第2話:巣
巣討伐編です。
ダグラス視点で進みます。
飛龍の巣は、灰色の岩山の中腹にある。
何度も来た場所だ。
焦げた岩肌を見るたび、俺はため息をつく。
「ダグラス殿。入口はあそこか」
背後から、凛とした声。
シオンだ。
銀の鎧を鳴らしながら、真っ直ぐ巣穴を見据えている。
「ああ。だが油断するな。中は狭い」
「承知している。飛龍は空にあってこそ脅威。地に堕ちたならば、ただの獣よ」
言い切る声音は静かだが、油断はない。
隣でカイルが剣を抜いた。
「僕が先に行きます」
「待て、カイル」
シオンが制する。
「勇むな。先陣は誉れだが、未熟な突撃は愚かである」
「でも、早く終わらせないと」
「焦るな。守るための戦いに焦燥は不要だ」
その声は厳しい。
だが、突き放してはいない。
カイルは一瞬だけ唇を噛み、頷いた。
「……はい」
巣穴に入る。
熱気と腐臭が混ざり合い、肺にまとわりつく。
足元に転がる卵殻。
焦げた布。
そして――
小さな骨。
子供のものだ。
カイルの呼吸が止まる。
「……」
剣を握る手が震えた。
「見るな」
俺は低く言った。
だがカイルは目を逸らさない。
「守れなかった……」
その呟きは、自分に向けられている。
その瞬間、奥から翼の音。
飛龍が三体、滑るように現れた。
「来るぞ!」
俺が盾を構えるより早く、カイルが踏み込む。
速い。
一体の喉を斬り裂き、二体目の翼を断つ。
だが動きが荒い。
怒りに任せた剣だ。
「カイル! 足元を見よ!」
シオンの声が飛ぶ。
三体目が火を吐いた。
俺が盾で受ける。
衝撃が腕に響く。
「斬るだけでは戦いは終わらぬ!」
シオンが踏み込んだ。
鋭い一閃。
飛龍の首が落ちる。
静寂。
だが、奥から重い足音。
親玉だ。
巨体が洞窟を塞ぐ。
咆哮が岩壁を震わせる。
カイルが前へ出る。
「今度こそ――!」
「待て!」
シオンの声が鋭くなる。
「怒りで剣を振るうな。それは守る剣ではない!」
「でも……!」
「だが、退くな」
その言葉に、カイルが顔を上げる。
「恐れを知れ。怒りを知れ。だが飲まれるな。それが騎士の戦いだ」
厳しく、しかし導く声。
カイルは深く息を吸った。
剣を構え直す。
親玉が火を吐く。
俺は前に出た。
「後ろは任せろ!」
盾で受け止める。
熱が骨まで染みる。
だが退かない。
退けば、あいつは突っ走る。
カイルが跳ぶ。
今度の動きは、荒れていない。
狙い澄ました一撃。
首筋に深く食い込み――
落ちた。
巨体が崩れ、巣が静まる。
息が荒い。
カイルは剣を下ろし、骨の方を見る。
「……僕は、間違っていませんか」
シオンが近づく。
「未熟だ」
はっきり言った。
カイルの肩が震える。
「だが」
シオンは続ける。
「未熟であることは罪ではない。未熟を認めぬことが罪だ」
「……」
「そなたは怒りに呑まれかけた。だが戻った。それでよい」
優しさはない。
だが信頼はある。
「守るとは、敵を斬ることだけではない。己の心を律することもまた、守りだ」
カイルはゆっくり頷いた。
「……はい、先生」
その言葉に、シオンの目がわずかに柔らぐ。
「よろしい」
俺は盾を背負い直した。
……なるほどな。
こいつは厳しい。
だが、ちゃんと見ている。
カイルの強さも、危うさも。
俺は口を開いた。
「帰るぞ。街が待ってる」
洞窟を出ると、夕日が山を赤く染めていた。
カイルは振り返らない。
だが、その背中はさっきより少しだけ落ち着いている。
未熟な正義。
それを正そうとする師。
そして――
止める盾。
面倒事に巻き込まれちまったみたいだ。
だが、悪くない。
あいつが人間として育つなら。
俺は、何度でも盾を構える。
勇者は強い。
けれど、それだけで世界は救えません。
ダグラスの役目が、少しずつ見えてきます。
続きも読んでいただけたら嬉しいです。




