第12話:なぜ俺だったのか
森を抜け、次の町へ向かう街道。
夜。
簡素な野営。
焚き火の火が小さく揺れている。
「構え直せ」
シオンの声が夜に響く。
「重心が流れている」
「はい、先生」
カイルの剣が風を切る。
昼間から続く修練だ。
疲労が溜まっている。
だが止めない。
「止まれ」
シオンが手を上げる。
「考えろ。斬るとは何だ」
カイルは息を整える。
「守るための手段です」
「浅い」
「……選ぶための力です」
少し間。
「よい」
短く頷く。
「今日はここまでだ」
カイルが地面に座り込む。
「はぁ……」
若いな。
まだ無理が効く年だ。
俺は水袋を投げる。
「飲め」
「ありがとうございます」
しばらく沈黙。
焚き火がはぜる。
「ダグラスさん」
「なんだ」
「……兄さんが、どうしてあなたを選んだのか」
来たな。
「僕より強い人はいくらでもいる」
視線が真っ直ぐだ。
「先生もいる」
シオンは何も言わない。
「なのに、どうして“盾使いのB級”だったのか」
自虐は入ってない。
純粋な疑問だ。
俺は焚き火を見る。
「さあな」
肩をすくめる。
「俺にも分からねぇ」
カイルが少し俯く。
だが俺は続ける。
「だがな」
火の粉が舞う。
「強ぇやつは前に出る」
「……はい」
「正しいやつは、理屈を語る」
シオンが静かに目を閉じる。
「俺は違う」
盾を地面に置く。
「間に立つ」
焚き火の光が鉄を照らす。
「どっちが正しいか分からねぇ時」
「誰を殴ればいいか決められねぇ時」
「とりあえず、殴らせねぇ」
カイルの目が揺れる。
「お前は強い」
「先生は正しい」
「だから、暴走する可能性がある」
はっきり言う。
「その時、止めるやつが必要だ」
沈黙。
「兄さんは、それを見たんじゃねぇか」
カイルが小さく息を呑む。
「僕を……止めるために?」
「違う」
俺は首を振る。
「戻すためだ」
あいつの目が、あの夜と同じになる。
迷って、震えて、それでも前を見る目。
「お前は行くやつだ」
「先生は導くやつだ」
「俺は、帰らせるやつだ」
それだけだ。
それ以上でも以下でもねぇ。
しばらく誰も喋らない。
やがてカイルが言う。
「僕、怖いです」
「何がだ」
「もし、僕が戻れなくなったら」
正直だな。
いい。
「その時は殴る」
俺は笑う。
「盾でな」
カイルが吹き出す。
やっとだ。
「痛そうですね」
「痛ぇぞ」
シオンが静かに言う。
「某も斬る」
「先生まで」
「迷えば叩き直す。それが師だ」
火が揺れる。
カイルが真っ直ぐ俺を見る。
「……だから、あなたなんですね」
俺は鼻を鳴らす。
「買い被るな」
だが。
盾の重みが、少しだけ変わった気がした。
紋章は光らない。
だがそこにある。
祈りじゃない。
覚悟だ。
夜空に星が広がる。
世直しの旅は続く。
強くなるだけじゃ足りねぇ。
戻れる強さもいる。
そのために。
俺はいる。




