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第八話:デッド・パケット・死線上のクエリ

 六一〇号室の異変を察知し、博雅と泰臣、および雅も廊下にログインしてきた。雅は部屋の中を見るなり「……嘘、そんな……」と口を押さえて崩れ落ちる。だが、その直後、彼女の瞳が恐怖に大きく見開かれた。


「……これ、行方不明の四人のうちの一人や……」


 雅の震える声が、廊下の冷え切った空気を切り裂いた。その一言に、俺、道満、および博雅の全員が文字通り息を呑む。

 さっき姫路駅前で雅ちゃんから捜索対象としてログを聞いたばかりの男が、今、俺たちの部屋のすぐ隣で冷たくなっている。この異常な「再配置レンダリング」の速度に、背筋が凍るようなノイズが走った。


 部屋の中央に転がっている男は、手にはカッターナイフが握られ、喉元は深く裂けている。表向きのログは「自殺」だ。だが、俺たちの目……『掃除屋』の視界には、その傷口からどす黒い霧のようなあざが、不気味なノイズとして立ち上っているのがはっきりと見えた。


「……やりたかないねー、ホンマによー。……博雅、警察に接続コールしろ。……ただし、『普通の自殺』として処理されるように、余計なパケットは混ぜんなよ」


「……分かっとる。……くそ、せっかくの姫路の夜が、一気に血生臭いログで埋まったわ」


 博雅が渋い顔で廊下へ出ると同時に、親父の泰臣は腰を抜かした従業員をハック(聞き取り)し始めていた。


「ええか、落ち着いて思い出せ。この男、何か変わったことはなかったか?」


「……は、はい。……ついさっき、このお客様からお電話があって……『部屋着がないから、今すぐ持ってきてくれ』って……。それで届けに来たら、もう……」


 泰臣の目が鋭く光る。行方不明だったはずの男が、このタイミングで部屋の主として現れ、あたかも「たった今」自殺したかのように偽装されている。


「……部屋着を頼んだ電話の主は、こいつじゃねーな。犯人が『死体を見つけさせるため』に従業員を呼び出したってところか。……俺たちのすぐ隣で、わざわざログを残しやがった」


 明らかに普通のホモ・サピエンスの仕業じゃねー。何らかの権限スキルを持ったクラッカーが、死体をパッチとして利用して、俺たちの注意をここに引きつけたんだ。


「……道満。お前は雅ちゃんをガードしてろ」


 俺は「もりかす」姿の道満に背を向け、こっそりと【太裳タイジョウ:認識阻害】を展開。廊下からの観測ログからこの一角を座標ごと隠蔽し、自身の影の中に潜む【玄武ゲンブ】に問いを投げた。


「……おい、玄武。お前の知略で、この事件はどう見える? ただの不運なバグか?」


 影の底から、喉に砂を噛んだような、だが温かみすら感じる枯れた声が脳内に響く。


『……やれやれ、主殿。相変わらず騒々しい夜にログインしおる。……この死体、中身は空っぽじゃ。首の痣は、魂を根こそぎ吸い出された跡。……情報の強制抽出スクレイピングというやつかのう。行方不明になっておった四人のうちの一人が、こうして隣の部屋に「再配置レンダリング」された……。ここは敵の「踏み台」に過ぎんわい』


「……やっぱりか。やりたかないねー、ホンマによー」


『……警告しておこう。敵は「内側」に潜んでおる。主殿、己の氣の巡りを信じるがよい。……若者らしい感情のノイズもほどほどにな。お前がバグっては元も子もないわい。フォフォフォ』


 玄武はそう言い残し、深い影のアーカイブへと沈んでいった。


「……晴明。……この人の手、見て。何か持っとる……」


 道満が、もりかすの袖を震わせながら死体の手を指差す。死体が握りしめていたのは、カッターナイフだけじゃなかった。その指の間には、古い和紙の切れ端――本来そこにあるはずのない、姫路城の「非公開エリアの入館証」のようなものが食い込んでいた。


「……こいつ、行方不明になってる間に城の『キー』に作り替えられたんだわ。そして役目を終えて、俺たちの隣の部屋にゴミみたいに捨てられた(デリートされた)……」


 泰臣が死体の服をまさぐり、一枚の汚れたメモを抜き出した。

「晴明、これを見ろ。……こいつが消える前に残したログかもしれねーぞ」


 そこには、震える文字で『9-9-9-1』という謎の数列が刻まれていた。


 なぁ、あんたならどう思う?

 一線を越えたばかりの夜、隣室に現れた行方不明者の死体。

 

「……親父。玄武が言うには、これ『内側』からのハックらしいぞ。……城の中、もうボロボロに書き換えられてるかもしれねーわ。……博雅、道満。この『9-9-9-1』ってパッチの意味、城の中で直接解読するしかないわ」


神戸弁に変更したよ。

いらないところは削ぎ落として肉付けしたよ

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