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煙の行方  作者: てんてん
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第十二章   悪を孕んだ正義

村瀬は篠田のLINEを見て思案に暮れた。

先ずは短く返信して様子を探ることにした。


「急にどうした?」


「あのう、急な入り用が......」


ほう。

村瀬は片頬だけ緩め狩りを始めた。

「同郷のよしみだ。幾ら必要なんだ?俺が用立てよう。」

どう出る篠田。


「いえ、お借りするのは違うと考えています。」


篠田よ、お前は100点だ。

村瀬は確信した。

もはや篠田には逃げ道はないと。

ここで篠田に借りと言う名の首輪を付けてやる。


「お前は可愛い後輩だ。俺が全力で守れることは守る。先ずは入り用額を教えてくれ。」

「計画を手伝って自分でお金を作ります。」

村瀬の喉の奥がかすかに震えた。笑いを噛み殺すように。

「今日、明日には現金化される話では無い。後々、返して貰えばいい。俺に甘えろ。いくらだ?」

「30〜40万円ほどです」

金を貸してしまえば義理を生み、義理は裏切りを封じる。

そして裏切らない人間は、使いやすい人間だ。

なにより潰す時は遠慮なく消せる。


「明日の夜、時間を作ってくれ」

「ありがとうございます」

一拍おいて、篠田は唇を噛んだ。

言葉とは裏腹に、その声音はどこか震えていた。

が、直ぐに思い直した。

「1〜2回手伝って抜ければいい」

引き返せることなど無いことを知らずにいた。



数日後、3人は密かに集まった。

計画を練り実行に移す。


「経理部の承認が必要ですが、どうしますか?」

篠田がキーボードを叩きながら問う。


「ちょうどいい人材が居る。マーカーしてある。そいつのコードを使えばいい」

大内の名前にマーカーをつけたコード表を渡した。

村瀬は会社にバレそうになったら大内を呼んで適当な理由を付けて休職か退職させてしまっても構わない人材だと考えていた。

なすりつけるのに最適な人材だと大内を軽く見ていた。

濡れ衣なんぞ着せても罪の意識すら持たない人材だ。経理部自体利益の産まない部署。

派遣を使った方が安上がりだ。

リストラついでで丁度いい。


「この人のコードで本当に大丈夫なんですね?」

自分達の悪事に使われる大内を気の毒に思いながら篠田は村瀬に確認をした。


「数時間で消えるんだろ?誰のコードを使っても同じだろう。」

村瀬とって大内の名前もコードも、ただの記号だった。


高橋がノートパソコンの画面をスクロールしながら言う。

「コードの再構成は終わった。これで帳簿上は完璧に実在する会社になる。月末の数時間だけ、あたかも実態のある取引に見せかけられる」


「資金の流れも小分けにすれば、監査も逃げられるはずです。何度か試験的に送金してみましょう」


高橋と村瀬が互いを見やり、黙って頷く。


村瀬は背筋を伸ばし、目を細めて微笑む。

「よし、やってみろ」


3人は誰にも気付かれないように一度の送金は少額にすると決めていた。

それを月に何度かやる。


数度の送金を経て、3人は手応えを掴んだ。


篠田は村瀬への借入を返し、久しぶりに家族と落ち着いた夕食を囲んだ。

息子たちのランドセルを通販サイトで選びながら、これまでの自分なら選ばなかった高級モデルを見ていた。

リビングでは妻がテレビを見て笑っていた。息子たちは兄弟げんかをしながら、絵本を引っ張り合っている。そんな光景を背中で感じながら、篠田は迷いなく購入ボタンを押した。

罪悪感と心地よさが交錯する中、彼の心にほんの少しだけ余裕が生まれていた。



一方、高橋はとうてい納得などしていなかった。

「まだ足りない。復讐にもなっていない。契約のためにどれだけ頭を下げてきたと思っているんだ。」

「俺が頭を下げた分だけ、会社は肥えていったんだろ。これくらいで俺が報われる筈もない。」

「今度は会社が俺に頭を下げ助けてくれと頼む番だ。それまで俺は経理部で誰でも出来るファイリングをし続けてやる。営業に直ぐ戻って助けてなんぞやらない」

会社をここまで引っ張ってきたのは自分だという自負があった。だが、その貢献は報われなかった。

高橋はその事実をただ許せなかった。

端金などに興味は無く大金を欲していた。

上層部の泣きっ面を、いつか指さして笑ってやりたかった。


高橋の視界は恨み辛みで塞がれていた。



村瀬は愛人の玲奈に金を注ぎ込み、満足気に煙草の煙を吐いた。

唯奈の鬱陶しさに比べ、玲奈は何も求めず愛嬌だけを振りまく。

静香はいつしか図太くなり、愛情は冷めていた。



誰にも気付かれず、3人は長らく蜜の味を堪能した。


彼等の背後には、静かに時限爆弾が鳴り始めていることを知らずに。



棚橋はモニターの前で腕組みをして唸っていた。

「ん?月末の一括振込、またコードが飛んでるのか......」

かすかな違和感。

長年の勘が、何かのズレを知らせていた。

でもそれは、まだ形にならない靄のようなものだった。


そう思った瞬間には別の業務に追われ、疑念を持ちながら目の前の仕事に着手していた。

よぎる疑念。

「だめだ......一旦、落ち着こう。」

喫煙所へ向かった。


「あ、あれ?」

胸ポケットやズボンのポケットに手をやるがライターが見つからない。


「あー」心の中で舌打ちをする。


その時、若い女性が

「よろしかったらどうぞ」とライターを差し出した。


「すみません」

「いいえ」


それは棚橋とゆきが初めて出会う瞬間だった。


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