第4話:正義は、時に刃になる
世直しの旅なんて大層な言葉だが、実際は地味な依頼の積み重ねだ。
盗賊退治、揉め事の仲裁、護衛任務。
その日も、ただの揉め事のはずだった。
「村の連中が税を払わねぇんだよ!」
街道沿いの小村。
徴税役の男が怒鳴っている。
「払えないんです……今年は作物が――」
震える村長。
よくある話だ。
俺は壁を背に状況を見る。
カイルは一歩前に出た。
「話を整理しましょう」
落ち着いた声だ。
勇者らしい。
徴税役は鼻で笑う。
「部外者は引っ込んでろ」
その瞬間。
村の子供が転んだ。
男に突き飛ばされたのだ。
乾いた音がした。
カイルの空気が変わる。
「今、子供を」
低い声。
「躾だ」
「違う」
カイルが踏み込む。
速い。
先生の教えを忠実に守った、無駄のない動き。
だが――速すぎる。
「待て、カイル」
俺の声は届かない。
徴税役の腕を取り、地面に叩きつける。
骨は折っていない。
だが、完全に制圧だ。
「二度と手を出さないでください」
静かな怒り。
村人たちは安堵する。
だが徴税役の部下が叫ぶ。
「公務執行妨害だぞ!」
空気が凍る。
カイルは迷わない。
「不当な暴力は止める。それが勇者の役目です」
――出た。
危うい正義だ。
「カイル」
シオンが前に出る。
「剣を収めよ」
「ですが、先生」
「力の使い所を誤るな」
厳しい声。
「正しさだけでは世は治まらぬ」
カイルの瞳が揺れる。
「じゃあ、見ているだけが正解なんですか」
子供を見る。
拳を握る。
「守れるのに、守らないのは間違いだ」
その言葉は真っ直ぐすぎる。
だから折れる。
「私は止めよと言った」
シオンの声が冷える。
「従えぬか」
空気が張り詰める。
カイルは一瞬、躊躇した。
だが。
「……すみません、先生。でも僕は」
踏み出す。
その瞬間。
俺は前に出た。
タワーシールドを地面に打ち込む。
鈍い音が響く。
「そこまでだ」
カイルの前に立つ。
「ダグラスさん?」
「正義はな、便利な言葉だ」
俺は徴税役を見る。
「だがな、それを振り回しゃあ、ただの暴力だ」
「俺は暴力なんて」
「今からなるところだ」
カイルが息を呑む。
「守るってのはな、殴ることじゃねぇ」
盾越しに、あいつを見る。
「殴らせねぇことだ」
沈黙。
徴税役が呻く。
俺は低く言う。
「話をまとめる。税は分割。暴力はなし。文句あるか」
威圧ではない。
覚悟だ。
しばらくして、徴税役は舌打ちしながら引いた。
村は守られた。
だが。
夜。
焚き火の前で、カイルは俯いていた。
「先生、僕は……間違えましたか」
「間違いではない」
シオンは答える。
「だが未熟だ」
静かだが、温度はある。
「怒りで剣を振るえば、いずれ己を斬る」
「……はい、先生」
そして、あいつは俺を見る。
「ダグラスさん」
「なんだ」
「止めてくれて、ありがとうございます」
素直だ。
だから危うい。
「礼はいらねぇ」
俺は焚き火に薪をくべる。
「面倒事に巻き込まれちまっただけだ」
カイルが小さく笑う。
だが、あいつはまだ知らない。
正義は、甘い。
だが依存すれば毒になる。
俺の役目は――
あいつが毒に溺れる前に、盾になることだ。
面倒だ。
本当に面倒だ。
だが。
それでもいいと思っちまった俺がいる。
……まったく。
この先どうなる事やら。
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