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煙の行方  作者: てんてん
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第十三章   沈黙に裁かれ

今日は株主総会

大内の妻の逮捕から始まって今は大内の自殺で連日報道されている渦中だ。


村瀬は、早く過ぎ去ってほしい、それしか思っていなかった。


翌日、株主総会を踏まえて上層部を交えた幹部会議が開かれた。

玲奈のインタビューがネット上で非難を受け

苦情の電話が途切れず鳴る。


そんな中、幹部会議が開かれたのだ。

会議室は静寂に包まれていた。

加藤常務の鋭い視線が村瀬を射抜く。


「村瀬君、なぜ大内君に長期休暇を勧めた?」

声は低く、怒りを抑えきれない。


村瀬は喉を鳴らし、答えに詰まる。

「はい......彼に、重大な過失があったと判断したためです」


「重大な過失?」

加藤が顔をしかめる。


「経理部長、説明を頼む」


経理部長は顔を曇らせ、ゆっくり口を開いた。

「大内君が長期休暇を取るような過失はありません。そういった指示は承知していません」


会議室に凍りつく空気が流れる。

加藤が冷たく言い放った。


「村瀬君、君の言う“重大な過失”とは一体何だ?」


まずいことになった.......

村瀬の喉が粘りつき声が出づらくなっていった。


「我々は今、全くもって君の言ってる事が理解出来ないんだよ。我々の理解力が足りないのかね?」

会議室に静けさの恐怖がのしかかる。


どう切り抜けられるか...

村瀬は焦りに焦っていた。

「いえ、私の伝え方が良くなかったです。」


「なら、良く伝えてくれ」

怒りを抑えながら加藤は低く言った。


その時、棚橋が資料を持って立ち上がった。

「加藤常務、この資料をご覧ください」

配った資料に、思わず沈黙が広がる。


加藤は絞り出すように

「棚橋君、これは何かね?」尋ねた。


「はい、大内君へ長期休暇を言い渡すきっかけとなった可能性がある資料です。」

「とある支払い申請の記録です」

「第一・第二承認者は営業一課の高橋部長代行、経理承認は大内君となっています」

「ですが、承認日当時は高橋部長代行は休職中で、ログイン権限も無効になっていました」

「つまり、不可能なはずの承認が、なされていたのです」

「しかも、入金が完了すると申請履歴と承認ログが自動で消えるように改ざんされていたことが、今回の調査で判明しました」


会議室に低いざわめきが広がった。


加藤常務が低く、しかし鋭い声で言った。


「つまり……虚偽の承認と、証拠隠滅の仕掛け、ということか?」


棚橋は頷いた。

「はい。システム部として調査を進めましたが、単独では限界がありました。調査部・法務部と連携して全件調べた結果、複数件の類似申請が確認されました」


経理部長が顔を青ざめさせ、重い声を出した。


「大内君が関わった記録は、形式上はありますが、彼自身が最終承認を本当に行ったかは、システム的にも、手元のログにも裏付けが取れていません」


加藤の目が村瀬を射抜いた。


「村瀬君。君はこの不正の兆候を知った上で、大内君を“処分”したのか?」


村瀬の喉がゴクリと鳴った。

どう答えるべきか.....


「何故、黙ってる!答えんか!」


村瀬は、心臓を指でつままれているような圧に耐えながら、口を開いた。

「い、いえ……私は……念のための確認を……」


加藤は机をゆっくり叩いた。


コツン コツン コツン コツンッ!!!


「君の“確認”で、人ひとりが命を絶った。

これは社内調査だけで済む話ではないぞ」

「君は人事部だ。なぜ、監査部でも調査部でも無い人間が確認しなければならないと思う情報を知ったんだ」


「加藤常務、ここからは調査部の井口よりお話を進めさせていただいて、宜しいでしょうか?」

「うむ、続けたまえ」


井口が静かにうなずき、手元の資料に目を落とした。

その内容はすでに会議室に配布されており、

彼の報告が終わる頃には、会議室全体が怒気と沈黙に包まれていた。




その日の夕方、棚橋は喫煙所に居た。


村瀬が高橋と結託し違法行為を行った。

篠田という男を使ってシステムの改ざんを行った。

その日のうちに、村瀬と高橋は連行された。

篠田も遅れて連行された。


「終わった...」

心地良い疲労感を堪能していると


「お疲れさまです。今日はライターをお持ちなんですね」

「あははは、その節は助かりました。ありがとうございます。お、派遣さんなんですね?」

棚橋はゆきのストラップを見て言った。

「はい、経理部でお世話になっています。」

「経理部か...,大内君の事があったり大変な騒ぎだったんじゃない?」

「私は派遣なので口に出して何かを言うことはないですけど」

「けど?」

棚橋は微笑みながら頷いた。


「大内さんは、どちらかと言うとコミュニケーションが下手な方でした。ですが挨拶をすると声には出さずとも軽く会釈をする方でした。」

「感情に左右されず誰にでも同じ態度で接し、私には出来ないことだと思って見てました」


「大内君が聞いたら泣いて喜ぶんじゃないかな」


棚橋は微笑みながらゆきの次の言葉を待った。


ゆきは心の中で

ここで吐き出してしまおうと何故か思った。


「私、残業中に違和感のある申請処理済の書類を見つけて。その数日後、大内さんは呼び出され、自ら命を絶たれました」

「私は派遣という立場を気にして、声を上げられなかったんです」

「あのとき、もし、経理部長に伝えていたら大内さんの死を防げたのではないかと......」

「もう、大内さんを見かけることも出来ません......」

「私が、私さえ行動に移していたら......」

ゆきは涙を見られまいと俯いたまま、黙り込んだ。


棚橋も、それ以上何も言わなかった。

タバコの煙だけが、静かに夜の風に消えていった。


棚橋は深くタバコを吸い、吐き出した。


「僕より早く違和感を見つけ出した人がいたんだ。」


「え?」

赤い鼻をしたゆきが棚橋を見た。


「大丈夫ですよ、今日、僕や調査部、法務部が大内くんの仇を打ちましたから」

「夜のニュースか明日の朝にはニュースが出るんじゃないかな。いろんな事が明るみになると思いますよ。」

「ほんとですか......ありがとうございます。」

堪えていた涙が、瞬きをした瞬間溢れ出した。


テレビが報じ

社内には静かな拍手が広がった。


大内さん、遅くなりましたが全てが明るみになりました。

大内さんはやはりルールを守る人でしたね。


ゆきは心で両手を合わせた。

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