第6話:正義を名乗る者たち
煙は風に乗って流れていた。
焦げた木の匂い。
焼けた家畜の臭い。
嫌な慣れだ。
「急ぐぞ」
俺の声に、カイルは頷く。
「はい、先生」
「状況確認を最優先とせよ。突撃は最後だ」
シオンが冷静に告げる。
「はい、先生」
よし。
飛び出さない。
少しずつだが、学んでいる。
丘を越えると、村が見えた。
……いや。
“村だった”場所だ。
家屋は半壊。
広場には村人が跪いている。
その前に立つのは、銀の鎧を着た十数名。
旗には金色の紋章。
「聖堂騎士団か」
俺は舌打ちする。
「聖印があるな」
シオンが目を細める。
「某の知る限り、あれは“浄化”を掲げる部隊だ」
「浄化?」
カイルが低く問う。
騎士の一人が叫ぶ。
「魔に染まりし穢れを断つ! これぞ正義!」
村人の男が縛られている。
「違う! 俺はただ森で――」
言い終わる前に蹴り飛ばされる。
カイルの拳が震えた。
「先生」
「まだだ」
シオンの声は冷たい。
「状況が見えぬ」
俺は周囲を見る。
確かに村の裏手の森は黒く焦げている。
魔物の死骸もある。
だが――
やりすぎだ。
「この村は魔物と通じていた疑いがある!」
騎士が高らかに宣言する。
「ゆえに粛清する!」
その瞬間。
カイルの足が一歩出た。
止まれ。
俺は反射で肩を掴む。
「離してください」
声が低い。
危うい。
「まだだ」
「でも!」
「でもじゃねぇ」
俺は低く言う。
「お前が今行けば、あいつらの思う壺だ」
カイルの呼吸が荒い。
「正義を名乗る連中ほど厄介なもんはねぇ」
「見極めよ」
シオンが言う。
「怒りで動けば、同じ穴の狢だ」
縛られた男の子供が泣いている。
「父ちゃんを離せ!」
騎士が剣を抜く。
「魔に染まりし血は断つ!」
カイルの目が見開かれた。
限界だ。
俺は一歩前に出る。
「待て」
低い声で割って入る。
騎士たちが振り向く。
「何者だ」
「通りすがりの冒険者だ」
盾を背負ったまま、俺は歩く。
「事情を聞かせろ」
「部外者は引け」
「村焼いて事情もクソもあるか」
空気が張り詰める。
カイルは後ろ。
歯を食いしばっている。
いい。
まだ耐えている。
「その男は森で魔物と接触していた」
騎士が言う。
「証拠は」
「森が焼けた」
「それは魔物討伐の痕だろ」
「疑わしきは罰する」
来たな。
俺はため息を吐く。
「それを正義って言うのか?」
「神の御名のもとに」
「便利な言葉だな」
騎士が剣を向ける。
「貴様、異端か」
カイルの呼吸が荒くなる。
今だ。
俺は一歩下がり、カイルを見る。
「どうする」
試す。
カイルは震える。
だが、前には出ない。
「……証拠を出してください」
声は震えているが、叫んでいない。
「本当に魔に染まっているなら、僕が斬ります」
村人が息を呑む。
騎士が笑う。
「小僧が勇者気取りか」
「気取りじゃない」
カイルは言う。
「守るために剣を持っています」
シオンが一歩前に出る。
「某が保証しよう。その者に魔の気配はない」
空気が変わる。
騎士たちが構える。
「聖堂騎士団に楯突くか」
俺は盾を地面に立てる。
「楯突くんじゃねぇ」
鈍い音。
「間に立つだけだ」
守る。
怒りでもなく。
理屈でもなく。
ただ間に立つ。
それが俺のやり方だ。
騎士が号令をかける。
「構え!」
剣が一斉に向けられる。
カイルの足が動く。
だが、俺の背中を見て止まる。
いいぞ。
戻ってこい。
「先生」
「今は盾を信じよ」
シオンの声。
俺は小さく笑う。
「面倒事に巻き込まれちまったみたいだな」
剣が振り下ろされる。
――ガァン!!
火花が散る。
盾が受け止める。
重い。
だが折れない。
その瞬間。
盾の中央。
かすかに。
本当に、かすかに。
緑の紋が灯った。
カイルの目が見開かれる。
「……兄さん?」
風が吹いた。
ほんの一瞬。
温かな気配。
俺は知らない。
だが、カイルは知っている。
迷いが消えた目。
「先生、僕は」
「冷静に斬れ」
「はい、先生」
踏み出す。
怒りではない。
守るための一歩。
さて。
正義を名乗る連中に。
本物を見せてやるか。
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