第11話:揺れのあと
夜が明ける。
森は静かだ。
静かすぎる。
カイルは起きていた。
眠れていない。
焚き火の前で、剣を見つめている。
「寝ろ」
俺が言う。
「……少しだけ、考えてました」
「考えすぎは体に悪いぞ」
冗談のつもりだが、あいつは笑わない。
「僕、怖かったです」
素直だ。
「勝てるかじゃなくて」
少し間を置く。
「選んだのに、守れなかったらどうしようって」
そこだ。
成長の副作用。
「震えて当然だ」
俺は隣に座る。
「震えねぇやつは、何も背負ってねぇ」
カイルは黙る。
「でも」
「でも?」
「先生やダグラスさんがいるって思ったら」
少し笑う。
「踏み出せました」
依存ではない。
信頼だ。
悪くない。
だが。
シオンが近づいてくる。
「甘えるな」
きっぱり。
「昨日は一人だった」
「……はい」
「昨日の一歩は、己の足だ」
厳しい。
だが正しい。
「誇れ。だが酔うな」
「はい、先生」
ようやく笑う。
ほんの少しだけ。
⸻
同時刻。
聖堂騎士団の野営地。
隊長が報告を受けている。
「勇者が介入し、暴走体を討伐」
「……勇者?」
「名はカイル」
沈黙。
「上へ報告だ。異端の可能性も含めてな」
政治の匂いだ。
⸻
さらに遠く。
黒衣の男が森の残滓を拾い上げる。
「核は破壊された」
だが笑う。
「十分だ」
霧の中に、微かな“亀裂”が見える。
「勇者は揺れる」
「揺れれば、隙が生まれる」
指先で空間をなぞる。
遠く、王都の方向。
「次は、信仰だ」
闇が閉じる。
⸻
昼。
村人たちが礼を言いに来る。
「ありがとう!」
子供が笑う。
守れた。
だがカイルは少し遠い目をしている。
「どうした」
「……僕、強くなります」
「もう十分強ぇ」
「違います」
首を振る。
「選び続けられる強さが欲しい」
いい目だ。
だがまだ若い。
シオンが頷く。
「ならば修練を増やす」
「望むところです、先生」
俺は肩をすくめる。
「面倒事が増えるな」
カイルが笑う。
「巻き込んでます」
「自覚あんなら上等だ」
だが空は重い。
見えない圧がある。
聖堂騎士団。
王都。
黒衣の男。
静かに、包囲が始まっている。
俺は盾を背負い直す。
紋章は光らない。
ただの鉄だ。
それでいい。
祈りは“常に”じゃない。
本当に必要な時だけでいい。
世直しの旅は続く。
だが。
次は村じゃ済まねぇ。
もっと大きい。
もっと厄介だ。
面倒事に巻き込まれちまったみたいだな。
本格的に。
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