった窓から、十二月の澄んだ空気が入ってきた。


   ☆


 鳥がさえずりはじめた。

 陽菜にもらったマフラーは、こごえるような気温から冬実を守ってくれた。午前五時すぎの孤独がこわい時は、ポケットのお守りを想った。

 今ごろ、祖母は雪雄と亜紀によりそって、どんな夢を見ているだろう。

 摩天楼の屋上。

 トナカイの鼻をなでながら、冬実は夜明けを待つ。

 ——おばあちゃん。あたし、十一歳になってよかったよ。

 去年までの、留守番をしていたころの冬実は、クリスマスイヴがこんなにすてきな夜だったなんてしらなかった。

 暗闇の空は藍色に。コバルトの街は群青に。

 そして少しずつ、少しずつ、夜は白んでゆく。


「あ、あたしの負けか……。」

 咲子は少しおくれて帰ってきた。

「まったくいいかげんにしてほしいわよね、イヴの夜を恋人とすごすってやつ。ずーっと寝ないでいちゃいちゃしてるから、乱入してムードぶっこわしてやった。」

 トナカイが、鼻息で少し笑った。


 サンタ寺は、静かな早朝にたたずんで、ふたりの帰りをじっと待っていた。

 すでに他のサンタたちが帰りつつあるようで、ソリから解かれたトナカイの群れが、雪に足あとをつけていた。

「今日の、ふわぁ……、」咲子は言いかけて大きなあくびをする。「……今日の夕方からパーティーやるから、それまで寝よ。」

「あ、あたし、トイレ行ってから寝る。先、行ってて。」

 よほどねむたかったのだろう。咲子はちょっと手をあげただけで、よろよろと寝室に歩いていった。


 そして冬実は、胸にひとつのたくらみを抱いて、忍び足で歩きだす。


   ☆


 ねむい。

「いたぁ! 亜紀ちゃん、いたよ!」

 すごくねむい。

「起きろぉー!」

 本当にねむい。

「おばあちゃん、こっち! 早く!」

 起きたら多分、あたし死ぬ。

 なのに、

 雪雄が肩をゆすぶる。亜紀が馬乗りになる。冬実はふとんの中でうめき声をあげる。

 ——かんべんしてください。

「むむっ、こいつ、起きません!」

「死んでいるのでしょうか! 死んでいるのでしょうか!」

「ああ、ちょっと雪ちゃん亜紀ちゃん、むりやり起こすことないのよ、冬実だってつかれてるでしょうに。」

 祖母の声を聞きつけて、冬実は一ミリだけ目をひらいた。

「どうしたの、おばあちゃん。」

 祖母はおろおろした。

「あ、ごめんね、起こしちゃって。いいの、寝てていいのよ。」

 亜紀がかまわずにさけぶ。

「おばあちゃんにマフラーくれた人、さがしてるの!」

 雪雄が続いた。

「ふゆ姉なんでしょ?」

 ——だめだ、笑うな。

 絶対に笑ってはいけない。絶対に気づかれてはいけない。

 サンタとは、そういうものなのだ。

 だから冬実はねむそうな顔を作って答える、

「あたし、しらない。」

 ふとんに顔をうずめて、冬実はにんまりと笑う。


 他の人にはないしょである。だからここだけの話にしておいてほしい。

 冬実は、子どものサンタなのだ。

 2010年に書いたもので、まともに完成したものでは初めての作品です。

 時刻とか地名とかが非常に具体的ですが、特に理由はありません。

 恋愛的要素を徹底的に排除した結果、登場人物が女の子ばかりになってしまった思い出……。

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[良い点] 情景描写がとてもよく表現されていて良かった [気になる点] なし [一言] 他に小説書いていませんか?
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